81 魔皇教団壊滅作戦2
魔皇教団の根城を中心に、建物が数十軒は収まるほどの大きな結界が存在する。
結界のことを知らず、結界の内側にいる市民を避難させるため、俺、アカネとセレーナの二手に分かれ転移魔法を使って敵陣に乗り込む。
避難を効率よく、できる限り早めるため、市民は見つけたら結界外に転移魔法ですぐに転移させる。状況説明などは、リリーや王女様たちに任せた。
「えっ!? ど、どなたですか? というか、どこから……」
「すみません、時間がないので!」
民家の中に転移し、住人をノンストップで転移させる。
不法侵入だし、転移する度に驚かれるけど緊急事態なので許してほしい。
魔力感知で周囲を調べたとき魔力がほとんどないのが市民だ。逆に多いのが魔皇教団。
わかりやすくていい。今だけは魔皇教団が魔術師至上主義でよかったと思う。
俺の担当範囲にいたすべての市民の転移が完了した。
アカネとセレーナもあと少しで終わる頃だろう、と考えていたらアカネから思念魔法による思念が届く。
〈ユーリ、終わった〉
〈早いな。俺も終わったところだ〉
さすがアカネだ。予想以上の早さで終わらせてくれた。
〈次は根城を攻める。アカネ、セレーナ、いけるか〉
〈ん。問題ない〉
〈うん! 大丈夫だよ!〉
思念魔法から伝わる感情に陰りはない。頼もしいな。
〈よし、突入だ!〉
〈んっ!〉
〈おー!〉
俺の合図に合わせて、俺たちは転移魔法を使い、敵の本陣へと乗り込んだ。
***
「予知通り、例の魔術師たちは一般人を避難させているようだ」
「ククク、魔術が使えない奴らなんて放っておけばいいものを……はぁ~、あのガキどもが待ち遠しいぃ! はやく、はやく、痛めつけて、滅茶苦茶にしてやりたいッ!」
イリーガルはテーレを完全に無視して、祭壇の上に座る2人の龍人に視線を向ける。
「使者様、手筈通りでお願いいたします」
「はいはい、わかってますよーっと」
そう言って祭壇から飛び降りたのは、白の軍服に丈の短いスカート姿の龍人。
茶髪のショートボブにコブのような角が5つ。橙色のパッチリつぶらな瞳が愛らしい印象を与える。
見た目は完全に子供だが、成龍している大人の龍人だ。
「プレイドール、油断……するな」
子供っぽい龍人をプレイドールと呼んだ龍人も、祭壇から降りる。
黒の軍服に、紫と黒の混ざったショートヘア、目つきの鋭い紫眼。
能面のような顔をしているが、その言葉には遺恨が込められていた。
かつてパンプキンでユーリと戦い、敗れたことが今も戒めとなっているためだ。
「グラッジこそ、次は負けないでよー」
「……わかって……いる。次は……勝つ」
グラッジと呼ばれた紫眼の龍人が、魔力の抑制を解除し、放出するのをイリーガルは肌で感じ取る。
その凄まじい魔力量に、さすがのイリーガルも表情が険しくなり、冷や汗が流れた。
「はやい、はやい! 昂ぶるにはまだ早いよ! ワタシ、まだ準備してないしー」
「遅い……準備しろ」
「もー、グラッジはせっかちさんだよ! だから、グラッジと組みたくないって言ったのにー! ルインやつめー、うらむぞー」
プレイドールが、わーわー喚いて騒いでいる様子はまさに小さな子供のようだった。
同じ龍人でも、これほど性格が違うものなのかと、イリーガルは呆気に取られる。
「――さて、茶番はこれくらいにして、ワタシも働きますか」
プレイドールはピタリと騒ぐのを止める。
雰囲気が突然、冷たく薄暗いものにがらっと変わったプレイドールを見て、イリーガルはまたも冷や汗を流す。
と思ったら、またニコニコと笑顔を浮かべるプレイドール。
「ニシシっ、今日はたくさん遊べるかなー」
二重人格というよりも、何か悍ましいものを腹の中に飼っていると言われた方が納得できるほど、異様な光景だった。
イリーガルは、グラッジよりもプレイドールの方が危険だと肝に銘じた。
「そうだ! こいつ借りてくねー」
「な、なんだ!? 俺をどうする気だ! は、はなせ! 離してくださいっ!」
プレイドールはテーレの腕を掴むと、人形を引きずって歩く子供のように意気揚々と部屋を去って行く。
連れて行かれたテーレは為す術もなく、最後は諦めて大人しく引きずられていた。
イリーガルは一切テーレに視線を向けることはなかった。
「あ、そうだ! ワタシのとっておきは、その祭壇に隠しておいたから、うまく使ってよー。まったねー!」
部屋の入口から顔だけ覗かせて、プレイドールはそれだけを言い残しまた去って行く。
イリーガルとグラッジは無言で祭壇を見る。
ユーリがやってくるまで沈黙が続いたのはここだけの話だ。
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