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52 土地痩せ

 大変お待たせしました……。

「ようこそいらっしゃいました、エプレ王女殿下」


 頬のこけた初老の男性、キャロットの市長リコピンが私に頭を垂れる。


「お久しぶりですね、リコピン市長」


「そうでございますね。以前お会いしましたのは、王女殿下が9つの時でした。ご成長され、より美しく、凛々しくなられた姿を見れて、私は感動しております……っ!」


「ふふふ」


 リコピンはハンカチを目に当て涙ぐむ。


 その姿を見て、私は内心苦笑するしかなかった。



 中央区の中心にそびえ立つこの都市で一番高く、大きな建物が中央塔(市長塔)。


 その最上階にある市長室で、軽い歓談と都市運営の状況について私たちは話していた。


「以上がキャロットの情勢になります。王女殿下……昨今のキャロットは、過去に例を見ない土地痩せにより、甚大な飢饉を迎えています。不遜の限りではございますが、エペル王太子様、エプリ第一王女様の『豊穣の力』を施して頂けないのでしょうか?」


「それは……現状、難しいと思われます」


 お兄様、お姉様は土地を回復させる『豊穣の力』が使える。


 これは王家だけが使える自然魔法の極致。


 本来、王家である私にも使えるはずの力。しかし私は豊穣の力はおろか、自然魔法すら使えない。


「エペル王太子、エプリ王女は、現在北と西の地方を視察されています。視察を終え、王都に戻られるのは早くとも半年後……キャロットに訪れることができるのは1年ほどを要すると思います」


 私は心苦しい気持ちを抑えつけて、はっきりと伝える。


「そうでございますか……」


 リコピン市長の顔が苦しそうなものに変わる。


 私にお兄様や、お姉様のような力があればッ!


 苦しさを超え、自分の不甲斐なさに私は憤りを感じざるを得なかった。




 ***




 中央塔の来賓通用門に来ると、門の外には沢山の民が集まっていた。


「王女様ぁぁ!! 私たちの畑にどうかお恵みの力を施し下さい!!」


「お願いします! このままでは何も取れないまま冬を迎えてしまいます! どうかお力をぉぉお!!」


「お願いします! 王女様!」


「王女様! お願いします!」


「王女様!」


「王女様!」


 ………………


 …………


 ……



 民の声が刃となって、私の胸に突き刺さる。


 息ができないほど苦しい。


 でもわかっている。民は何も悪くない。


 みんな生きるのに必死なんだ。


「姫様っ!」


 体の力が抜けて倒れそうになった私をスチュワードが支える。


「外の市民を静かにさせるんだ!」


 リコピン市長が部下に物凄い剣幕で指示を出す。


「は、はいっ!」


 部下が慌てて走って行く。


 リコピン市長が私の前で片膝をつき、頭を垂れる。


「王女殿下……この不始末、私はどんな罰でも受け入れます……ですから、市民の行いはどうかお許し頂けないでしょうか」


 その言葉には民を大切に思うリコピンの気持ちが感じられた。


「姫様……」


 私はスチュワードから離れて一人で立つ。


「リコピン、あなたに免じて今回の件は不問とします」


「王女殿下っ」


「ただし、私が滞在している間に民と話せる機会を設けて下さい。それが条件です」


「――――謹んでお受けいたします」


 民を大切に思う気持ちは私も同じだ。


 私に何ができるかわからないけど、民の不安や不満を受け止める。


 それがこの国の王女として生まれた私の使命だと思うから。




 ***




 ギルドの三階の一室。


 一階、二階は冒険者向けの造りだったが、三階はギルド内部の人間が使うための造りのように感じる。


 応接室の一つだと思われるこの部屋で、俺たちはゴードンさんに案内されるままに席に着く。


「さて、早速ではございますが時間は有限でございます故、ユーリ様方にこちらへお越し頂いた理由からご説明します」


「お、お願いします」


 威圧的とも思える見た目とは反して、やっぱり喋り方が丁寧なゴードンさん。


 変に俺たちも畏まってしまう。


 ゴードンさんの説明によると、ギルドというのは支部と支部で連絡を取る手段があるらしい。


 その連絡手段を使い、パンプキン支部から俺たちの情報や実績の報告を受けたキャロット支部はある依頼(・・・・)を俺たちに要請したいと考えた。


「で、その依頼というのは……」


「昨今の土地痩せ問題の原因調査でございます」


「土地痩せ……とはどういうことですか?」


「土地痩せとは畑の栄養が失われている状態のことを言います。現状、キャロット全体の9割ほどが栄養が不足しているために作物が育っていません」


 え? 全体の9割……ということは、俺たちがキャロットに来る前に見た軍畑は全体の1割ほどだったってこと!?


「あの、ここに来る前にわたしたちが見た畑は……」


 軽く混乱状態のセレーナがゴードンさんに質問する。


「恐らくまだ被害のない畑だと思います。南側の一部はまだ被害が出ていないと聞いていますので」


 やっぱりあの規模で全体の1割程度みたいだ。


 あの規模なら十分な野菜が収穫できそうだけど……そこは農業大国というわけか。作物による貿易もしていると聞いたし、あの規模では賄えきれないのだろう。


「依頼は土地痩せの原因調査でしたよね。俺たちは畑に詳しいわけではないので、お力になれるかわかりませんが……それでもいいんですか?」


「はい。と言うのも、我々は今回の件を魔物が関与しているのではないかと推測しています」


 なるほど、魔物なら俺たちに依頼を要請するのも頷ける。


 ゴードンさんの表情が一瞬強張り、何かを考えてから再び話し始める。


「……実はユーリ様方の前に調査依頼を要請した冒険者が2組いました。しかし、そのどちらの冒険者も半月が経っているにもかかわらず、未だに調査から帰って来てはいないのです」


 半月(1ヶ月)か……何かあったとしか思えない。それも2組も……。


「ユーリ様方には、その2組の冒険者の捜索もお願いしたいのです。危険な依頼ではありますが、今回はもう1組の冒険者(・・・・・・・・)の方々にも依頼を要請しています。ユーリ様方にはチームで調査して頂きたいと思っています」


 え? ……チーム?


 俺は思わず眉をひそめてしまう。


「安心してください。優秀な冒険者の方々ですから」


 その言葉からゴードンさんが信頼を寄せていることがよく伝わる。


「そのもう1組の冒険者の方々は…………」


 その時、部屋の中に転移系(・・・)の魔法を使って侵入してくる人物を察知する。


 ん? この魔力……。


 扉の前の床に魔法陣が浮かび上がる。


 その魔法陣が少しずつ上昇すると、足から順番にその姿が瞬く間に現れる。




「初めまして、ボクが『転移師』――――テーレだ」


 テーレはわざとらしく強調するようにその手に持つ魔書を閉じると、それを指輪に変化させて指に嵌める。


 そして不敵に笑って「よろしく」と言うのであった。

 読んで頂きありがとうございます!!


 大変、大変、お待たせして申し訳ありません!

 リアルの方でバタバタしていたのが半分、持病の「怠け者症候群」が半分……いや、ほぼほぼ怠けていました。本当にごめんなさいっ!

 (毎度のように言っていますが……)更新頑張ります!

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