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58 虚無魔法

 毎度、遅くなってしまい申し訳ありません……。

 居住区の上空に転移してきた俺たちはキャロットの混乱を目の当たりにする。


 我先と逃げ、目の前の人を突き飛ばす者がいた。殴り合いをする者たちもいた。


 何だ、これは……。


 正直、言葉にならない。


「ユーリくん……」


 セレーナが悲しそうな表情をして、俺と握っていた手を強張らせる。


「人が殴り合ってますよ……」


 リリーは目を逸らし、ショックを受けているようだった。


 きっと先ほどまで平和で賑やかに市民が往来していたはずだ。


 それが巨花竜の出現によって、これほどまで悲惨なものに変わってしまうなんて……。


 その時だった。


『――――おやめなさい!』


 たった一言でキャロットの市民は皆、立ち止まり放送に耳を傾ける。


 若い女性の声だった。大きな声でも、威圧的なものでもない。けれど、その言葉を無視してはいけないような気にさせる不思議な声だった。


(わたくし)はヴァレンティーノ王国第二王女エプレ・ヴァレンティーノ。緊急事態につき、非常放送を流しています』


 その名を聞いたとき、一人の存在が頭の中を過る。


 まさか、キャロットに来る前に助けた馬車に乗っていたのは……王女様だったのか。


『市民の皆様もご存知の通り、キャロット上空に突如巨大飛来物が現れました。この都市に墜落するのは時間の問題です』


 上空を見る。


 巨花竜は今もなおキャロットに向かって近づいていた。


 タイムリミットはあとわずかだ。


『だからと言って、我を失い、争うことが許されるわけではありません! こんな時だからこそ、皆が手を取り合って助け合わなければならないのです。前を向きなさい。あなたの目の前に助けを求めている者はいませんか? 泣いている者はいませんか? あなたが皆の希望となるのです! どうか皆、諦めないで……』


 エプレ王女の放送が終わる。


 皆の表情が変わっていた。絶望に染まっていたところに一筋の光が差し込んだ。


 混乱は治まり、行政局員と呼ばれる人たちによって誘導されていく。


 すごい。


 言葉で多くの人を動かすところをこの目で見た。


 真っ直ぐで、飾らない純粋な言葉にはそれ以上に多くの想いが宿っていたように思う。


「すごかったね。わたし、聴き入っちゃった」


「エプレ王女様は国民想いの本当に素晴らしい方です」


「うん……俺たちも頑張るしかないな」


 この都市を助けたいという気持ちが高まっていく。


 イメージは十分にできている。


 あとはやるだけだ。


「アカネ、後ろは任せた」


「んっ」


 相棒の力強い返事が俺に安心感を与えてくれる。


 俺は目の前の巨花竜に集中するんだ。


 転移魔法を使う。


 巨花竜の中心部分に合わせるべく、市長塔の近くに転移した。


 だいたいここら辺だな。


 市長塔に魔力を感じ、目を向けると窓からこちらを見る少女の姿があった。


 もしかして、あの人がエプレ王女か?


 まぁ今はいいか。


 俺は巨花竜の全体が見えるギリギリの位置まで転移する。


 よし、大仕事だ。


 やることは単純で、魔力を溜め、龍纏・天の力で増幅させた虚無魔法で巨花竜をまるごと消し去る。


 タイムリミットは10分は切ったといったところだろうか。


 腰に帯刀している龍剣ノワールロワを抜刀して構える。


 一瞬にして集中力を極限まで高めると、雑音が消え必要な音だけが聞こえるようになる。


 巨花竜と自分だけの世界で、魔力を高めていく。


 体の中心に位置する魔力の器がうねり、歪み、必要な形へと変わる。


 龍神(アミナス)様からもらった器は、俺の求める力に応えてくれているように感じる。


 想像した(おもった)通りに魔法が使えるということが魔術師にとってこれほど幸せなことだとは思わなかった。魔法を使う度に感動してしまう。


 龍神様、本当にありがとうございます。


 魔力は十分。


 次は魔法陣を展開する。


 剣先に五百円玉ほどの小さな魔法陣が現れる。


 それは虚無魔法の魔法陣だ。


 龍剣を介して魔力を注ぎ込むと、魔法陣が描き足されていくように円を広げていく。


 円の広がりは加速していき、あっという間に巨花竜を超えるほどの大きさとなる。


 これも龍剣の補助能力の一つだ。


 龍剣を介すことで魔力の伝達や調整、出力をスムーズに行うことができる。


 師匠、ありがとうございます。


〈ん? 何か言ったか?〉


〈いえ、何も言ってません〉


〈そうか? ……うむ、それにしても張り切っておるな主よ〉


〈……そうですね。目の前で大切な人を失う恐怖は俺もわかりますから、そんな思いは誰にもして欲しくない。それに、もとはと言えば俺がテーレを逃したせいです。しっかりその尻拭いはしますよ〉


〈なるほど。よし、妾もより気を引き締めて行くぞ〉


〈お願いします、師匠!〉


 俺は柄をギュッと握りしめ、魔法の最終段階に移る。


 魔法陣に魔力が流れ、その魔法的存在感は誰にも無視できないほどに強大なものへとなっていく。


 都市キャロットに緊迫とした雰囲気が漂って、一瞬の静寂が訪れた。


 静寂と、この危機を破る詠唱が天に響いた。



「求めるは虚無。森羅万象は唯一つとして残りはしない。無に還れ――――」




『リ・ゼロ』

 読んで頂きありがとうございます。


 本当に毎度申し訳ありません……。

 何とかペースを取り戻せるように頑張ります。

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