83 魔皇教団壊滅作戦4
魔皇教団の根城に屋上から侵入した俺たちは、二手に分かれ別々のルートで、俺はイリーガルを、アカネとセレーナはテーレを探す。
根城の造りは1つのフロアに部屋が9つほどあり、地下を含めると5つの階層に分かれている。
内装は簡素で、生活感はない。
ただ、1つのフロアがそれなりに広く、通路や出入り口、階段が複数ある。
攻め込まれても退路を確保できるようにしているのだろう。
イリーガルの魔力は下の方に強く感じる。
おそらく地下にいる。
俺は通路や部屋にいる教団員を催眠魔法で眠らせながら最短ルートで地下を目指す。
***
「アカネちゃん、もう少しゆっくり……」
「敵、一人いる」
「――ッ」
3階へ下る階段の前に教団員の男の人が1人いた。
わたしとアカネちゃんは階段から少し離れた曲がり角のところで身を隠し、様子を伺う。
男はちょうど階段を上ってきたようで、こちらに向かって歩いてくる。
「どうするの、アカネちゃん」
「眠らせる。セレーナは後ろを警戒していて」
「わかった!」
そう言って、アカネちゃんはあっという間に影の中に沈んで姿を消してしまう。
アカネちゃんは影魔法が得意だ。
後ろを気にしつつ、のろのろとこちらに近づいてくる教団員の人を注視する。
すると突然、教団員の人の影から背後にアカネちゃんが現れる。
アカネちゃんは教団員の人が気づく前に接触して、催眠魔法という魔法で教団員の人を一瞬で眠らせてしまう。
「すごい……」
華麗な動きに感動していると、階段から新たな人が上がってくるのが見えた。
そして、わたしの後ろからも足音が聞こえる。
アカネちゃんと目が合う。
〈そっちは任せる〉
〈わたしが……うん! 任せて!〉
少しだけ怖くなったけど、アカネちゃんがわたしを信じてくれていると、そう思えたら何だか勇気が湧いてきた。
わたしは後ろを振り返り、近づいてくる足音に集中する。
心臓はバクバクと激しく動いている。
膝が震えて、頭が真っ白になりそうだった。
――セレーナならできるよ。
ユーリくんがそう言ってくれた気がした。
ただの妄想だけど、でも震えは止まった。
「水よ……」
わたしの中の魔力が静かに、だけど確かに動く。
イメージを鮮明にして、魔法陣を展開する。
曲がり角から教団員の人が出てきたと同時にわたしは魔法を発動した。
『――ウォーターバインド!』
***
「ッ! だれ――」
「はい」
「だ……」
バタリ。
丁度、部屋から出てきた教団員の男を催眠魔法で眠らせる。
男は突然、意識を失い地面に倒れ込む。
しかし、男は目覚めない。
俺が催眠魔法を解くか、俺以上の強い魔法で上書きする以外に目覚めることはないだろう。
この作戦が終わるまで寝ていてもらう。
そうして順調に教団員を眠らせながら3階、2階と下り、1階に辿り着く。
1階も他の階層と同様な広さと造りだった。
ただし、地下につながる階段は見当たらない。
「隠し扉か」
魔力感知や、具現化した複数の魔力の手で床や壁を探っていると、こちらに向かって駆けてくる音が聞こえる。
ユーリくーん、と俺を呼ぶ小さな声で誰だかすぐにわかった。
「セレーナたちも着いたんだね」
「うん!」
「ん。敵、弱かった」
セレーナとアカネに怪我はない。
それに、2人の様子から本当に敵にならなかったのがわかる。
「ねぇね、ユーリくん! わたしね、2人も敵を捕まえたんだよ! こうやって、水魔法でね……」
セレーナが興奮気味に教団員との戦闘を語る。
子どものように、忙しなく喋るセレーナは珍しい。
初戦闘の緊張から少し解放されて、気分が高揚しているのだと思う。
素直に褒めてあげたいところだが、ここは敵陣の中。
まだ作戦の途中で、何が起こるかわからない。
「セレーナ、ここは敵陣の中だ。まだ敵が隠れているかもしれない。警戒を怠らないで、喜ぶのは全部終わってからだ」
「あ……ごめんなさい」
「わかってくれたら、それでいいんだ。でも、セレーナが無事で本当によかった。さっさとイリーガルとテーレを捕まえて、みんなで祝勝会をしよう」
「うん!」
セレーナは切り替えて、表情もキリッとしている。
そうこうしている間に具現化した魔力の手の1つが隠し扉を発見した。
「ユーリ、地下は?」
「今、隠し扉を見つけた」
「え? 隠し扉?」
アカネは気がついていたようだが、セレーナは何のことかわからず首を傾げる。
「この拠点には地下があるはずなんだけど、この階には下る階段が見当たらないんだ」
「本当だ」
「それで、隠し扉を探していたんだけど……ここにあった」
セレーナの後ろの壁から少しズレた位置に、具現化した魔力の手が置かれている。
そこには肉眼だけでは気がつけないほどのわずかな凹みがあった。
魔力の手でゆっくりと押すと、セレーナの後ろの壁が一人分の幅だけ持ち上がっていく。
「わわっ、壁が動いた!?」
壁が突如、動き始めて驚くセレーナ。
驚きのあまり俺の背中に隠れる。
魔法を使わない、手動式の隠し扉だったとは……なんか新鮮。
ゲームのような仕掛けを体験できたことに少し感動する。
「よし、行こう」
「うん!」
「ん」
扉の先は灯りがない暗闇だったため、光魔法を使い足下を照らしながら地下への階段を下っていく。
階段は人が一人通るのが限界の細さで、俺を先頭にセレーナ、アカネの順で進む。
罠がないか警戒しながら下ったため地下に辿り着くのに時間がかかった。
階段が終わると、薄暗い通路に繋がっていた。
通路は階段よりも広くなっていて、人が余裕をもってすれ違える幅がある。
左右に道が続いているが、周りに案内のようなものはない。
魔力感知でわかる魔力だと、おそらく右の方にイリーガル、左の方にテーレの魔力を感じる。
「俺は右の道を、アカネとセレーナは左の道を任せた」
「ん」
「うん!」
俺たちはそこで別れて、それぞれの道を進んだ。
読んで頂きありがとうございます!!
ギリギリまだ10日……セーフ。セーフですよ!(遅くなってごめんなさい)