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74 西の大都市

 キャロットからコーン平野を越え、オニオン山道を越え、ポッロ川を越えて、ついに俺たちは西の大都市リーキに辿り着いた。のだが……


「すごく並んでるねー」


「検問ですね。さすが関所も立派です」


 セレーナが検問に並ぶ長蛇の列を眺め、リリーは関所の立派さに感心している。


「これに並ぶのか……」


「私は影に……」


「ダメだ。今は護衛中だし、我慢してくれ」


「……」


 俺の影に消えようとしたアカネをすかさず捕まえる。


 アカネはばつが悪そうに視線を横に逸らす。


「ユーリ殿」


 長蛇の列にやや絶望していたところ、ハリー隊長から声がかかる。


「はい、何ですか?」


「我々はこの列に並びません。そのまま検問に向かいましょう」


「え、いいんですか?」


 俺が聞き返すと、ハリー隊長は少し唖然としてそれから説明してくれる。


「王族や貴族は検問が不要という規則が通例です。今回は事前に市長へ連絡もしていますので、問題なく通行できますよ」


「なるほど」


 王女様は、王女様だったってことだ。


 いや、あたりまえなんだけどさ。


 何となく忘れていたのはここだけの話だ。


 ハリー隊長に言われた通り、列には並ばずに関所まで進む。


 列を追い越す度に並んでいる人の視線を感じる。


 耳を傾けると「どこの貴族様だろう?」とか、俺を指差して「あの服変わってる」などと言った声が聞こえた。


 ちなみに俺が今着ているのは日本の和服のような服で、集落の伝統衣装だ。


 確かに珍しいかもしれないが、慣れるとこちらの方が意外と楽だったりする。


 師匠から聞いた話だとこの世界にはヒノマルという国があり、そこでは集落と同じような服を着た人がたくさんいるらしい。何となく昔の日本を想像してしまったが、あながち間違ってはいないかもしれない。


 そんなことを思い出していると、あっという間に関所についてしまった。


 ハリー隊長が検問している兵士に話しかけると、だるそうにしていた兵士は背筋をピンッと伸ばしてハキハキと対応する。


 近衛騎士団の隊長にもなると、やっぱり相当偉い人なのだと目の前の光景が物語っていた。


 関所の兵士が皆緊張でガチガチになっている。もしかしてハリー隊長って怖い人なの?


 今更ながら自分が変なことしてないか気になってきた。


 旅の途中、何度もこっちを見てたし……うん、気のせいだ。そういうことにしよう。


 関所を無事に通り抜けると、まっすぐ大きな道が広がる。


 馬車が5台は並べられる横幅の道は要塞にも見える大きな建物に向かって伸びている。


 その長さはここから歩いたら要塞まで、おそらく1時間くらいはかかるだろうという距離だ。


 ハリー隊長によると、あの要塞がキャロットでいう市長塔にあたる――リーキ総合管理基地と呼ばれる場所らしい。


 周りにある建物も、どれも立派で3、4階建てのものが多いように思う。


 人の賑わいもすごく、頻繁に馬車も行き交っている。


 周囲を確認していると、こちらに近づく馬車が一台見えた。


 馬車が停車すると、そこから明らかに身なりのいい、ある意味王女様より“貴族らしい”40~50代ほどのふくよかな男が降りてきた。


 男はのそのそとこちらまで近づくと、こちらの馬車を見て立ち止まる。


 それを見たハリー隊長が馬車に行き王女様に声をかける。


 王女様はスチュワードさんの手に引かれ馬車を降りると、凜とした姿勢で男の元まで歩いて行く。


「お待ちしておりましたぞ。エプレ王女殿下」


「お久しぶりでございます。シュヴァイン市長」


 ふんぞり返り腕を差し出すシュヴァイン市長。


 冷たい笑みでその手を握る王女様。


 両者は握手を交わす。


 しかし、両者に流れる空気はどうにも友好的には見えなかった。


総合管理基地(我が城)まで案内しますぞ。馬車について来てくだされ」


「……承知しました」


 そう言って両者はそれぞれの馬車に乗り込む。


 王女様が横を通りすぎたとき「何様のつもり!?」と鬼の形相で呟いていたのは気のせいだと思いたい。


 思わず二度見してしまったが、何もなかったかのように王女様はいつもの表情に戻っていた。


 うん、気のせいだな。


 シュヴァイン市長を乗せた馬車が管理基地に向かって進み始める。


 その後を追うように俺たちも進み始めた。


 管理基地までは一本道だが、その道に立ち並ぶ建物やお店の様子はどんどん変化していく。


 建物の高さも凄いが、リーキは建物の色も様々で見ていて飽きない。


 大都市と呼ばれるだけの景観、物量、賑わいが存在している。


 それとは別に気になることもある。


 人の視線だ。


 もちろん、道の真ん中を馬車で進んでいるということもあるが、好奇の視線の中に敵意や反感といったものがところどころ混ざっている。


 よく見ると、身なりが周りと比べ汚れていたり、ボロボロだったりする人が一定数存在していて、視線の正体がその人たちなのだとわかった。


 単純に豊かな都市というわけではないのかもしれないな。


 前を見る。


 管理基地はまだまだ遠く、もうしばらくはこの視線と付き合わなければならないなと思うのであった。

 読んでいただきありがとうございます!!


 次回の更新は10月30日です。

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