001プロローグ 降立った少年
2008年 5月14日 午前9時半頃
空はどんよりと灰色の群雲が太陽を覆い隠さんと広がり、海原より吹いて来る風はほんのり香ばしいというか生物臭、それと塩見を感じる湿った空気。この独特な胸を不快にさせるような雰囲気は、此処には、否、この島一体に纏わり憑くように広がっているようだ。
この島にたどり着いてまだ1週間余り、眼下に広がるどこまでも広がる蒼い景色だけは良いのだが、この銀色の砂浜で、大きく深呼吸するのは躊躇ってしまう自分がいる。
正直言って、もしこんな島だと事前に知らされていたのなら、断固お断りとまではいかないが……姉さんか兄にその任を委ねていたかも知れない。きっと姉さん兄なら、きっと快く受諾してくれるに違いないだろうが、それでも自分が此処に来てしまったのは、まあ運命か定めという奴なのかもしれない。まあ、今そんな事はどうでもいい、代々継承されてきたという、それはそれは由緒と伝統ある役目を果たす、それだけだ。
と、この島にたどり着いて数日ばかりは、そう思うようにして自分を納得させていたのだったが、1週間もここで過ごしていると、妙な居心地の良さでこの島での生活も悪くないと思えている自分がいたのだった。
「さてと、そろそろ戻ろうかな」
時計が無いこの島では、正確に時間を知るには困難であるが、雲の隙間から刺すこの程度での光でもあれば影は出来るので、あとは方角と大まかな季節さえわかれば、いわゆる日時計の要領で時間は分かる――とこの島に来て直ぐに教えられた。それぐらい大雑把な時間感覚が分かれば、こののどかな島の生活においては確かに十分なようだ。
いや、のどかであるというのは誤解がある、決してそれはない。
ひとまず、日々の居住を行う簡易な家の場所へと、早朝散歩がてらの島の見回りを終えて、そこへ戻る事にする、お腹の減り具合ももう我慢の限界だし。それに、この時間ならば、いい加減に彼女も目が覚めている頃だろう、というか起きて居て貰わないと困る。
この限外島の掟であり、支配者である彼女には――