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002 島最強の同居人


 『彼の地 空より闇纏う化け物 落ちる島』


 現代の都市・町において、人の闇を喰い生まれ災いを齎すとされる化け物が確かに存在する。人の世の平穏を脅かすその化け物を魔術によって、捕縛し、幽閉する――そのための場所がここ、絶海の海に浮かぶ限外島。この島に住み魔力を生み魔術を使う唯一の魔女、フェレリアスが作り出した人工の島。その魔女は遥か昔、千年以上の前からその強大で強力な魔法を持って、悪しき化け物をこの島に押し込めてきた。 

 

 だがここ数百年余り、人が化け物を生み落とす頻度増し凶暴な姿で生まれるものが増え、彼女の力だけでは押さえ込むのが難しくなった――。


 そこで彼女は、特別な力を持つ人間の力を借りることでこの先も化け物を押さえ込もうと、この島に人を招いた。ある者は化け物を殺す事が出来る武器を作り出す者、ある者はその身を持って魔女の盾となる者、そしてある者は代々受けつがれる血により、悪しき化け物が穢した場を払い清める巫女としての力を持つ者を――




「ぐぅーーすピぃ~~~むにゃ」


 銀色の砂浜が広がる海岸から数百メートルほど離れ、周囲に低草が広がる平地の一角に、地面から岩盤が競り上がって一段高くなった場所がある。そこに風雨に晒されて黒ずんだ平屋の木造の家があり、そこに1週間ほど前からとある同居人とともに暮らしている。言うまでもないのだが、この絶海の孤島であるこの場所には電気やガス、上水道といった現代日本にならまず当然のように存在するライフラインが無いのだ。これだけ聞けば、正に自給自足の島暮らしといったところだろうか……。

 

 ただそこまで心配する必要はない。それらの不便さを帳消しにする存在が、目の前の床の上にいるのだから。


「起きてください、もう日は昇ってますよ」


「むにゃーーうーーもう少し、すぴー」

 所々木の節に穴が空いた床板の上で布団も引かず、その橙色の艶めかしくさらさらと靡く長髪の上に大の字で胸元を肌蹴、無防備な姿で寝ているその少女。いや少女というには、程よくふくよかで柔らかそうな肉つきで、胸部や臀部の凹凸はとてもスタイルのいい女性らしい体型、そして年齢も自分より遥かに長い時を過ごしているという……。


 ただ余りに性格が子供っぽいので少女のようにしか思えないときがある。それか実際にはうちの家族には居ないが、妹というべき存在のような。ただ本人は姉のような態度で接しているつもりなのだが。とりあえずこのだらしない姉をいい加減に起こそう。



「ご飯先に食べてしまいますよ」


パチッリ

 その瞬間、閉じていた瞳がカッと見開き覗き込んでいた視線とぶつかる。相変わらず食事にはどんな精神状態でも即座に反応をする。

 

「うッ~~ん、おはよう、海晴」


「はい、おはようございます、フェレリアス様」

「もーフェレリアス様じゃないーでしょ。フェレちゃんですー」


 床にあお向けに寝そべったまま、不満そうにほほを膨らましこちらを睨んでくるフェレリアス様。一々付き合っていてもしょうがないので、俺は無理やりフェレリアス様の手を取り上げて引き上げるように起こし、触る場所に気を付けながら両脇腹の直ぐ下あたりを両手で持って立たせる。そうして、ブウブウと不満げな声をあげる彼女から翻って、家の奥に備え付けられている簡易的な台所に歩むと、直ぐ目の前を指差しながら、振り向いてフェレリアス様を見る。


「すいません、フェレリアス様。火をお願いします」


「強情な子ね……もう、フェレちゃんって言って――」

「火を、フェレ」


 100歳をとうに越える彼女をちゃん付けして呼ぶのはさすがに、自分自身の中の何か越えてはいけないものを超える気がしたので、呼び捨てにしまった。だが振り向きざまに見た彼女は不機嫌になるどころか、にやにやと含んだ笑みを浮かべ上機嫌になり、右手を胸の正面へと伸ばし人差し指と中指を交差するようにして弾いた。彼女は何と魔法が使え、その魔法があれば、多少の不便があってもこの絶海の島でも生活が出来るのだ。



『漂いし魔力、渦巻きて粉火となせ』

 ボンッと破裂音を伴って指を指した付近、島の外から持ち込んだ七輪の上に渦巻く火柱が50cmほどか経ちあがった。思わずその火力に仰け反って避けたつもりだったが、焦げ臭い匂いが立ち込めるので何かと思い目線を上げれば、前髪の先が焦げていた。


「あー……うん、ごめんなさい。てへっ」

「てへっ、じゃないですよフェレリアス様。炭に着火するのにそんな火力いらないです、分かりますよね?」


 顔の前で両手を合わせ謝る仕草をし改めてフェレリアスは七輪の前に立って、今度は魔力出力に細心の注意を払って種火の乾いた枝葉に火をつけ、料理のための火を作った。ようやくその火を使って、簡単な遅い朝の朝食を料理した。



「ふ~おいしかった。さすが、都会っ子の料理は美味しいわーねー~」


「都会っていうか、ただ島の外からきた、ただの少年の料理ですが」


「謙遜しない、しない~」


 料理名もない島に居る怪鳥の卵を使ったスクランブルエッグと、同じく恐らく島の外には居ないであろう剛毛に覆われた名前も分からない牙の生えた獣の肉を日干しして、ベーコン風にやいた肉である。数少ないまともな生物の……辛うじて島の食材として人間が食べられる食材が存在している、味は悪くは無いが見た目が。


「お粗末さまでした。でもいつも、食材の調達ありがとうございます、でもこれフェレが取った……ってわけではないですよね?」


 普段、化け物以外の動物の狩りの真似事を見た事は一度も無い。その上、丁寧に血抜きされた状態で食材としてどこからか持ってくるのであるので、不思議に思っていた。


「ふふ~~そのうち、入手先は教えてあげるわ~~」

「さてっと~」


 質問を適当にはぐらかし朝ごはんを食べて上機嫌なフェレリアスは、軽やかに立ち上がると奥の押し入れを改装した自分専用の部屋に入っていってしまった。その部屋の引き戸には色褪せた紙に『立ち入り禁止♥』書かれて、許可無く立ち入る事は許されていない、さながら秘密の部屋といったとこだ。一体どうなっているのかは……正直、余り想像したくはない。


「あれでこの島の最強の魔女だものな……」

 

 ひとまず、二人分の食器を片付けるため、再び台所にたつのであった。



 


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