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029 変わり者

 来るべき時が来て、島に掛けていた記憶を操作する魔法が解けていた。僕は思い出す。


 鎌を肩に背負い直すとアオイは『じゃあまた』と幾分か上機嫌な様子で高く地面を蹴り上げ見る間に塒の岩場へと去って行く。一方フェレリアス様もさすがに少し疲れが見えた表情で大きなあくびと背伸びをして遠くの群青の空を見つめていた。


 島を横切る海風が強く吹き抜けた。抱きかかえた水晶玉が微かに左右に揺れ動き、玉の中心が微かに青白く光る。合図だった、気づかれないように約束した秘密を守るためフェレから背を向ける。   

「随分と壮大な願い、といいますか野望だったのですね」

「でも本当に師匠が望む希望が見えたのですかね? 確かに二人は何か……雰囲気が少し変わった気がしますが。アオイもフェレリアス様の関係も今まで通りな気が……」

 半信半疑で心の中での呼びかけに一呼吸置いて水晶玉中心がわずかに青白く点滅する。


「そうだねぇここ最近、いや君たちにとっては数十年かなぁ? 先代の島渡りした巫女、そして君のお兄さんお姉さんが島に訪れて少しずつあの二人の関係と心は変わったんだよ」


 先代は札を貼った和傘を残した者、そして兄さん姉さんがこの島に? 

 そんな筈はないだって二人は僕が島に来るまでいつも一緒に遊んで過ごして……あれ? そういえば今になって思い出す、ほんの微かに香る独特な臭いに。


「君がこの島に来ることが大人達の話し合いで決まったすぐ後、二人はこの島に来て君が生活出来るように最低限生活環境を整えたりフェレリアスとアオイに挨拶したり。先代の巫女と沢山話をしてこの島が単なる化け物を閉じ込める為の島ではないのではと疑問を抱いた」

「でも兄姉の二人は巫女としての適正は高いとは言えない、だからやむなく君を島渡りさせ島の外から君を手助けして島の真実を解き明かして欲しいと願ってたよ」

 全然知らなかった、そんな素振りも見せなかった兄さんと姉さん。最後まで島に行くことを心配して嫌なら行かなくてもいいと言ってくれていた二人、でも心の中では僕に期待してくれていたと水晶玉から響く声が。

「最強である僕だって多くの人に支えられ慈しまれた。あの二人に例へ今は嫌っていても、必要のない存在でもいつか大切と思える誰かが必要になるんだ。師弟の関係は終わったとしても独りよがりな願いでも、最強の魔女の力を使ってでも僕はその望みだけは叶えようと思う。ずるい元師匠しょ?」


 いつか師弟の関係を終わらせ巣立っていく、目前を飛ぶ親小鳥が子鳥を巣立ちさせる時には辛辣に子供を置いて飛び立つように。


「良いと思います。僕もあの二人が成長していく姿、気になります! それに僕だけだといつこの島で黒き化け物や荒れる自然に襲われてのたれ死か分かりませんし。こっそり二人を見つめながら、非常時にアドバイスをくれるならゲフトさんの水晶玉を持ち歩いて過ごします!!」

「この島で僕と君だけの秘密、いいね、秘密は多い方が楽しいよ!!」 

「また魔力を貯めて千年後、今までより間近でフェレリアスとアオイを見つめ思い出話とするのが今から楽しみだなぁ~~」


 優しげな声だけで表情こそ見えないが、確かに魔女ゲフトは子供のような満面に笑みを浮かべいるに違いなかった。巫女である僕(海晴)、千年先まであの二人には見えない聞こえない意地悪な魔法を最後に自分にかけて、水晶玉にその身を宿した師匠は僕の腕の中でフェレリアスと同じ空を見つめて。そのほんの一時の見守りのお手伝いを僕と次の巫女、そして次の後任の巫女とバトンを引き継ぐ。結末を見られないのは残念だけれど、この限外島での少し殺伐としながらも緩やかに時間の進む島暮らしはまだしばらく続きそう。


「でも出来れば持ち運びを考えると水晶玉……小さくしたり。あと黒き化け物ですけど、僕を襲ったり島を侵食しなく出来たりは?」

 ゴロゴロ、水晶玉は抱きかかえた腕の中で独りでに半周左右に転がる。

「うーんはは、小さくは簡単だけど。化け物も好きで襲ったりしてる訳じゃないからね。本能的に、それに良いところ悪いところ全てを平等に慈しむのが最強魔女である僕の主義、愛そのもなんだよね~~!!」

「そ、そうですか……じゃあ大きさだけお願いします」

「そんなに畏まらないでさ、今日から君とは姉弟……いや、相棒だね!」

「これから千年、毎日が楽しみっははは~~」、 


 世界を嘗て統べたという最強の魔女ゲフト、フェレリアス様が言うようにどこかズレている感じで僕のような小さく弱い人間とは考えを含め何か違い、箍が外れているのだろうか。

 もしかして僕はとんでもない人、いや魔女とこれからの島暮らしでパートナーを組んでしまったのではないか? 世話を焼かせて面倒をみないといけないフェレリアス様、それだけでも大変だったのに? アオイにも少し怖いぐらいの独占欲の好意を持たれている気がするし……兄さん姉さん本当はやっかい事を僕に押しつけてません? 実家での掃除当番、食事当番、得意だからって良いように当番変えられてた気がする。


 手を合わせ目を閉じ、いつもの言葉に更に願いを足して。


「……ああ、うか今日も、化け物に喰われませんように。生き残れますように」


 絶海の海に浮かぶここ限外島、それぞれの思いが交錯しながらまた一人の巫女としての務めを全うしいつか来る願いの終着点に向かって永久の時を過ごす者達と過ごす島暮らし。その物語はまだしばらく続くだろう。

 

 絶海の海に浮かぶ、少し不気味で奇妙な者たちが願い叶える為の理想の島の物語が。


                                  完

                                                                              

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