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024 求めし場所

「フェレリアス様は大丈夫だろうか……」

 案内するとは言ったものの不安で気になって、トボトボと歩く足取りは重い……正確にはゲフトの飛行魔法で上空を歩いているのではるが。


「えっと次は」

  未だ続いているフェレリアス様と大鎌の少年の決闘をよそに、二人の師匠ゲフトに懇願されて限外島の案内を引き受け島内を飛んで回る。正直言えば、此処へやって来てまだ1ヶ月も経っていなくて案内できるほどこの島について詳しくないし、分からない事の方が多いのだけれど、強引で神妙な雰囲気を醸し出す世界最強魔女に頼まれてしまっては断る事も出来なかった。せめてもの救いは地上を徒歩で歩くよりは安全で楽であるが、何もない上空2m程を移動するのは何とも不思議な気分で自分の中での飛行魔法のイメージとは違ったこと。

 

それでも引き受けたからには、自分の知る限り島内の見所を案内しようと考えつく場所を回ることにしたが飛んでいる分草木を搔き分けたり、泥濘みに足を取られることが無いにせよ、歩幅の分しか動けないこの飛行魔法は便利なような不便なような。魔女の考えつくことは良く分らない。


 島での日常で大地に穢れが広がっていないか、巡回を兼ねての散歩がまさかこんな時に生きてくるとは思わなかった。周囲から世界最強魔女と称されるだけの魔女だ、大抵の物事や現象を自在に引き起こせる師匠ゲフトにとって、果たして立派な建物も観光名所ない化け物と草木が生えるだけのこの島を案内し見回ったところで満足感を得られるのだろうかと思うのだが――。



「へェ、こんな場所もあるんだね~~」

 なんて予想に反して、各所で丁寧に見回して『おお、すごいね』なんて感嘆の声を上げるのだった。子供のように率直に世喜ぶその様を見て、何だかこっちも嬉しくなってしまう。

 


 

「えっと次、ここはこの島で唯一飲み水が湧き出る池です」


少しでも面白いところと思って、島内を右往左往しながら先日穢れ浄化のため種をまいた場所。島で唯一の短い砂浜で当たりが見渡せる小高い丘に登ったりした後、次は島での生活に欠かせないこの場所へと降り立った。

 

「おお、すごいね。透明な水が砂底からこんこんと湧き出して、これなら飲めそうだね~」

ゲフトは水面に手を差し入れかき混ぜてみたり指先から滴らせ水と触れ合い、コップ一杯ほど手で掬い上げ後『ゴクゴク』と喉を鳴らして飲み干す。ただ湧き水を飲んでいるだけなのだが、『世界最強の魔女』という敬称があるだけで妙に神々しく見えるのはなぜか、分からないがそう思って。

  

「なんだい、巫女の少年君? 僕の顔に何か付いているかぃ?」


「い、いえ」

 首を横に大きく振る。かつてその強大な力、男とも女とも言えぬその妖艶な美貌で人々を惑わしたという。フェレリアス様といい、師匠ゲフトも相当な美男子で――って、何を考えてるんだ。深呼吸で意識を整える。


「飲めるほど綺麗な水なんですけど……この辺りは黒き化け物がよく彷徨いてるので、普段はフェレリアス様に水くみはお願いしています。本当に助かっています」


「へぇ~なるほどね。あのうフェーちゃんがね……そっかそっかぁ」


「確かに生き物にとって水は大事な物だし、特にヒトにとっては生活のためにも必要なんだよね。だからこうして、水辺の周囲や水底の雑草、落ち葉を丁寧に取ったり手入れを欠かさずにしてるんだね」 


「でも、こっそぉーりここで水浴びもしているみたいだね。二人の臭いがするね、ははっ」


「えっ、それ本当ですか?」

師匠ゲフトは魔法なのか、その時の様子を遡って見ているかのように言う。けれど多分何の魔法も使っていない、それでも二人の弟子の行動はお見通しの様だった。


 全くそんなこと知らなかった。家の中ではいつもだらけて、散らかしている位で。


 何時も黒き化け物が怖くて、水瓶が空になると器用に大きな木桶を両手と頭に載せて水汲みをお願いしていた。島での穢れの浄化をする交換条件として、島での安全の保証と最低限の生活を送るために魔女を使役できる……その約束があったから、当たり前のようにフェレリアス様にはお願いしてしまっていたのに。巫女である自分には、身を清める水が大事なものであるのは十分分かっているのに、甘えてしまって――

     

「この場所も凄く良い場所だけど……最後の場所には不適なのかなぁ」

一転してその表情に薄暗い影が満ちる。また違うのかと苛立ちか、焦りか、空しさか。


「そう……ですか。残念です」


「じゃ次の場所、行こうかぁ。案内よろしく、巫女の少年君!」

 湧き水で濡れた両掌で自身の顔を拭う。すると再び涼やかな笑みを浮かべ直し、けれども忙しなく手を引き次の場所へと向かうため歩き始める師匠ゲフト。何とかしてあげたい、フェレリアス様の為と、あの大鎌の少年を止めることが出来る唯一の師匠のために、とそう思うのだ。


「あのッ! どこか、どんな場所に行きたいんですか?」

 言いながらグイグイ引かれる手に足が縺れ転びそうになると、筋肉もなさそうな細い腕で軽々と持ち上げられて宙に浮いている。


「んー。あまり時間も残されてないから、飛びながら考えて行こうか?」


「はい喜んで!」

せめて元気よく返事を返すと、ゲフトは何故か頭を撫でる。


 そして最強魔女ゲフトは、いとも簡単に呪文を唱えるでもなく、呼吸する程にも自然に魔法を発動させる。フェレリアス様の激しく輝かしく光放つ魔方陣と魔法、大鎌の少年の禍々しく蠢く力の魔法とも違う、緻密で繊細で静かな魔法陣の上に乗り最後の場所へと向かっていた。

 

  

 

 

 




 

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