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67 王女の想い

 牢獄で盗賊に扮していた魔皇教団の下級信徒から、思念魔法で情報を手に入れて次の日、俺たちは中央塔の市長室に再び来ていた。


「そうですか。西都リーキに……」


「はい、王女様」


 テーブルを挟んだ向かいの席に座る王女様は、俺の報告を受けて情報を精査している様子だ。


 俺、セレーナ、リリー、そして市長は王女様の言葉をじっと待つ。


 昨日の取り調べによって、魔皇教団の拠点が西にある大都市リーキであることが判明した。


 考えがまとまったようで王女様が視線をこちらに向ける。


 ずっと王女様の様子を見ていたため、自然と王女様と目と目が合う。


 すると、王女様の顔全体が少しずつ赤くなっていき、ぼーっと固まる。


 ん? 王女様の様子がおかしい。大丈夫かな?


「……あの、王女様?」


「はっ、し、失礼しました」


「もしかして、ご体調が優れないですか?」


「いえ、そんなことは――「よろしければ治癒魔法を……」――魔法っ!!」


 治癒魔法を提案すると、王女様はびっくりするほどの反応を見せる。


 え、よくなかった?


 俺が内心、不安に思っていると王女様が少し声を震わせて話し出す。


「そ、そう言われてみますと、す、少し、ほんの少し気分が優れないかもしれません」


「殿下、失礼ながら今朝は“こんなに気分がいい朝は初めて”と仰っていましたが、急にご体調が優れなくなったのでしょうか?」


 王女様の後ろに控えていた執事のスチュワードさんが一歩前に出て、何故か俺たちに聞かせるように王女様へ声をかける。


 笑顔だが、目が笑っていない王女様がピシャリと言い放つ。


「静かにしていなさい、スチュワード」


「畏まりました」


 その一言だけでスチュワードさんは後ろに下り、何もなかったように再び待機している。その表情に反省や後悔の色は全くない。


 視線を王女様に戻すと、目が訴えていた。治癒魔法を使ってくれ、と。思念魔法を使わずとも容易に理解できた。


「……やっぱり治癒魔法を使いますか?」


「よろしいのですかっ!」


「えぇ、はい」


 王女様は瞳を輝かせ、年相応の少女らしい笑顔を見せた。


 俺は腕を持ち上げてそれとなく構える。本当は構える必要はないけど、その方が魔法を受ける側も意識しやすいからだ。


「では、治癒魔法を……」


「はいっ! お願いいたします!」


「……終わりました」


「へ?」


 王女様は呆気に取られた顔で俺のことを見ていた。


 周りを見ると、市長とリリーも同じ顔だ。


 スチュワードさんは俺を凝視。セレーナは「ユーリくんはやっぱりすごいなぁー」とニコニコ笑っていた。


 あれ? 何で驚いた顔をしているんだ?


 あ、そうか……無詠唱でやっちゃったからか。そういえば、無詠唱ってできる人少ないんだった。


「……!? 肩が軽いですっ! そんな……城の宮廷治癒魔術師でも完全に治せない私の肩こりを一瞬で、それも無詠唱で……」


 王女様はこちらに聞こえない声でブツブツと独り言を呟いている。


 肩を触っているから、肩こりとかもあったのかもしれない。


「ご体調の方は良くなりましたか?」


「え? あぁ、そうですね。おかげさまでとても調子が良いです。本当に驚くほど体が軽いです……恐れながら、ユーリ様は治癒魔法が専門なのですか?」


「いえ、そんなことはないですよ。他の魔法と比べたら使い慣れてないくらいですので、まだまだですね」


「これほどの魔法をお使いになりながら、まだ足りないのですか!?」


「人体について勉強不足なので、曖昧なところが多いんです。魔法のイメージを高めるにはやっぱり実際に見て学ぶ必要があるんですが、人体をじっくり見る機会なんてないので……」


 王女様を見ると、再び瞳を輝かせて大きく頷いている。その動きがやけに子供っぽくて、可愛いらしいなと思ってしまった。


 大人っぽい印象だったけど、本当はこっちの表情が素の王女様なのかな?


 そんなことを考えていると、左右から視線を感じる。ついでに足下の影からも……。


 この感じ、穏やかな視線でないことは確かだ。


 左に座るセレーナが腕を掴んでくる。


 アカネは影から俺の足裏を蹴ってくる。地味に気になるから、やめなさい!


 俺はこの空気を誤魔化すために話を戻す。


「……すみません。話が長くなってしまって」


「いえ、いいのです。むしろもう少し……」


 王女様は急に視線を下に向けて、もじもじとし始める。


 それと同時に、俺の腕を掴む力と足裏を蹴る力が強くなっていく。


 うん。王女様には悪いけど、話を進めさせてもらおう。


「……それで今後のことですが、俺たちはどのように動けば良いですか?」


「はい、リーキへ向かいましょう(・・・・・・・)


 ……ん? “ましょう”?


「あの、それは王女様も向かわれるということですか?」


「そうです。私も同行いたします」


「誠でございますか!? 王女殿下」


 王女様がそう言うと、市長が驚いて声を上げた。


 後ろに控えていたスチュワードさんが前に出てくる。


「殿下、危険です。恐れながら城に一度お戻りになって国王陛下にご報告するのが宜しいかと」


「いえ、報告は使いの者を送ります」


「殿下自ら向かわれることを国王陛下がお許しなると思いますか? 危険です。お考えを改めてください」


 先ほどはすぐに引いたスチュワードさんも、今回は一歩も引く気はないようだ。


 それはそうだと思う。襲ってきた敵の本拠地に向かうなんて、誰が聞いても危険だとわかる。


「私が行かなければならないのです。私にはお兄様やお姉様のような魔法の才がありません。それでも、私にもできることがあると、証明したいのです」


 それは訴えと言うよりも、懇願に似た声だった。


「姫様……」


 スチュワードさんは王女様の気持ちがよくわかるのか、その呼び方が変わってしまうほど複雑そうな表情をしていた。


 少しばかり沈黙が生まれる。


 それを破ったのは意外にもセレーナだった。


「何もできない苦しさはよくわかります。わたしもずっとそうだったから。王女様は絶対ユーリくんが守ってくれる。だから、一緒にリーキへ行きましょう。いいよね、ユーリくん」


 そう言って微笑むセレーナを見たら、俺は色々考えていたことが急に馬鹿らしくなった。


 そうだ。俺は王女様に力を貸すって決めたんだ。


 王女様の望みに全力で応えよう。


「もちろん。王女様は俺が守ります」


「ユーリ様っ」


 王女様が頬を赤く染め、熱っぽい瞳で俺を見る。


 その反応にやや違和感を感じるが、喜んでくれたのだと思うことにする。


 だから、足裏を蹴るのはやめなさい。アカネさん!


「わかりました。今回は私が折れましょう……ユーリ様、殿下をよろしくお願いいたします」


 スチュワードさんが丁寧にお辞儀をする。


 俺は慌てて立ち上がり、お辞儀を返す。


「もちろん、私も同行いたしますが」


「あ、はい」


 スチュワードさん、その笑みは一体……?


 妙な緊張感(プレッシャー)を与えられ、スチュワードさんはまだまだよくわからない人だと思った。


「では、ユーリ様方。改めてリーキへの調査、及び私たちの護衛をお願いいたします」


 王女様も立ち上がり、優美な所作でお辞儀をする。


 その後、日程や、連絡が必要な関係各所の確認が行われ、3日後の朝にキャロットを出発することが決定した。

 読んで頂きありがとうございます!!


 もうすぐ70話……3章は100話を超えてしまうかもしれないですね(戦慄

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