025 魔女の木
『ドンッ』
島の草木や空気を伝わり揺らす爆発音と共に、島の対岸のこの場所からでもはっきり分かる火柱が見えた。こうして島内ゲフトの魔法で飛び回る間も、師匠ゲフトの命によるフェレリアス様と大鎌の少年の殺し合いは未だ続いている。
ただ理由も無く何となく。二人の約束の決闘はもうすぐ決着がつくのでは無いかと、そんな予感が次第に胸から込み上げる不快感となってヒシヒシ感じる。
「さぁ、次の場所は何処が良いんだ~い。僕の魔法でひとっ飛びだよ? さぁ、さぁ!」
「えっとですね……」
考える、何か良い場所はないのかと。絶海のここ来てそう長くはない島暮らしでけれど目につき思い当たる場所、最後に相応しい場所に――最後?
もう時間が無いのだ。けれどその理由も良く分かっていない、頭が揺られていたせいかボンヤリと思考が纏まらない。でも行かなければならないのだ、この島の中に確かにあるだろうその場所に。
「あれ……? あの場所は確か――」
それは急に頭の中に浮かんできた。偶然なのか、過去の記憶なのか。
そんな曖昧でも、頭の思考の片隅に思い付いたその場所の方へと『魔法の絨毯』という浮遊し不安定な乗り物で、目指す方向へと手を伸ばして空を駆け抜ける。小さくもないが大きくもないこの島。場所さえ決まれば、世界最強の魔女の魔法にかかれば一瞬だった。
まるでこちらの思考を察知したように、ゲフトもほぼ同時にそのことに気付いたようだった。
「まさか、今日までコレも守り続けていたなんて。あの子は本当にやさしいなぁ、うん」
魔法を解き大地に降り立つやいなや、風荒び伸び放題の草が茂って足下が悪い大地を悠然と歩み出すゲフト。目指していた最後の地に相応しい目的の場所に到着した、そのことは声と背中越しに察する彼の表情や雰囲気で直ぐに分かった。
「でも久しぶりだねぇ~そうだね、君も随分大きくなったね」
長い間風雨にさらされながらゆっくり成長を重ねた時間経過を感じさせる、そのゴツゴツとしたその肌を撫でながらまるで人の子の成長を喜ぶように穏やかな視線で。まさかと思うが、それは久しぶりの親しい人との再会に喜びを示すように、枝葉をゆさゆさと揺らしている様に見えたのはただの吹き抜ける風のせいだろうか?
目の前に立つのは1本の古木。幹の太、枝葉の茂り、根の張りを見ても決して巨木という程では無い。ただ表皮には深緑の苔が張り付き、菱形の葉以外にも細く絡まる蔓のような枝、先端には真っ赤な瑞々しく艶めく果実が実る様は、長い年月と少し奇妙に映る樹。
今まですっかり忘れていたのだが。初めてこの限外島にたどり着いた後、フェレを探して島を彷徨っていたとき遠方に初めて見えた黒き化け物の禍々しい気配に思わず身を隠したその木だった。
「ねぇ君は知っていたかい、魔女は不老不死だけど……その魔女がなぜ弟子を育て、あの子達との別れをこうして悲しんでいるのかを?」
「あぁ、うん。それはね魔女達が守るべきルール、そして僕が作ったルールでもあるのさ。遠い昔のこと、あの頃のことだったね」
投げかけられた問いに『いいえ』と答える前にゲフト自らその解を述べる。地上に張られた根元から上空の風に揺らめく葉に移す虚ろな彼の視線、その様子に気付いて理解した。今の問いはゲフト自身と懐かしい再会をしたこの樹木に向けられた物なのだなと。
この場所こそが、世界最強の魔女ゲフトが目指していた約束の場所にして、弟子達との最後の約束を果たす場所だった。




