サイドストーリー12 大好きな人のために
遅くなってしまい申し訳ありません……。
サイドストーリーですが、読んで頂けたら嬉しいです。(セレーナ視点です)
わたしたちは今「魔皇教団」という人たちの根城がある、リーキという大きな都市を目指して旅をしている。
困っている王女様に力を貸したいと、ユーリくんは言っていた。
もちろん賛成だし、何よりわたしはユーリくんのそばで、ユーリくんの力になりたい。
でも正直、ちょっぴり王女様が羨ましいかな。
王女様は本当の、正真正銘のお姫様。
ユーリくんは魔法使いの王子様で、困っているお姫様を魔法で助ける。
なんだかおとぎ話みたい……。
だから、あの時は自分でも驚いちゃった。
『何もできない苦しさはわかります。わたしもずっとそうだったから。王女様は絶対ユーリくんが守ってくれる。だから、一緒にリーキへ行きましょう。いいよね、ユーリくん』
王女様がリーキへ行くと言って、スチュワードさんが止めたときのことだ。
自然と言葉が出ていた。
わたしと重なるところがあって、想いが飛び出たのだと思う。
何もできない。今も、昔も、わたしは何もできないままだ。
変わりたい。
そう思うほどに、密かにやっていた特訓は厳しくなっていた。
長い長いオニオン山道を越え、野営をするわたしたち。
ユーリくんの転移魔法で、わたしたちはいつでも家に帰ることはできるけど、他の人もいるからわたしたちも野営をする。
いつもと違う場所でご飯を食べたり、寝たりするのは何度も経験しているけど、やっぱりドキドキする。
わたしたちのテントはユーリくんが魔法で設置してくれた。
外から見たら小さいテントなのに、中はびっくりするほど広くて快適なんだよ。
ユーリくんの魔法は本当にすごい。
夜ご飯を食べ終え、わたしたちはテントの中でまったりしていた。
「わたし、少しお散歩してくるね!」
「わかった。あまり遠くにはいかないでね」
「うん。いってきまーす」
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃいです」
龍剣(ノワール様)を手入れしていたユーリくんは、顔をこちらに向け手を振ってくれた。
リリーくんも読んでいた本をから顔を上げ、手を振ってくれる。
ユーリくんと背中合わせで座っているアカネちゃんは、顔をこっちに向けてくれたけどすぐに別のところを向いてしまった。
最近は仲良くなってきたと思っていたけど、まだまだだね。
テントを出たわたしは野営地から遠ざかるように道を進む。
「求めるは光。光よ照らせ」『ライト』
わたしの頭上に光の玉が現れる。
光魔法〈初級〉の『ライト』を使って、暗い足下を照らす。
「ここら辺でいいかな」
野営地が小さく見えるくらいの場所。
周りには木々がまばらに生えていて、岩もところどころにある。
地面は小石と土が半々くらい。
光魔法を強め、いつもの特訓を始める。
『龍化!』
全身に魔力が激しく巡り、瞬く間にわたしは龍の姿に変わる。
翼を大きく広げ、その場に滞空する。
思い返すと昔は人化すらできなくて、ずっと龍の姿だったんだよね。今ではなんてことないことだけど、少しは成長しているんだよね。
龍の姿と言っても昔より体は大きくなり、今は龍化状態だとユーリくんより少し大きくなっている。
まずは、
『キューウキューウ(ウォーターウォール)』
水魔法〈下級〉の『ウォーターウォール』を発動する。
10メルト(10メートル)先に水の壁が現れる。
龍化状態なら魔法の詠唱は必要なくなる。でもユーリくんのような完全な無詠唱じゃない。
そしてわたしは3つ目の魔法を発動する。
『キューウキュウ(ウォーターランス)』
わたしの目の前に魔法陣が展開される。
水魔法〈中級〉の『ウォーターランス』は〈下級〉の『ウォーターウォール』に比べ、さらに難しい魔法。
一瞬、不安定になりそうになるけど、なんとか魔法陣が完成する。
水の壁に狙いを定め、魔法を発動。
魔法陣から放たれた水の槍は勢いよく水の壁にぶつかって水柱を上げる。
まだまだ。もっと早く、もっと速く。
『キューウキュウ(ウォーターランス)』
次の水の槍はさらに早く展開され、速く水の壁に向かって放たれた。
水の壁にぶつかった水の槍はさっきよりも大きな水柱を上げる。
わたしはこの練習をひたすら繰り返した。
もう何度目かわからない頃、
『きゅ、きゅーうきゅう……(うぉ、うぉーたーらんす)……』
水の槍は上手く形にならず、不発に終わる。
光魔法も弱まり、水の壁も消える。
ちょっと頑張りすぎたかな……。
地面に降りて休息を取る。
でも、わたしはユーリくんやアカネちゃんみたいにたくさんの魔法を同時に使えない。
今は3つで限界。
リリーくんは2つでさえ同時に使える人はほとんどいないって言っていたけど、わたしの目指す先はユーリくんのとなり。
これくらいで音を上げていたら追いつけない。
「キューウ(もっと……)」
「……やめた方がいい」
「キュウキュッ!?(アカネちゃんっ!?)」
声がする方を見ると、そこにはアカネちゃんがいた。
〈これで聞こえる?〉
〈思念魔法……どうして、ここに?〉
〈ユーリに頼まれた。これ以上は魔力欠乏になる〉
〈ユーリくんに?〉
そう聞き返すと、アカネちゃんは目を大きく開き、顔を逸らす。
〈言わない約束だった……忘れて〉
〈そっか。大丈夫だよ、ユーリくんには言わないよ〉
〈……ありがと〉
思念魔法だからか、アカネちゃんの気持ちがダイレクトに伝わってきて胸があたたかくなる。
でも、ユーリくんにはバレてたか。それはそうだよね。ユーリくんなら、この距離でもわたしがどんな魔法を使っているかもわかっちゃうよね。
〈わたしの方こそ、ありがとう。心配して来てくれたんだよね〉
〈ユーリに頼まれた〉
〈ふふ、そうだったね。それでも、ありがとう〉
アカネちゃんは照れくさそうに、またそっぽを向いてしまう。
よかった。やっぱり、アカネちゃんと最初の頃よりは仲良くなれたよね。
よし、これ以上ユーリくんに心配かけたくないし帰ろう。
『人化』
全身に魔力が激しく巡り、瞬く間にわたしは人の姿に変わる。
「よし、帰ろう! ……おっと」
歩きだそうとしたとき、バランスが崩れてしまう。
それをアカネちゃんが支えてくれた。
「肩を使っていい」
「ありがとう」
「ん」
甘えることにしたわたしはアカネちゃんの肩を借りて、そのまま歩き出した。
道中、アカネちゃんから意外なことを問われる。
「どうして、頑張る?」
「……大好きだから。ユーリくんが、アカネちゃんやリリーくんが、集落のみんなが大好きだから、かな」
「……?」
アカネちゃんはよくわからないという表情だった。
「アカネちゃんはユーリくんが困っていたら、助けたいと思う?」
「あたりまえ」
「もし、ユーリくんの使い魔でいられなくなっても?」
「……絶対に助ける」
アカネちゃんは拳を強く握っていた。それだけの覚悟がある。
「ちょっと意地悪なことを聞いちゃったね。ごめんね。でも、わたしが言いたいのはそういうこと」
大切な人のために頑張りたい。
「大好きな人のために、大切な人のために、わたしは全力で力になりたい。だから頑張れる」
アカネちゃんの表情が少しだけ柔らかくなる。
「……少しわかった」
「うん」
きっとアカネちゃんも同じ気持ちをもっている。
大好きな人が同じ者同士なんとなくわかる。
「わたし、絶対にアカネちゃんを追い越してみせるからね」
「負けない」
「うんっ」
月明かりの下、わたしたちはライバルとして認め合った――。
読んで頂きありがとうございます!!