85 魔皇教団壊滅作戦6
魔皇教団の拠点の地下にたどり着いた私たち。
先頭のユーリくんの背を見ながら後に続いて階段を下ると、薄暗い通路に繋がっていた。
立ち止まったユーリくんが、何かを察知してこちらに振り返る。
「俺は右の道を、アカネとセレーナは左の道を任せた」
「ん」
「うん!」
ユーリくんの指示にしっかりと返事をする。
アカネちゃんがいてくれるからとは言え、こうしてユーリくんから役割を任せてもらえることが素直に嬉しい。
その期待に応えたい。
ユーリくんが右の道を進む。
それを見て、アカネちゃんが左の道へ進み始める。
わたしはアカネちゃんから離れないように追いかけつつ、度々後ろを振り返ってユーリくんを見た。
離れていくユーリくんが正直、心細くて不安もあるけれど、ユーリくんの期待に応えるためにもアカネちゃんと一緒に頑張るんだ。
次第にユーリくんの背中は見えなくなった。
「アカネちゃん」
「なに?」
「アカネちゃんは、ユーリくんと離れて不安になったり、怖かったりしない?」
「しない」
即答だった。
アカネちゃんは薄暗い通路を迷いなく、早歩きに近い速さで突き進む。
わたしはその後を小走りでついていく。
少し間をおいて、意外にもアカネちゃんは言葉を続けた。
「私はユーリの使い魔。どんなに離れていても、それは変わらない。それに、ユーリの使い魔として弱いところなんて見せられない」
アカネちゃんの言葉に、わたしは諭されたような気持ちになった。
「そんな風に考えられるアカネちゃんはすごいな……わたしは、いつも不安に押し潰されそうになっちゃうよ」
自分の弱さが見えてしまって、思わず愚痴をこぼしてしまう。
足取りが重くなって、アカネちゃんとの距離が少しずつ開いていく。
「それがどうしたの?」
「え?」
アカネちゃんは一瞬だけ足を止めて振り返った。
「嫌なら諦めたらいい。でも、諦めたくないからここにいる。違う?」
再びアカネちゃんは歩き始める。
わたしはさっきまでの弱気だった自分がすごく恥ずかしくなった。
「ユーリくんとずっと一緒にいるために、わたしは強くなりたい! だから、諦めないよ!」
わたしは駆け出した。
アカネちゃんに追いつきたい。
今は無理でも、いつかきっと!
「アカネちゃん、ありがとう。もう大丈夫!」
隣に並んだわたしを見て、アカネちゃんは小さく笑った。
しばらくして、大きな扉の前にわたしたちはたどり着いた。
アカネちゃんが足を止め、緊張した雰囲気でわたしに止まれと合図する。
「何かいる……」
ささやく声でアカネちゃんが言った。
「何がいるの?」
「たぶん、テーレ……それと龍人」
「……っ!?」
驚いて声が出そうになり、両手で口を塞ぐ。
この扉の向こうに龍人がいる……。
ここに入る前にユーリくんが言っていたから覚悟はしていたけど、正直少し怖い。
集落以外で龍人と直接会ったことはないし、龍人が他の種族の人を傷つけていることも受け入れられなかった。
「ユーリに知らせる」
「うん」
アカネちゃんはユーリくんに思念魔法を使って、テーレと龍人の情報を伝えようとする。
しかし、アカネちゃんの眉をひそめ、表情を曇らせた。
「どうしたの?」
「ユーリと思念魔法がつながらない」
「え? どうして!?」
明らかにおかしい事態に、急激に不安が押し寄せてくる。
「結界魔法みたいなもので塞がれているのかも」
「ユーリくんは大丈夫なの?」
「ユーリは最強」
そう言って不敵に笑うアカネちゃんにわたしもつられて笑う。
「そうだよね。ユーリくんは最強だもん」
「ん。だから、こっちも負けてられない」
「うん!」
アカネちゃんは自分とわたしに結界魔法を使ってから、扉に向かって進む。
わたしもその後に続く。
アカネちゃんが重そうな扉を片側だけ押して開くと、徐々に広がる隙間から部屋の様子が見えてくる。
部屋の中が完全に見えると、そこは意外にも明るくて広い場所だった。
光の球が天井近くをいくつも浮遊していて、そのおかげで明るいのだとわかる。
そして、何よりも気になるのは部屋の中心の人影だった。
「やーっと来たよー! ワタシ、待ちくたびれちゃった」
部屋の中心にいる人物が話しかけてくる。
女の子の声だった。
わたしよりも幼く高い声。喋り方からしても子供っぽいように感じた。
「何してるのー? 早くこっちにおいでよー」
アカネちゃんと顔を見合わせて、わたしたちはゆっくりと部屋の中心に近づいていく。
徐々にその姿が見えてきた。
見たことがない白い服に、子供のような背格好。
頭には5つの角と、茶髪の短い髪が可愛らしくあどけなさを感じさせる。
でも、ここまで近づいてやっとわたしにもわかった。
この龍人はすごく強い人だ。
アーテルさんや、武龍団の人たちと同じ雰囲気がある。
そして、その龍の足元に倒れている男の人がいた。
着ているものは下着だけで、身体中が傷だらけだけど、その男の人がテーレだとわかった。
「はーい、はじめましてだね! ワタシは龍帝国軍五龍将“愉悦”のプレイドール! よろしくねー」
プレイドールは子供のようにケラケラと笑う。
「あ、コイツは気にしないでね! 君たちが来るまで暇だったから、コイツで遊んでたの」
そう言ってプレイドールは倒れているテーレを蹴り飛ばす。
テーレは抵抗することもできず、わずかにうめきながら転がっていく。
「あーんなのは放っておくとして、君たちはどうやって――――遊ばれたい?」
子供っぽい喋り方から急に現れた暗く冷たい声に背筋が凍るような気がした。
わたしが震える手を両手で握り込んでいると、アカネちゃんが臆することもなく言い放つ。
「お前と遊んでいる時間はない。テーレは連れていく。邪魔するなら、力ずくでも連れていく」
「へぇーそいつが狙いなんだね! やっぱり持ってきてよかったー」
プレイドールはイタズラを考える子供のようにニヤニヤと笑って話を続ける。
「そしたらー、ワタシに勝ったらそいつを持っていってもいいよ! でも、ワタシに負けたら――――」
『ワタシの新しい玩具になってね?』