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46 群畑

「家から出発……魔法って何でもありですね」


「普通だと思うけど」


「いえ、ユーリ様。転移魔法を使える魔術師は滅多にいないですよ」


「そうなの?」


「そうです」


 リリーの引き攣った笑顔はひとまず置いといて、俺はセレーナとアカネが来るのを待つ。


 女の子は支度に時間がかかる、とセレーナが前に話していた。早く出発したい気持ちもあるけど、だからと言って急かすようなことはしない。


 あれ? リリーも女の子だよね……?


 リリーも言っていたが、俺たちは現在リリーの家にいる。


 昨日、神殿を出てから日が暮れるまで都市に向かって進み、完全に日が暮れたタイミングで転移魔法を使って家に帰ってきたのだ。


 逆に、出発するときは進んだところまで転移するだけというわけだ。


 転移魔法って本当に便利。


「おまたせ〜」


「……待った?」


 駆け足で家から出てくるセレーナ。そして、いつの間にか俺の隣にアカネがいた。


「いや、全然……ん、髪を結ってもらったのか?」


 アカネを見ると、いつもは下ろしている髪がツインテールに結われていた。


「……似合う?」


「可愛いと思うぞ」


「ん」


 そう言うと、アカネは満足そうな表情で二つに結った髪を触っていた。


 実際、頭を撫でたい衝動に駆られているが、セレーナやリリーがいる手前できない。


「そうでしょ、そうでしょ」


 俺たちのところまできたセレーナが誇らし気にそう言う。


 セレーナを見ると、セレーナもいつもと髪型が変わっていた。


「…………」


「どうしたの?」


「あ、いや」


 後ろ髪を一本に結んだポニーテール姿のセレーナが新鮮で、俺はついマジマジ見つめてしまった。


「セレーナが可愛いなって……あ」


「……(ボフッ)」


 セレーナは顔が真っ赤になると、手で顔を隠してしまった。


 それを見て、俺の顔も熱くなってくる。


「お二人ともどうかしましたか?」


「……(イラッ)」


 リリーは頭に?を浮かべて、アカネは険しい表情へと変わっていた。


「そ、そろそろ出発しようか」


「う、うん。そうだね」


「出発です!」


「……ん」


 俺はこの恥ずかしさを誤魔化すように出発を促すと、みんなも同意してくれた。


 ダメだ。最近、セレーナがどんどん可愛く感じて……気持ちが抑えきれない。


 昔はこんなに動揺してたか?


 身体の成長とともに心にも変化が起きてるとか?


 そんなことを考えないと、大変なくらいにセレーナへの想いが溢れていく。


 ひとまず落ち着こう。


 今は、都市に行くことだけを考えるんだ。




 ***




 転移をした俺たちは、再び空の旅を始める。


 もちろん、リリーは籠の中だ。そして、今日はセレーナとアカネも籠の中にいる。


 昨日の要望を受けて、昨夜のうちに大きな籠を作っておいた。


「楽しい〜」


「そ、そうですか? 僕は怖いです……」


「……」


 籠から顔を出して、風を感じているセレーナとアカネ。


 対して、リリーは籠の中心でうずくまっている。


「リリーちゃんも外を眺めてみたらいいのに……楽しいかもよ?」


「む、無理ですよ~」


「……」


 リリーの高所恐怖症を何とか克服できるといいんだけど。


 魔法で一時的に恐怖をなくすことはできるけど、反動でトラウマになっても困るし……。


 地道になれさせるしかないか。段々と空へ上昇する特訓とかね。


「ゆ、ユーリ様? 今、何か恐ろしいことを……」


「どうした?」


「い、いえ……(気のせいだよね、きっと)」


 そう言えば、朝の時に聞きそびれたけど……。


「セレーナ、体調はどう?」


「体調? 元気だよ」


「魔力の方は?」


「落ち着いてるよ」


 神殿の一件で、セレーナの魔力の質が変化した。


 気絶した一瞬の出来事で、セレーナの魔力に何らかの影響があったのか。それとも、何かが・・・セレーナに干渉したのか。


 真相はわからないが、魔力の質が高くなったというのは確かだ。


 ひとまずセレーナが元気そうなのはよかった。


 後で長にも相談してみよう。



「あっ、畑だ」


 セレーナが下を指差して言う。


 下を見ると、至る所で広大な畑が耕されていた。


「すごいな……」


「たくさんあるね」


「ヴァレンティーノ王国は農業大国ですからね」


 そう言えば、長の家にあった書物にもそんなことが書いてあったような。


 それにしてもすごい。


 どこを見ても、畑、畑、畑だ。


 ここではどんな作物が採れるんだろ?


「群畑が見えたということは、もうすぐ都市キャロットですよ」


「なら、人に見られても困るし、ここからは降りて歩こう」


「はーい」


「はいっ」


「ん」


 俺たちは畑から離れた木々の影に降りる。


 籠からセレーナ、リリーが降りるのを手伝い、アカネが難なく飛び降りるのを確認して籠を空間魔法で空間倉庫にしまう。


 木々を抜け、道路のようなところまで出ると、周りは畑で埋め尽くされていた。


 空に向かって、青々と伸びる野菜たちがまるで緑の海のように見えた。


 空から見た景色もすごかったけど、地上(した)で見る景色は圧巻だ。


「わぁ〜すごい! これ、全部畑なんだよね」


「そのはずですよ! 僕も、これほどの規模の群畑は見たことがありません!」


 目を輝かせ、畑を眺めるセレーナとリリー。


 アカネはどうかと視線を移すと、畑から野菜を抜こうとしていた……!?


「ストーップ! ダメ! 抜いちゃダメ!」


「……?」


「これは農家の人が作った野菜で、農家の人たちのものだから、勝手に抜いちゃダメだ」


「……わかった」


「よし」


 びっくりした。思わぬアカネの行動で、ヒヤヒヤしたよ。


 よくよく考えると、アカネに畑について教えたことはなかったか。


 森では所有権なんてないようなものだからなぁ……。強い奴が独占できるって感じだし。


 これからはそう言うことも少しずつ教えていこう。


「それにしても、何で抜こうとしたんだ? お腹空いてたのか?」


「……みんな嬉しそうだったから、ユーリにあげようと思った」


 アカネは珍しく落ち込んでいるのか、俯きながらそう呟いた。


 そっか。俺のために……。


「ありがとな」


 俺はアカネの頭を軽く撫でる。


 アカネは俯いていた顔を上げて、キョトンとした顔をしていた。


「これからは俺に一言教えてよ」


「……ん」


 ツインテールを揺らし、アカネは小さく頷く。


 その姿を見て、もう大丈夫だと思えた。


 微笑ましそうにこちらを見るセレーナに苦笑を返しつつ、俺は都市キャロットがある方向を見る。


「それじゃ、出発しようか」


「うん!」


「はいですっ」


「んっ」


 俺たちは都市キャロットを目指して歩み始めるのであった。

 読んで頂きありがとうございます!!


 都市にまだ入れませんでした……。

 すみません……。

 都市に入るまでが長いぞ? あれ?(確信犯)

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