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014 嵐の島と大鎌の少年

「んーーどこまで話した……そうそう、化け物の増え方と何でそんな危険な存在を出現するまで放っておくか だったかしら?」

 全ての生き物を敬う巫女としてあるまじき失言によって、中断した話をフェレは一つ一つ思い返すように指折り数えながら、『黒き化け物』と『大鎌の少年』の話を再び始める―ー。



 『黒き化け物』を殺してはいけない理由ね……それも幾つかあるけれど、ただ単純に彼等は強いって事、それはどうしてかねっ。


 海晴も知ってるとは思うけど、『魔法』は『願望を叶える力』なの。つまり、『魔法』の力は『願望』っていう人間の持つ『精神』によって引き出される力。でね、あの化け物は、宿主である魔法使いの持つその『魔法』と『願望(精神)』の相互作用の関係を書き換えて、恐怖・快楽・喜怒……とにかく、人間の全ての精神と相互作用するようにした進化した魔法であり力、それが『穢れ』なの。それ自体は悪い事ではないのだけれど、あらゆる精神に影響されて発現する力だから制御困難なのよね。絵の具をごちゃまぜにしたら真っ黒なる――『魔女』の立場から言わせて貰うとね、進化の方向は間違ってると思うわよ。 とまあ、『穢れ』をイメージで説明すればそんな感じ。


 だから彼等に恐怖と殺意を持って接するれば、立ち込める黒い穢れの霧は一層濃く殺意の影響を受けた漆黒に纏わり、彼等自身も力を増すの。そううよ、私達魔女が老いない不老不死なら、『黒き化け物』はありとあらゆる物を取り込んで成長する混沌、ブラックホールかしら? そんな自我も儘ならなくなる力に飲まれる事が、本当に彼等の本意なのかは分からないけど――。


 フェレリアス様は、ここまで上機嫌でもくもくと説明したところで、再び話を止めて今度はぼーっとうつろな瞳を向ける。そして、何か閃いたのか、拳を握った右手を左掌にポンと叩き腕組み胸を張る。



「はぁ~~い みはるぅーーにここでクイズね。そんな、近づいて『こわいっ』『気持ちワル~~い』って思うだけで強くなっちゃう化け物に、どうやって対処すればいいかしら? 早押しよ? はいっスタート」


「何ですか突然」


 こんな電気も電波もろくに有るはずも無い無人島で、夕食時の家族一同勢ぞろいで見るようなクイズ番組を連想させるフェレリアス様。一体どこで知ったのか……そっちも疑問なのだが、と思っていると『ぶーー 時間切れよ』と、頬に空気をふくませ膨れっ面をしてみせる。深刻な話をしていたのか、はたまた今までの話は冗談だったのかと疑う訳ではないけれど、もやもやする。


 それでも、フェレリアス様の話す言葉に嘘は感じられなかったからら、『分からないので、教えて下さい』と上目使いで懇願してみる。すると、フェレリアス様はにやにやしながら、『もう、海晴ってばしょうがないんだからーー』と言葉の割りには嬉しそうに。


 島に来て1ヶ月もたたず、自分でも魔女の扱いに慣れたものだと思う。


「正解はっ――」

「は?」

 もったぶって目を数秒つぶってから、両手を前に突き出して正解発表。


「知らんぷりするの、まるで無かった事にね。名前を付けない、記録を残さない、化け物が発芽発現したら即座にこの島に私の転送魔法で叩き落す……彼等にとって人間の心は、『穢れ』を増す餌でしかないの。とにかく、出現したら直ぐに五万といる人間から引き離す事が必要、というかそれしか方法ないわね」


「だから、殆ど本土ではニュースにだってならないはずよ。不安自体が彼等を助長するから、報道も規制してるのはあるけど」


「えっ……わ、分かったような、納得いかないような。もっと他に――」 


「えっとーーぉ。これで大体『黒き化け物』の事は分かったでしょぅ。あとは……あの『大鎌の少年』が何かってこと ね……はぁ~~……」


 一体、どんな凄い答えが正解だというのか? と期待をしたが、その答えは余りに大雑把というか……。確かに、本土で化け物が出現した際は、即座に魔女の住む島に送るとは聞いたことがあったけど、そんな理由だったとは。理解が追いつかない自分を置いて、周囲を気にかけるような少し落ち着かない様子で構わずフェレリアス様は、怒涛の説明を再開する。

 ただ、あの少年に関しては、話す事も露骨に不満そうにする……というか、興味が無いという感じだろうか。


「あの子は……ねぇ。とにかく『黒き化け物』以上にメチャクチャで、出鱈目な子なの、それだけよ」

「それだけ、ですか?」


「なに? みはるーー不満げーー。あと何が聞きたいの?」



 先ほどまでの『黒き化け物』の説明も、正直途方も無い話に思え全てを一度では理解しきれないしまだわからない事が沢山あったのだが、それを遥かに超える適当というか中身の無い説明に、どう質問を返せば良いのかすら分からない。明らかに『黒き化け物』と比べて、説明に歯切れの悪さというか、何か隠そうとしているのは分かる……理由は不明だけれど。


 ただ一点分かったのは、魔女という人間を遥か凌駕するフェレが目茶苦茶というのだから、相当なものだろうし、あの夜に首を刎ねられず無事で生きている事が奇跡なのかと思うと、手足の先から血の気が引いて身震いして頭痛と尿意を催す。だがこれでは流石に、あの大鎌少年に対し何に気をつけて、どう対処すれば良いのか皆目検討も付かないのは、『黒き化け物』の気配にすら怯えている日々に加えてとは、身が持たない。


「フェレリアス様、あの出来ればもう少し具体的に…………あの異様な大鎌のこととか、二人の関係とかその辺を」


「あの子の大鎌ねぇ。あれはく―― ゲッ 来た゛あッ」

「なに が――」


 ピカッ!! ズドーーンッ!!

 

 その時だ、この木造の古びた屋敷を衝撃で揺らし、耳を劈き目も開けられない閃光が時間にして数秒ほど。だが感覚としては1分程度の長さを感じる落雷が、すぐ近くへと落ちた。本土でも島でも聞いたことのない轟音。

 島全体に轟くだろう雷撃に俺は後方にバランスを崩し、驚きと恐怖を感じながら仰向けに崩れ落ちるが、程なくしてやわらかく、甘いにおいがする暖かい塊に包み込まれている事に気づく。


「みはーーるぅ 怖いの~~~? もう、しょうがないんだからっ。抱きしめてあげるわ、ふふっ ふ~~」


「あっッ げほッげッ はぁッ。 もう抱きしめられてますからッ、はッ。苦しいですから、離れてはなれッ 下さ――」



 ザシュッ ドーーン。


「えっ?」

 フェレがふざけて抱きしめてくるので前が見えなくて分からないのだが、また直ぐ近くで雷でも落ちた様な衝撃音が聞こえた。だが、稲光はないし、それに妙な気配というべきか、禍々しさを感じるのは気のせいか。


 と気配と思考を巡らせていると、フェレは一層強く抱きしめるというか、何やら抱き抱えたまま引きずるような動きを始め、微かに息の漏れる『ふッーーーー』という音というか動物が威嚇するような声を発する。



「いやぁ、凄い雨風だね。落ちてくる時は、毎度毎度こんな日だ」

「うぁ……本当に来たわ」

「ん? 抱き合って……相変わらず巫女と仲いいね。でも確かに、そうして体を密着してたほうが、巫女の浄化の力で蓄積した穢れも消えやすか。でさ、とりあえずさぁ、お茶でも出してよ、体冷えちゃったし」


 なんとかフェレの腕から逃れフェレと会話を交える人物を探すと、そこにはまさに大鎌を抱えた『大鎌の少年』と、無残にその鎌で一すじ切られた玄関の戸が外れ散乱していた。どうやら、『黒き化け物』の進入対策のためこの屋敷を覆っていた、フェレリアス様の防御結界をその禍々しい大鎌で叩き切ったらしい。


 フェレリアス様は俺の背に身を隠しながら、少年に向かって指を刺し『結界ごと馬鹿力で切るなんて、弁償よーーッ弁償』と叫んで、どうにか器用に髪を逆立て威嚇している。が当の少年は、まるでフェレリアス様に気にかけるでもなく、雷雨で茶染めの布を巻いただけの粗末な服についた水滴を払っている。島最強といわれる魔女に対してこの余裕、やはり只者ではないだろう。


「よくいうね。僕の居ないところで、僕についての有る事無い事、そうやって少年に耳打ちするつもりだったくせに。そんな声が聞こえたからお邪魔しただけだし」


「耳打ちが聞こえる、どんな地獄耳よ。それに、玄関の戸もろとも結界打ち破って入るなんて、お邪魔すっるっていわないのッ。ねッ、海晴!!」


「あっ……はははっ……」


 同意を求めてくるフェレリアス様。確かにとこれに関しては全面的にフェレリアス様に賛成だが、ひとまずフェレリアス様と少し距離を取る。そんな、魔女の尻に敷かれている俺に呆れているのか、少年は気だるそうに一つ息を吐いてから、靴も履かず泥汚れの素足のまま室内に上がると真っ直ぐ歩み寄って――


「聞きたいことがあるなら、僕に直接聞けばいいよ。あ、但し、さっきの雷。新しい『黒き化け物』が落ちてきたみたいだから、長話は…… ああ、一緒に付いて来たら教えるよ」


「勿論、来るでしょ?」


 少年は肩に担いでいた大鎌をこちらに振り向けるけ、半ば脅のような状態で言ってくる。フェレが無茶苦茶という存在、断ればここで首を刎ねるとでもいうのだろうか。さすがにそれは無いと思いたけど、まるで隠すつもりが無い殺気にような気迫を放ち続ける目の前の少年に、『行きます』と了承し頷くしかない。

 ただ、脅されるままにという訳ではない。この少年にも興味はあるし、なにより先ほどの雷、予想が間違っていなければ……この限外島に新たな『黒き化け物』が舞い降りた合図なのだ。今後、当分の間この島で暮らしていくのには、知る必要があるはずだから。


 フェレリアス様もそのことを分かってか――違う、自分で説明するのが本当に嫌なのだろう。いつの間にか立ち上がって乱れた髪や服の身だしなみを整えると、一番最初に玄関の土間に下り、腰に手を置きポーズを決める。デートでもたもたする彼氏に不満げなな少女……の風に見えなくも無い様子で。普段こうなら美人で頼りになって楽しいデートも出来そうだけど。雷撃轟く嵐の中、化け物に会いに行くという……行くって言わなければ良かったかもしれない。


「行くなら早くいきましょ。雨も少し弱くなったみたいだし、二人とも急いで」


「今準備しますから、少しだけ待ってくださいフェレリアス様」


「ははは。百聞は一見になんとかって言うしね。さて、新入りの住人に挨拶と行こうか」


 未だ雷と雨が降りしきる中、魔女フェレリアス様、未だ名前も分からない『大鎌の少年』と巫女服に着替えた俺の三人は、化け物が落ちただろう島中央の草原へと向かった。


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