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72 ポッロ川

 馬でも半日では越えられないオニオン山道を何とか一日で乗り越えた俺たちは、一度野営をはさみ次の難所に辿り着く。


 次の難所とは、王国最大級の大河――ポッロ川である。


「大きな川だねー」


「王国で一番の大きさを誇る川ですからね」


 セレーナが右から左へと川の流れを追うようにポッロ川を見渡す。


 その隣ではリリーがセレーナと同じようにポッロ川を見渡していた。


 それにしても本当にデカい。向こう岸に生えている木々が辛うじて見える程度で、その川幅は相当なものだろう。


「困ったな……」


「他に使える橋はないのか?」


「ここから一番近い橋でも3日はかかるな」


 兵士の会話が耳に入る。


 何か問題でも起きたのか?


 様子を見ていると、こちらに王女様がやってくる。


「ユーリ様」


「何かありましたか?」


「はい。実は……」


 王女様の話を要約すると、ポッロ川を渡るために利用するはずだった橋が跡形もなく壊れているため、ここから一番近い橋に向かって進路を変更するとのことだった。


 ポッロ川は流れの緩やかな場所が限られていて、橋が建設されている場所が少ない。


 ここはいくつかある橋の中でも比較的安全な橋だったようだが、今はその影すら残っていないという。


「それなら、橋を創りましょう」


「え?」


「俺は魔術師ですから」


 王女様の呆気に取られた顔にやや苦笑を浮かべ、俺は川に近づく。


 規模は大きいが、ようは川だ。ここには水がある。それもたくさん。


 この水を利用して、氷魔法で橋を創る。


 腰から龍剣(師匠)を抜刀。


 静かに下段に構え、剣先を水面に触れる紙一重で止める。


 体に流れる魔力、それを龍剣へと流し、剣先に集中。


「――求めるは水と氷、橋となりて凍りつきたまえ」


 形だけの詠唱を終えると同時に、魔法を発動させる。


 剣先から二つの魔力の線が弧を描き、向こう岸でぶつかり円ができる。


 そして円の中を埋めるように幾何学模様が描かれ川の上に魔方陣が完成した。


 魔法が発動し、魔方陣から川の水を利用して橋が形作られていく。


 それと同時に橋は下から上へと凍っていった。


「すごい……」


 後ろで王女様の感嘆の声が聞こえる。


 やっていることはすごく単純で、川の水を利用して橋の形をつくり、それを凍らせるだけだ。


 川の水を利用しているため、この規模でも魔力の消費は少ない。


 そんなこんなで氷の橋はものの1分程度で完成する。


「これで遠回りしなくても大丈夫そうですね」


「はい! 素晴らしい魔法ですね! 美しくてつい見とれてしまいました」


 俺が話しかけると、王女様は興奮気味に言葉を返す。


 その瞳はヒーローショーを見た子供のような眩しい輝きに満ちていた。


 そんなに魔法が好きだなんて……今度、簡単な魔法でも教えてあげようかな。


「すごい……」


「あの少年、本当に魔術師だったんだな」


「ただものではないと、俺は最初から気がついていたぞ」


 兵士たちのざわつきが耳に届く。


 あれ、やりすぎたかな。


 でも、橋がないと渡れないし、近くの橋に移動したら時間がかかりすぎる。


 これくらいは目立ってもしょうがないよね。


「――ユーリ様」


 王女様の少し後ろに待機していたスチュワードさんが、こちらに近づき話しかけてくる。


「今の魔法、上級の限界を超えた魔法……絶級魔法をお使いになられましたね」


「そうですけど……」


「「えっ!?」」


 リリーと王女様の驚く声が重なる。


 二人ともまるで、ありえないものを見てしまったかのような表情だ。


 スチュワードさんは納得したように小さく何度か頷く。


「ユーリ様は現代の技術では不可能と呼ばれたあの絶級魔法を……」


「伝説魔法が使えるのであれば絶級魔法を使えるのも不思議じゃないですね……」


 王女様とリリーはそれぞれブツブツと呟いている。


 そういえば、キャロットの書庫には絶級や神級の魔法について書いてある書物がまったくなくて変だと思っていたけど……。


 魔法は初級、下級、中級、上級、絶級、神級の順にその規模や威力、効果を分類している。


 ざっくりしたイメージを火魔法で表すと、初級を種火だとして上級は町一つを全焼させて、絶級だと都市壊滅、山一つを燃やし尽くす威力だ。


 ただし、魔法によってその性質や効果は様々であるため、正確な分類はその魔法で変わってしまう。


 それでも共通して言えることは、魔法の階級が高位なものになるほど魔力の消耗が大きいということだ。


 つまり絶級が使えないのは、絶級を使うのに十分な魔力を満たしていないということが考えられる。


 俺は魔力が人より、いや誰よりも多いため問題なく使える。


 あ、そっか。それで不可能とか言われているわけだ。


 魔力は簡単に増やせるわけじゃないからね。難しい問題なのも頷ける。


「ひとまず、橋を渡りましょうか」


「はい、そうですね。皆さん、ユーリ様につくっていただいた橋を渡ります」


 王女様に声をかけると、すぐに準備を兵士の人たちに呼びかけてくれた。


 兵士の人たちもテキパキと配置につく。


「一応、俺たちが先行します」


「わかりました。よろしくお願いいたします」


 念のため、俺たちが先行して進むことを王女様に伝え出発する。


 すべて氷だが、橋の強度は問題ない。


 表面もすべらないように加工しているため、滑ってしまうことはないだろう。


 だいたい半分くらいの地点に到達した。


 その時だった……。



 ドバァアアアン!!



 激しい波しぶきとともに橋が大きく揺れる。


 氷の橋に何かがぶつかったようだった。


 ――やられた!


 俺は即座に防御の結界魔法を展開する。


 さらに氷魔法で橋の強化と、反撃用のトゲを橋に施す。


 橋から少し離れたところで再び大きな波しぶきが上がる。


 そこにいたのは、鯨に大きな牙と硬質な鱗を身につけた怪物だった。

 読んでいただきありがとうございます!!

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