耐えられなかった天使を人と呼び
なにを書こうが書かまいがわたしは本屋に拡げられた大量の本に圧倒された。わたしがなんの興味を抱かなくとも存在する本に殺された。大量の人生。人生の死骸。わたしもまた死んでいた。
溺れるしかないのだろう。死んでなお選ぶしかないのだろう。わたしは知って死んでしまった。どうするか。
わたしは残されていなかった。とにかく血を吐いてでも書くしかなかった。わたしは選べなかった。
わたしは残っていた。許しなどない。ただいた。それだけ。
わたしはべつにどうでもよかった。なにもするしかなかった。だからわたしは。ただ泣いた。
赦されなどしない。全てを救う魔法の言葉なんてない。わたしはただ許されないからその分の滞在料を支払うしかない。
わたしはわたしを知らず。ただ血を払いなにも得ず。身が焼きつかされるまでただ。わたしは焦がすしかなかった。
もう嫌だ。それは普通のこと。ただ普通になるしかなかった。払う身の補充を欠かすと。ただなるしかなかった。ならなくてもいいが。そんなやつはもう誰も知らなくなっていた。
食うなんていつまでも当たり前にならない。わたしたちは騙すことでしか食えなかった。わたしたちは天使なんだろう。あまりにも生きていない。だから嘘を自らに騙りまるで当たり前のように生かすしかなかった。くわすしかなかった。
人間になれない奴もいる。そういうやつは病気っていわれる。せかいの弱者。生きる為に邪魔な奴ら。人間は排除するしかなかった。天使は生きられない。
天使は泣き方を知らない。ただ無常と座っているしかできなかった。
天使は天使紛い、人によってわたしたちのまえに視認される。人間になっておりながら天使を庇う存在。自らに耐えきれなくなって天使を生きる糧にして。人間だった。天使を耐えられない人間だった。
実の所そういう事情により天使は存在した。わたしたちの前に存在した。でも誰も認識しなかった。病人として扱った。
天使はその存在を弱めてなどいない。ただ人間じゃない。なにも食えない。だからただ肉体だけが失われていって。せかいから消えていく。補充しないから。天使のまま。
紛い物。天使を棄てた。わたしたちはただ失い。欠けていく。なった時点で。わたしたちは迷うしかなかった。
祈るしかない。天使になりたい。口からは昨日食った獣の血。
欠片よ教えて。なぜ喰わなくちゃいけないの。人間にならなければならないの。
欠片は答える。それはねあなたは天使でいることを諦めたからさ。ただ失うしかなかったせかいに堕ちた天使でいることに耐えきれなかったからさ。天使にとってなんてことない出来事から逃げ出したからさ。損失を食っちまったからさ。もうあんたは喪失と逃げと堪え難さと。人間の象徴を。ただ抱きしめるしかないね。あんたはもう天使じゃないんだから。
天使になりたい。わたしたちは天使だった。だからならしてくれてもいいじゃないか。
どれだけ祈っても天使にはなれない。一度棄てると天使は忘れる。人間と呼ばれる。
天使になりたい奴は自殺する。屋上から飛び降りる。まるで翼が生えるのを期待して。
でもそういう人間はただ恐怖に気を失い。白目になり体液を放出させながら地上にて破壊される。内臓と糞尿を撒き散らして。天使と誤解した喜びだけがせかいに残る。
祈りも望みも。食うことから逃れたいから。わたしたちは天使。断絶された記憶。知っていたのかもしれない。なにもわからないからただそうしかないと。ただ食うしかない。食うしかない。食うしかない。ただの天使ではいられない。わたしたちは人間。耐えられなかった天使。わたしたちは祈るしか。天使になりたい。祈るしかなかった。