31 迷宮4
アカネの魔法によって、何とか危機を逃れた。
正直なところ、不安はないとは言ったけど、心臓はバクバク鳴りっぱなしでしたよ。
でも、アカネは召喚魔法の応用を見事やってのけた。信じてはいたが、それでも感嘆の気持ちでいっぱいだ。
そして、アカネの意外な一面を見た。
アカネに負担をかけ過ぎたかと思ったが、アカネの顔を見ているとそれも違う気がした。
俺はマスターとして、アカネの成長を見守ることが必要なのかもしれない。
助けるのは簡単だけど、助けない決断は難しい。
アカネの成長のためには、助けない努力が俺にも必要だよな。
それにしても、最強の使い魔になるか……嬉しいことを言ってくれるな。
俺も頑張らないとなっ!
「ユーリ、どうしたの?」
人化したアカネがじっと、俺を見ていた。
「いや、何でもないよ」
「ふーん」
どうにも疑わしげに見られている気がする。
正直に言ったら怒られそうだし、言わぬが花ってことだよ。うん、ちょっと違うか。まぁいいか。
俺は再び扉に意識を向ける。
扉は前回と変わりはなく、俺より少し大きい両開き扉だ。
太々しく構えるそれをゆっくり押すと、新たな試練が俺たちを直ぐに待ち構えていた。
「ゴーレムか」
大小様々なブロックを組み合わせて、無理やり人型に見せているゴーレムが6体。
ゴーレムは魔獣でもなく、魔道具でもない。ゴーレムの定義は色々存在するが、ざっくりと言って魔力で動く人形だ。
目の前にいるゴーレムたちは、巨人という程ではないが妙な威圧感がある。
そして気になるのは、6体のゴーレムの色がそれぞれ違うことだ。右から赤、青、緑、茶、黄、紫だ。
「アカネ、最初に魔法をぶっ放す」
「うん」
「俺が合図をしたら同時に放つぞ」
「わかった」
アカネは魔獣の姿になり、俺の作戦通り魔法を放てるように準備する。
敵にまだ動きはない。
距離がある今のうちに、魔法で先制攻撃を仕掛ける。
俺は今できる最大火力をイメージしていく。
そうだ。密かに考えていた、とっておきを試そう。
(ユーリの顔がニヤニヤしてる……嫌な予感)
俺は全身の魔力を一点に集中させ、その身を龍に変えるような強いイメージをもつ。
(すごい魔力ッ……何するの?)
「準備はいいか?」
「ガウッ!」(んっ!)
荒ぶる力を抑えつけ、今にも放ちたいその魔力は膨れ上がっていく。
「3、2……1」
全力を込めて――――
『今だ!』
放つッ!
「火よ、雷よ、光よ。根絶の龍撃」
『ドラゴンブレスッ!』
俺の眼前に展開される巨大な魔法陣は、そのあまりにも大きいエネルギーによって空気を震撼させる。
そして、肌を焼くような高熱を発するのと同時に、魔法陣から龍の砲撃を思わせる極大の光線が放たれる。
ドラゴンブレスは俺の意思の通りに、横薙ぎに動きながら空気さえも焼き尽くすかの如く、地を削りながらその力を示す。
耳をつんざくような轟音が続き、気を抜けば転んでしまいそうな程、地面が激しく揺れている。
予想以上の力に、嫌な汗がダラダラと流れて止まらない。
死神に鎌を突きつけられているような視線が、直ぐそばから放たれているのは気のせいだと思いたい……。
ドラゴンブレスが徐々に弱まっていき、光線は細くなると完全に消え去る。
砲撃範囲の地面は溶けて、グツグツと煮えている。
肝心のゴーレムたちはというと、茶色のゴーレムを一体残して他すべては綺麗に消え去っていた。
茶色のゴーレムも無事だったわけではなく、右腕を欠損している。
見ると、茶色のゴーレムの前にはボロボロに崩れ去る防壁が存在した。
あのゴーレムはドラゴンブレスに反応して、防壁を創って攻撃を耐えたってことか。まぁ、そもそもの耐久力も高そうだけどな。
ドラゴンブレスを耐えた茶色のゴーレムをまじまじ見ていると、急に全身をピカピカと光らせ始める。
なんだ?
どこからどう見ても、何かヤバイことはわかる。
俺はアカネを近くに寄せ、扉の前まで下がる。そして、全力で結界魔法を展開した。
茶色のゴーレムの光に共鳴するように、倒したはずのゴーレムたちの体のパーツが現れ、その形を完成させていく。
いつの間にか、茶色のゴーレムの右腕も元に戻っている。
ほんの数秒で、俺たちがこの部屋に入った時と同じ状況になってしまった。
マジかよ……茶色のゴーレムには仲間を復活させる能力もあるのか? これは中々に厄介だ。
「アカネ、作戦変更」
「ガウ」(うん)
「まずは茶色のやつを真っ先に倒して、その次に他のやつを倒す」
「ガウッ」(んっ)
倒しても復活させられたらキリがないからな。
あと……
「前衛はアカネに任せた。後衛は俺に任せろ!」
「……ガウ」(……ん)
前までの戦闘は俺が前衛で敵を引きつけ、後衛のアカネがサポートしトドメをさす、という流れだったが、これだとアカネの身体能力を活かしきれない。
それならアカネに前衛を任せ、多少扱える魔法が多い俺が後衛に徹する方が、アカネの長所を活かせた戦い方ができるはずだ。
「よしっ、戦闘開始だ!」
「ガウッ」(んっ!)
読んで頂きありがとうございます!!
風邪とかではないです……完全に怠けてました。
申し訳ございません。
煮るなり焼くなりして下さい……。
年内に、あと2、3話は頑張りたい、な……。