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26 血の力

 俺の火魔法は燃え盛る巨大な焔の手となって、麒麟へと飛ぶ。


 麒麟はアカネに放った光線と同じものを、最大威力で俺に向かって放った。


 2つの力がぶつかる。


 瞬間、目が開けられないほどの発光と、大きな衝撃波が広がり塵や埃が吹き飛ばされる。


 俺はアカネの前に立ち、壁になりながら魔法に魔力を注ぐ。


 焔の手と極大な光線は互いに譲り合うことはせず、押し合いを続ける。


 しかし、その均衡も次第に崩れ始めた。


 俺の放った焔の手が、光線を呑み込むように徐々に麒麟へと近づいていく。


 俺は最後の力を振り絞り、身を燃やすように叫ぶ。




『うぉぉぉおおおおーーーー!!』




 焔の手が麒麟を呑み込む。


 紅蓮の悪魔は禁忌の焔によって、命を奪い死の道へ誘う。


 戦いは時間で言えば短かったものの、その規模は戦ったこの場が示していた。


 俺のローブは原形を留めぬほどボロボロとなり、その役目を果たしたと言える。


 しかし、俺のすべきことはまだ終わっていない。


 アカネに血を――――


 その時、視界が反転するような気持ち悪さが俺を襲う。


 思わず片膝をつき、胸に手を当てる。


 胸が締め付けられるような苦しさと、全身を焼くような熱さを感じ、顔からは尋常ではないほどの汗が流れ出す。


 クソッ! 俺はアカネを助けなきゃならないんだ!


 苦しさを押しのけ、根性で立ち上がる。


 理由はだいたい予想がつく。


 魔力解放によって限界を超えた副作用と、膨大な魔力の消耗による反動だろう。


 そんなものは百も承知だ。


 無理をしてでも俺はアカネを助ける。


 そう思えば動くことができた。


 俺はアカネのすぐ側まで近づき、両膝をついてアカネの頭を抱える。


 今すぐにでも意識を投げ出したい気持ちを殴り飛ばし、アカネを助けることだけに集中する。


 アカネは吸血狼だ。


 血を飲めば、それを魔力に変換して自らの力に変えられる。


 俺は僅かな魔力で氷魔法のナイフを創り出し、自分の腕を切りつけた。


 切れた場所から赤いものがジワリと溢れ始める。


 俺は腕から流れる新鮮な血をアカネの口に、指の先からポタポタと流し込む。


 薄れゆく意識の中で、俺はアカネの名を呼び続ける。




 アカネ……アカネ……あか、ね。




 俺の意識が終わりかけのロウソクの火のように、ゆらゆらと消えそうになったその瞬間、予期せぬ変化がアカネに起こる。


 アカネが謎の光に包み込まれていく。


 その光景に、なぜか俺は見覚えがあるように感じた。


 記憶の糸を手繰り、それが何かを思い出した。


 セレーナや母さん、龍人が人化する(・・・・)時の光と非常に似ている。


 ん? 人化?


 俺が自分の記憶に疑問を抱く一方、光は着々とその形を変え始めていた。


 そのことに気がついた頃には、もう答えが俺の目の前に存在しようとしていた。




『ユーリ』




「あはは……まさかの展開に驚きを隠せないんですけど、アカネさん」


 その少女(・・)は硬い表情ながら、それでも俺にわかるくらい嬉しそうに微笑む。


 黄昏時を思わせる茜色の瞳、真っ白で柔らかそうな腰まで伸びた綺麗な髪、あどけなさがあるが可憐で可愛い顔立ちをしている。


 どこか俺を美男子にして、それをさらに美少女に変えたような、つまり俺と似ている気が……しないか。気のせいだ。自惚れるな俺。


 そして、穢れのない少女の裸が……裸!?


「アカネ! 何で裸なんだよ!」


「……? いつも裸」


 アカネは言っている意味がよくわからない、という感じで首を傾げる。


 それは盲点だったー!


「ひとまず、これ着て」


 俺は空間魔法『アイテムボックス』から適当な服を取り出してアカネに渡す。


 アカネは仕方なさそうに渡した服を着る。


 上はふと日本を思い出し試しに作ってみたTシャツ、下は試しに作ってみたはいいがサイズが思ったより小さかった下着……短パンだ。


 実際に着た姿はダブダブのTシャツを着た、休日のオフモードな女子といった感想だ。いや、本当にそういう格好かは知らないけどね!


 うん、今は見た目を無視だ。


 女の子の服って、どうやって作るんだろう?


「えーと今さらだけど、アカネなんだよな?」


「うん」


「だよな」


 俺は何を動揺しているのか、どうでもいい質問をして恥ずかしくなる。


 今の心境は、久しぶりに会った従姉妹が、女の子らしくなっていて戸惑う気持ちに近い。別に従姉妹いないけどね!


「何で人化できたんだ?」


 俺はもっともな疑問をアカネに投げかける。


 人化がもともとできるのであれば、もっと前にしても良かったはずだ。


「……魔力のせい?」


 アカネは半信半疑ながらも、どこか納得のいった表情で俺にそう答える。


「ユーリがくれた血はいつもより、ううん……今までの中で1番濃厚で、体中が熱くなって、魔力が爆発しそうなくらい増えた」


「それで、増え過ぎた魔力を無意識に人化の力に変えてたってことか」


「うんっ」


 アカネは今までにないくらい、キラキラとした目で頷く。そして、なぜか俺に飛びついた。


「どうした?」


「血! ユーリの血が欲しい! もう一度だけ、あの上品で甘くて痺れるような血が――――」


「ちょ、ちょっと待った! 今日はもう無理だって! 魔力はほとんどないし、さっき血を流し過ぎて若干貧血だし……」


「むぅー……わかった」


 アカネは口を尖らせて拗ねているが、本心では俺のことを心配してくれているのはわかる。


 でも、アカネにこんな一面があるなんて少し驚いたな。


 俺は娘の成長を感じた父親のような気持ちでアカネを見てしまう。


「うん、もう限界……おやすみ」


 アカネを助けられたことで緊張の糸が切れたのか、急激な眠気に襲われる。


 倒れ込む俺の頭を何かが受け止め、その時に「ゆっくり休んで……」と聞こえた気がしたが、今は己の欲求に従って眠りにつく。


 ありがとう、と俺は心の中で呟いた。

 読んで頂きありがとうございます!!


 さて、今回の話で賛否両論に分かれそうではありますが、アカネは人化させたいとずっと考えていました。

 どうか、人化したアカネも好きになって頂けたら嬉しいです!

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