79 想い、ひとつに
魔皇教団壊滅作戦は、1日を準備期間とし、会議から2日後の早朝に実行されることになった。
「ユーリ様、いよいよですね……」
俺とリリーに貸し与えられた部屋で、着替えを終えたリリーが緊張気味に呟く。
「ああ、そうだな。リリーは王女様と一緒に市民の保護を頼んだぞ」
「はい! 任せてくださいっ」
リリーの肩に手を乗せ、鼓舞する。
少し表情が柔らかくなった気がした。
緊張するのは当然だ。
国家に関わる重大な作戦に参加する。
ただの高校生だった頃の俺がそんなことに巻き込まれていたら、頭が真っ白になっていただろう。
まだ9歳のリリーが、ここまで覚悟できていることが異常なくらい凄いことなんだ。
師匠としては誇らしいが、人生2周目の俺からすると、もう少し肩の力を抜いてあげたいと思ってしまう。
「ユーリ様、セレーナさんとアカネさんが来ましたよ」
リリーに服の裾を引っ張られ、思索に耽っていたことに気がつく。
「ユーリくん、おはよう」
部屋に入ってきたセレーナがニコニコと手を振る。
後ろからアカネもトボトボと歩いてくる。
「おはよう、セレーナ。アカネもおはよう」
「ん」
手を振ってセレーナに挨拶を返し、アカネにも声をかけるが何故か機嫌が悪い。
近くまで来たセレーナに小さな声で話しかける。
「アカネ、どうしたの?」
「んー、わたしも聞いてみたけど、わからなくて」
「そっか……」
直接、聞いてみるか?
そう考えていると、セレーナは「でも、」と言葉を続ける。
「最近、ユーリくんと別行動で、部屋も別になって、寂しいのかも……わたしもそうだし」
顔を離したセレーナを見ると、耳が少し赤くなっていた。
そ、そんなのズルイ。
俺だって寂しいの我慢しているのに。
「この作戦が終わったらみんなで海に行ってみない?」
「海?」
セレーナが首を傾げる。
「湖よりも水がたくさんある場所だよ」
「聞いたことはありましたが、本当にあるんですね! 楽しみです!」
リリーが目を輝かせる。
「……美味しい食べ物ある?」
「海には魚がいるな。どんな魚がいるか、俺も詳しくないけど」
「サカナ……」
アカネも案外乗り気だ。
3人はそれぞれ、海を想像して夢を膨らませている。
その光景が何だか微笑ましい。
「さっさと作戦を完遂して、みんなで海に行こう」
『おー!』
気合い十二分に俺たちは王女様との集合場所へと向かった。
集合場所であるリーキ総合管理基地2階の会議室に入る。
会議室にはすでに王女様、スチュワードさん、ハリー隊長、兵士の人たちが待っていた。
部屋の中央に10人掛けの大きな楕円型のテーブルがあり、真ん中の席に王女様が座っている。
少し後ろにスチュワードさんとハリー隊長が待機し、壁に沿って兵士の人たちが横一列に並んで立っていた。
「王女様、お待たせしました」
「ユーリ様、おはようございます」
「おはようございます」
席から立ち上がった王女様と挨拶をする。
王女様は昨日まで着ていた公務用のドレスから、今日は出発のときと同じ軽装に変わっていた。
心なしか、こちらの方が着慣れている雰囲気がある。
「セレーナさん、アカネさん、リリーさんもおはようございます」
「おはようございますっ」
「ん」
「ご、ご機嫌よう」
それぞれ名前を呼ばれ、王女様に挨拶をされる3人。
アカネとリリーの挨拶がやや気になるが、今はツッコんでいる暇はない。
「ユーリ様、私たちの準備は完了しています。いつでも作戦実行が可能です」
「わかりました。予定通り作戦を開始しましょう。王女様、お願いします」
「はい」
王女様は俺たちと、兵士の人たちが見える位置まで移動すると、一度全体を見回す。
そして胸に手を当て、力を溜めるようにゆっくり一拍置いてから言葉を紡ぐ。
「私にはお兄様やお姉様のような魔法の才能も、民を導く力はありません。どんなに足掻いても、届かない大きな大きな壁があるのです。しかし、私にも1つだけお兄様やお姉様に負けない力がありました。それは『想いの力』です」
王女様が俺を見る。
「それに気がつかせてくれたのはユーリ様です。私には民と国を想う揺るがない心があります。ですが、それだけでは何も為し得ない。皆さんの力が、私には必要です。どうか、私に力を貸して下さい。命を、貸してください」
この場にいる一人ひとりに目を合わせる王女様。
その目には強い想いが宿っていた。
すると、ハリー隊長が一歩前に出る。それに続いて兵士の人たちも一歩前に出た。
「我々、近衛騎士団第五部隊はエプレ・ヴァレンティーノ王女殿下の剣となり、盾となることをここに誓い、全身全霊にて使命を果たす所存です」
「私は殿下の専属の執事です。殿下がお許しいただけるかぎり、どこまでも御身の側におります。この命も、殿下のためならば如何様にお使いください」
ハリー隊長の宣誓に続いて、スチュワードさんも王女様に言上する。
俺はあくまで協力者だ。誓うのは違う気がする。だから――――
「王女様、俺は約束を守ります。あなたの想いに必ず応える」
それぞれが、それぞれの想いを伝え、想いをひとつにする。
魔力が描く魔方陣のように、すべてが繋がり、ひとつの魔法が完成する。
「皆さん、ありがとう。想いを力に変えて――――いざ、戦いましょう!」
『おぉー!!』
魔皇教団壊滅作戦――開始。
読んで頂きありがとうございます!!
勝手ながら、作者の都合で今年の更新は今回が最後になります。
次回の更新は1月20日の予定です。
1か月のお休みになりますが、インプットの時間をどうかお許しください。
今年も描い転にお付き合い頂きありがとうございましたっ!
来年はコツコツと更新できるように、楽しんで執筆に励みたいと思います。
皆様、良いお年を!