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019 水晶玉

「うぅっ 頭痛が、それに体が重い」


 夢のせいで寝ていた気がしない、ゆっくりと体を布団から起こすと開け放たれた窓の戸から眩しい日が差していた。差す日の光はまだ低く僅かに赤みを帯びて、まだ日の出の時間からはそう経っていない、今の時間は……


 『おはようございます、フェレリア様』と朝の光を取り込むために、戸を開けたと思われる隣にいるはずのフェレに挨拶をしようと姿を探すが――



 フェレリアスの姿がない。


 隣で並んで寝ていたはずの布団が折りたたまれ、部屋の隅の壁に押し当てられている。


 改めて周囲を見渡すと、何時も向き合って座るちゃぶ台の対面定位置に湯飲みだけがが逆さに置いてある、これは朝食を取ったフェレがしている癖で最近に知ったこと。無いと言えば、魔法で大抵の事が出来る物欲の乏しい彼女にとって数少ない私物であろう、玄関の戸を閉める際の心張り棒にも使う木の杖もない。魔女ほどにもなると、本人曰く持たなくても差し障りが無い、だが改まって形から入る際には必要というそれが……。


 

 言いようが無く何となくだけど、嫌な予感がする。


 あんな夢を見たせいだと思うけど……。温もりが残る布団を払いのけ立ち上がり、実家社での巫女の修練の時を思い出すように気持ちを落ち着け、呼吸を整えて思考を冷静にする。


「とにかくフェレ……リアス様の居場所を見つけないと」


 だが大きくない島とはいえ、島一回りすれば自分の体力では1日や二日、横断するにしても『黒き化け物』に気を配っていたら半日はかかる。単なる散歩に出かけた位ならいいけれど、巫女の家系のせいなのか吉凶事の予感が当たってしまうのだ。


 最短で見つけなければ、万が一島最強の魔女に何かあってからでは遅い。もしも……そうなったら、三日としてこの島で生きていくこと何て――いや、そういうことじゃなくて。もし コレが逆の立場だったら、直ぐに自分の居場所を察知して飛んで駆けつけてくれる、と思いたいのだけど。何せ魔女ともなれば『島のどこにいても分かっちゃうのよ』なって言うぐらいなのだから――



「待てよ、こっちの微かな気配も感じ取れるなら、フェレの強大な魔力を感じ取れば……?」

 その理屈が合っているのは分からない、魔法使いで無い自分は魔力を直接感じる事は出来ないから。

 けれど巫女としての力、それは元を辿れば魔女への信仰とそれに応え授けた神器から浴びた魔力によりもたらされ進化させたもの。だから、巫女の力を介して間接的に魔力を感じられる、それでもこの島には『穢れ』という不純な物がそこら中にあるから今までは……。


 ビチャ、ビチャ。

 いま考えている時間はない。台所に置いてある海晴神社から湧く清水を頭から湯飲み半分ほどふりかけ、島で生活するなかで纏わり付く僅かな穢れも清め祓う。自身の呼吸、全身の触覚、境内杜の中で静かに佇み風の音を聞く……そんな周囲の空間に意識を広げるイメージで――



「………………分かった!!」


 人間もやれば出来るものなんだなと、今の自分を褒めようと思う。目を見開いた先から右手方向、方角にして北西に何か大きな魔力のようなものを感じた。それに、直ぐ隣で魔力とは違う、ぐちゃぐちゃの黒い禍々しい感じの気配も。



「場所さえ分かれば何とかなるはず……急いでむかえばッ」

フェレリアスア様の居場所が分かったことに嬉しくて、寝間着のままと言うことも忘れ、勢いで走り出そうと駆け出して直ぐ、足の指に痛み。小指に強烈な衝撃の痛みが走った――


「いッったァ!?」


 この痛覚はよく体験する痛み、足の指に机の足の角、タンスの縁に、床の段差に――何にぶつけのだろうか? 普段だらしない様子のフェレリアスだけど、きれい好きで何でも魔法で出来るため物欲が乏しいのか、部屋の中はしっかりと片付けられている。魔女に仕える身として、自分も掃除洗濯などは欠かさないのだが。



 『濁った水晶玉』

 

 その表現が一番合っているかもしれない。玉の中に黒い靄がたちこめて、それでも微かに球体中心が淡く白く光る。その光は規則正しく強くなったり弱くなって消えそうになったり……それは心臓でも鼓動するようにもみえる。



「何でこんな物が。でも持って行け……ってことなのか、たぶん」

 コレがフェレの物かは分からないが、少なくとも今までこの家の中で見たことが無い。


 だが夢で出てきた水晶玉には違いない、脳裏に焼き付く夢の映像から確信出来た。そうでなければ理由無くこんな所に転がっているはずがない。今考えている嫌な予感の真偽ももちろん、あの夢と声の主のことも気にななる、問いただすそのときにこの水晶玉を見せつけてやろう。


 

 考えている時間がもったいない、急ぎ着替え出かける支度を調えた。最後に足下に転がっている水晶玉を拾い上げ、穢れ祓いの小道具を入れる風呂敷に包み背負って家を後にする。何時ものように祈りの言葉を呟いて。


「化け物に喰われずにたどり着けますように」




 




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