80 魔皇教団壊滅作戦1
王女様の号令によって魔皇教団壊滅作戦は開始された。
作戦の具体的な手順は……
・魔皇教団拠点の結界外に転移魔法にて王女様、スチュワードさん、ハリー隊長及び近衛騎士団の兵士の人たち、リリーを配置する。
・俺、セレーナとアカネの二手に別れ、転移魔法で結界内にいる一般市民を避難。
・避難が完了後、結界内にいるイリーガルとテーレの捕獲を最優先とし、魔皇教団員は見つけ次第無力化する。
シンプルな奇襲作戦だが、相手に対策を講じられる前に作戦を遂行しなければならないため、迅速な行動が求められる。
その点、アカネは心配ない。転移魔法、隠密行動、索敵能力の巧みさは俺と同等かそれ以上だ。
セレーナは転移魔法を使えないが、龍化状態なら水魔法の中級までは無詠唱が可能だ。幹部ではない教団員が相手なら問題なく倒せるだろう。
アカネのサポートが基本になるけど、正直心配はしてしまう。
戦闘経験が少ないセレーナを前線に出すことに最初は反対だった。
しかし、作戦立案の時のことだ――――
『ユーリくん、わたしも戦うよ』
『……それは認められない。セレーナは戦いの経験がとても少ない。いくら奇襲とは言え、敵に地の利がある状況での戦闘はリスクが高すぎる。リリーと一緒に避難の誘導をお願いできないかな』
過保護と言われたっていい。セレーナに万が一のことがあったと考えるだけで、心臓がキュッと締め付けられるような想いになる。
セレーナが危険を負う必要はないんだ。
『わたしも怖いよ……ユーリくんがもしもいなくなったらって考えると、胸が張り裂けてどうにかなっちゃいそう』
瞳を潤ませて、セレーナの表情が陰る。
『セレーナ……』
『これは、わたしのわがままだって思うよ。でも、ユーリくんが戦っているのを安全なところで見ているのは、わたしが思う“一緒にいる”じゃないの! ずっとずっと苦しかった。ユーリくんが戦っているのを見ているだけのわたしが嫌だった。だから魔法の練習もいっぱいしたよ。ユーリくんみたいに魔法は使えないけど、わたしもユーリくんの力になりたいんだよ……』
セレーナの想いは痛いほどわかる。
もしも俺とセレーナが逆の立場だったら、きっと俺もそう思うから。
『それでも俺は――』
『ユーリ。セレーナを認めて。セレーナは私が面倒をみる。だから、お願い』
俺の言葉を遮ったのはアカネだった。
真剣に、茜色の瞳がまっすぐ俺を見ていた。
『アカネちゃん……』
『ユーリ』
『……わかった。アカネ、セレーナのことを頼めるか?』
『んっ。任せて』
アカネは表情を柔らかくして、そう言った。
『アカネちゃんっ!』
『抱きつかないで』
『ありがとぉ~』
涙目のセレーナがアカネに抱きつき、それを嫌がるアカネ。
でも本当に嫌がっていないのは、何となくわかった。
『僕だけ……』
二人がじゃれている端に、落ち込んでいるリリーが目に映る。
きっと、あの弟子は自分だけ戦えないことを気にしているのだろう。
俺はリリーに近づき、肩を叩く。
『リリーにも期待しているからな。王女様と市民の誘導を頼んだぞ』
『はい!』
リリーは顔をパッと明るくして、元気よく応えた。
――――あの時のアカネの言葉は以外だった。
アカネが俺以外の誰かのために行動するのは初めてだ。
それはすごく嬉しいことで、だからアカネの言葉を尊重したいと思った。
セレーナが特訓していることは知っていたし、魔法の技術も昔よりずっと上がっていると思う。
それでも、怖かった。
だけど、信じることも大切なんだ。
それが“一緒にいる”っていうことだと思うから。
「それでは転移魔法を使って、皆さんを転移します。転移後、敵の拠点は目前です。速やかにそれぞれの配置についてください」
俺が説明すると、それぞれ返事や頷いて反応した。
反応を確認した俺は、転移魔法を展開する。
「す、すごいな」
「今、詠唱してたか?」
「伝説の魔法を見るのは初めてだ」
転移魔法を展開する中、さまざまな呟きが聞こえた。
魔法陣は、全員を収めるように床に大きく広がっていく。
そして魔法をいつでも発動できる準備が整った。
「それでは転移します」
蒼い魔力で描かれた魔法陣が、より一層輝きを増して転移魔法が発動する。
一瞬にして、会議室にいた全員が魔皇教団の拠点の結界外に転移した。
「ほ、本当に一瞬なのですね……旅もこの魔法を使えば……」
驚く王女様だったが、どうやら気づいてはいけないことに気がついてしまったようだ。
こういうときは強引に流れを変えるのが一番いい。
「それでは皆さん、配置についてください! 俺たちは市民の避難を開始します。転移させた市民の誘導をお願いします!」
「ユーリ、何か変?」
「アカネちゃん、頑張ろうね!」
「ぼ、僕も頑張ります!」
それぞれ、作戦通りに行動を始める。
さきほどまでの空気とは打って変わって、緊張感が伝わってくる。
ここからは人の命に関わってくるんだ。あたりまえか。
俺も気を引き締める。
「アカネ、セレーナ。俺たちも行くぞ」
「んっ!」
「うん!」
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