表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/29

013 黒き化け物

「海晴がどこまで『黒き化け物』の事知ってるか分からないし、あの子の事に興味あるか分からないけど……嫌って言うまで教えて あ・げ・る 」

 魔女フェレリアス様は、今一度だけ、本当に聞きたいのか意思の確認をしてくるので、生唾を飲みながら頷くと、周囲を照らす照明用の魔法を消す。当たりは島特有の強い潮風と豪雨、そして時折閃光を放ち轟音と共に落ちてくる落雷の明かりだけで暗いこの屋敷の中、体から溢れ出る魔力でぼんやりと蒼白くフェレリアス様の姿に薄気味悪さを感じながら話が始まった――。




「海晴はあの『黒き化け物』が何から生まれるかしっている のかなぁーー?」


 口調こそいつも談笑するような間が抜けるようなフェレだが、暗闇の中赤黒く光る目は、今雨の中を闊歩しているだろう化け物達と同格、それ以上の力強さと恐怖を感じさせる。表面上では笑っているのだろうが、心の奥底では静かにこちらを見定めている目。


「巫女修行で教わりました。人間……ですよね。信じたくはないですけど」

「そうそう偉いわ海晴 知ってるのね~~。 でも、もっと正しく言うなら、魔法使いよ」


「えっ?」


 魔法使い? 一体何をいっているのかと驚く、いや決して魔法使いという存在を否定しているわけじゃない。だが魔法使いと言うのは、文字通り魔法を使う者、魔女では無い人間だ。この現代においてそんな魔法使い達は、遠の昔に滅んでいると言うのが、誰もが知っている事実――


「驚いてる わね? 海晴ぅ~~ いいわ、もう少し具体的な話をしてあげる。一回しか言わないから、聞き漏らしたらだーーめッよ~~」

 予想外の事実に驚いている間もなく、フェレリアスは長い話ではるのだが淡々と、だが、おぞましい真実を語り始めた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 まず『黒き化け物』それは、穢れを放ちこの限外島に生み落とされる彼等の本当の名前ではない、いえ、本当の名前は彼等には無いに等しいの。理由は幾つかあるだけれど、一つは彼等の存在を白日の下に晒さないため、もう一つ、それは彼等の特製に関わる事。それをを説明する前に、海晴の知っている事、彼等の『穢れ』について、話をする必要があるのね。



 そもそも、『穢れ』って簡単に例えれば、そう『毒』かしら。あらゆる生き物、あるいは場所・物でもいい、生き物にとっては命を脅かし場所・物にとては風化劣化を引き起こすもの。でもそれだけじゃなくて、『穢れ』は『灰化』といわれる特有の事象を引き起こし、この世の物質としての生涯を終える……『消失』するみたいな表現が正しいかしら。んーまあ、それは海晴がこの島で、浄化の儀式を行う前に見る光景それね。で、その毒『穢れ』は、『黒き化け物』の体から放出し撒き散らされるの。


 そんな厄介な『穢れ』の力をもつ存在が『黒き化け物』なのだけど、じゃ、彼等は一体どこで生まれ何が目的で『穢れ』を撒き散らし、世界を恐怖させるのか?


 答えは単純明快よ? 彼等の正体……彼等の母体は人間。れもただの人間ではなく『魔法使い』で、彼等の種とも言える破片が落ち何らかのきっかけで発芽、成長し宿主を乗っ取った状態が化け物の正体。で、宿主が人間というのもあるけれど、彼等も歪んでるけど生き物でなら子孫を残そうとする、普通よね? でも彼等は成長する段階で、人間の本来持っている個々の知能や理性、集団での社会性、さらには生物としての根幹でもある生殖能力を欠損していくわ。そんな彼等に残るのは、根源的かつ短絡的な思考、他者排除の攻撃性と生物として僅かに残った生物として……子作りの思念みたなものかしら。


 さて現実、彼等に残された繁殖方法は二つ。一つ、所構わず周囲を穢し腐らせ、その灰を喰らい肥大化し、体を割って自らの片割れを作る……細胞分裂? っていうのかしら島の外の科学では? んーーと二つ目、数年に一度、成長した化け物同士、残された繁殖能力を補い合う様に融合し肉塊のようになって、『厄災を運ぶ白い花』て呼ばれる花弁のような組織を体表面に発現させ、そこから魔法使いに向けて種子を飛ばす方法ね。

 こちらの方が僅かながら、種としては少しばかり進化が望める、そう分かっているのか……不明なのね、でも花を咲かせることが多いのも事実。


 とにかく、そのどちらか二つの方法を使って、遥か昔より『黒き化け物』たちは、彼等なりに命を繋いできた――

 とここまで、フェレリアス様はさも間近で折々垣間見てきたかのような生々しい様子を語ると、ここで一旦話を止めた。雨が降りしきり、稲妻が走る窓の外を見つめて。


 おそらく此処までで、『何か質問がある?』と話を止めたのだと、理解した。



「えっと……冗談、ではないんですよね?」

「今の話、冗談だと思うの 海晴は?」


 念のために問いかけるが、フェレは疑問形でこそあるが即座に返答し返すので、それは間違いなく事実だという事は分かった。だが、だとすれば、悠長に話を聞いてこの島に隔離される『黒き化け物』の様子を見張っているだけで本当に良いのか!? 島の外では、今まさに化け物の感染が広がっていて――


「混乱してその、まず『魔法使い』とか、化け物行動原理とか……。そもそもですけど、そんな危険な『黒き化け物』を何で殺さないんですか? だって、魔女のフェレリアス様、フェレなら簡単ではないにしろ殺せるんですよね!? それに、本当にこれが事実なら、世間に公開して化け物狩りを――」



 バシッ!!


「い、痛ッっァ!!」



 明かりの乏しい島や実家の社で修行もあって暗闇でもそれなりの視界があるが、一瞬目が潰れたかのように視界を失いつつ、頬にに今まで感じた事の無い衝撃と焼けるような熱さが起こった。


「めッ! 駄目よみはーーるッ!! 巫女である貴方がそんな事いったらッ」

「えっ!? あっ…………そう、ですね。ごめんなさい、フェレ……フェレリアス様」


 恐らくは手のひらの形に赤く腫れ上がっているだろう右の頬を手で押さえなが、そっぽを向いてしまっているフェレリアス様に向かって、きっちりと正座し直してから頭を下げる。表情を伺う事はできないが、普段床で寝転がって幼顔でかわいげな少女のフェレリアス様とはきっと間逆な、恐々で煮え滾り噴火寸前のマグマのような怒ったフェレリアス様が目の前にいるのだろうか――。


 そう思って背筋を強張らせ身構えてしまうのだが、不意に頭をやさしく撫でてたかと思うと、雨音でかき消されそうな位小さくおだやかな声で呟く。柔らかな手で撫でられ、耳に届くその声は耳かきをされているような、何ともいえない心地よさだった。


「みはるぅ……。魔女に仕える巫女は常に清くないとダメだっって、でないと……ねっ? 分かるわよね、海晴なら。それに、続きの話『大鎌の少年』の事も聞きたいのよね」


 急にそんな態度をとられたら、どうしたらいいのか……。『魔女に仕えるのはいいが、絶対に魔女の妖艶に騙されるなよ』という、兄の言葉が思い出された気がしたが、残念ながらもう駄目かもしれません兄さん。

 こっそりと、海の向うの兄さんと姉さんに向けるように小さく頭を上下させ謝罪し、フェレににじり寄って、赤黒く光る目と視線を合わせた。



「はい……フェレが話してくれるなら」


「ふふっ、いいわ。知りたがりの海晴も嫌いじゃないわよ。続き……話してあげる 静かに聴いていてね? 質問は後でちゃーーんと、聞いてあげる」


「お願いしますフェレ」


 一向に止みそうも無い嵐の中、フェレリアスの話がまた続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ