69 コーン平野
大変、お待たせしました……!
投稿を再開します!
薄暗い広間。壁や柱、床などあらゆる場所に魔方陣が刻まれている。
広間の中央には祭壇があり、その前にひとりの老人が立っていた。歳は70~80ほど。灰色の大きなローブを身にまとい、魔獣の頭蓋骨を加工した不気味な杖を片手に持っている。
老人は魔皇教団の教祖だった。元宮廷魔術師であり、『知の賢者』と呼ばれていた時期もある。
しかし、今は国に仇なす魔術師至上主義の宗教団体の長。
名をイリーガルという。
「イリーガル様……」
静かな広間に若い男の声が響く。
その声は覇気が無く、弱っているような印象だ。
「テーレか」
「はい」
「その様子だと、例の魔術師に敗れたのだな」
イリーガルの近くまで来たテーレは、広間の薄明かりに照らされて、その姿が現れる。
ユーリに殴られた痕は仲間の治癒魔法でほぼ治ったようだが、その顔色は悪く、魔力欠乏を引きずっていることは確かだった。
そんなテーレを一瞥して、イリーガルはユーリとテーレの戦闘について察する。
そこに呆れや驚きといった感情はなく、イリーガルはただ事実を情報として処理していた。
「不覚を取りました……ですが! もう一度、機会を頂ければ次は負けません!」
「その必要はない」
「な、何故ですっ!」
冷淡に、その鋭い目で否定したイリーガル。
一瞬その目つきにたじろぐテーレだったが、何故かと抗議する。
イリーガルはテーレに背を向けて、祭壇へと体を向けた。
「あのお方からのご命令だ」
テーレは少し遅れてその言葉の意味を理解する。
自分は戦力外通告をされたのではなく、そもそも状況が変わったのだ。
「例の魔術師をこの場所まで招き入れ、使いの者が始末するとのことだ。我々はここまで誘導するだけで良い」
「なるほど……そうですか」
テーレはニタニタと笑う。
あの魔術師を自分の手で始末できないのは残念だが、それでもこの鬱憤を晴らせるのであれば問題ないと、テーレは思っていた。
それに……
「魔術師以外は僕が好きにしても?」
「ご命令は魔術師のみだ。他は構わん」
テーレは笑みが止まらなかった。
あの魔術師から少女を奪い取ったらどんな顔をするだろうか?
魔術師を始末できない分、少女をたくさん嬲ってやるのもいい。
「ククク」
「できるな、テーレ」
自分の世界に入り込んでしまったテーレに、イリーガルは次はしくじるな、という意味を込めて確認する。
テーレは笑うのをやめて、いつもの爽やかな嘘くさい笑顔を作った。
「はい。お任せください」
***
俺たちは、エプレ王女とその臣下とともに都市キャロットを旅立ち、西の大都市リーキへと向かっていた。
しばらく道なりに進むと、大きな平野にたどり着く。
一面黄金色の雑草が生い茂り、風に揺られて美しい景色が広がる。
「綺麗なところだね!」
「そうだね」
セレーナが平野を嬉しそうに眺める。
一面に生えている黄金色の雑草はコーン草と呼ばれていて、この平野をコーン平野と呼ぶらしい。
集落では見られない植物で、セレーナも新鮮な気持ちなのだろう。
繋いでいる手を前後に揺らして、まるでピクニックに行くような雰囲気だが、これはお仕事。
……いけない、いけない。セレーナに釣られて、危うく仕事放棄しそうになった。
「……ユーリ、魔獣がいる。倒す?」
「いや、この距離なら威嚇するだけで大丈夫だ」
「え、どこにいるの?」
「僕もわからないです」
アカネが魔獣を見つける。と言っても、目視できる範囲ではなく1~2キロ先にいるようだ。
セレーナとリリーが辺りをキョロキョロと見渡している。
護衛の兵士も気がついていない。
さくっと威嚇して魔獣避けの結界でも張っておくか。
「……よし、もう大丈夫」
「何が?」
「ユーリ様、何かされたのですか?」
セレーナとリリーがそろって首を傾げる。
「ユーリが魔獣を威嚇して、魔獣避けの結界を張った」
「その通りだ」
「え、いつの間にっ」
「さらっと無詠唱で魔法を……さすが、ユーリ様」
ここら辺の魔獣は下級がほとんどで、結界を張ればこちらに近づくことはできない。
最上級とかになってくると話は変わってくるが、龍の森の外、少なくともこの国で最上級魔獣は厄災獣と呼ばれていて、滅多に現れる存在ではないらしい。
あの『終わりなき森』だったら、ちょっと歩いただけで「こんにちは」って感じなんだけどね。
こうしてみると、何だかのどかで良い場所だな。
先ほどから護衛の兵士の隊長らしき人が「警戒を怠るな」と呼びかけているけど、そんなに警戒しなくても俺の結界があるから大丈夫なんだよね。
伝えた方がいいかな。でも、結界の説明をするのは骨が折れそうだし……警戒するに越したことはないか。うん。
「ユーリくん、どうかしたの? 何か考えごと?」
「いや、兵士の皆さんに尊敬の念をちょっとね……」
「確かに、王女様を守るんだって気持ちが伝わってくるね」
馬車の後ろを歩く俺たちは、護衛の兵士たちの動きがよく見える。
セレーナは兵士たちを見渡してニコニコしていた。
「でも、わたしにも特別なナイト様がいるから安心だね」
そう言ってセレーナは俺の腕に抱きつく。
仕事中なんだけどな……まぁいいか。
「俺のお姫様は甘えん坊だな」
「えへへ」
「アカネさん。今って仕事中でしたよね?」
「そう。だから……こうする!」
ん? アカネの魔力が動いて……
「痛っ」
アカネが俺の影を使って、俺の後頭部を殴ってきた。
いつの間にそんな器用な技を覚えたんだ?
「おー、アカネさん。お見事です」
「リリー、ユーリのようになってはダメ」
「わかりました!」
「おいっ! 二人とも酷くない!?」
セレーナは隣で笑ってるし……。
はぁ……仕事だ、仕事。このペースならコーン平野もすぐに抜けられるだろう。
俺たちは大都市リーキに向け順調に歩を進めているのであった。
読んで頂きありがとうございます!!
最終投稿が1月で、恐ろしさを覚えました。
読者様(まだ読んでくださる方がいることを信じて)を大変お待たせしてしまい申し訳ありません!
(活動報告で謝罪の続きを書きます……)
更新は10日、20日、30日の間隔で、3回更新したら1回休みでいきたいと思います。
ペースが遅いことは重々承知していますが、更新ペースを落とさない最低限のところで始めたいと思います。
長くなってしまいましたが、改めて描い転にお付き合い頂ければ幸いです!