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39 紫眼の龍人

 頭から生える2本の黄色の角は先端が上に曲がっていて鋭い。大きな紫黒色の翼は深い闇を連想させ、翼と同じ色の尻尾は長細く伸びて揺れている。


 見た目は成人を過ぎた青年といった感じだ。しかし、黒と紫が混ざった髪とバイオレットの瞳が妖しげな雰囲気を生み出している。


 龍人。


 集落の人じゃない。あの龍人は、龍帝国の奴なのか?


「岩龍……動けない……この魔法……知らない」


 紫眼の龍人は岩龍を見下ろし、ブツブツと喋っている。そして俺たちに気づき、こちらを見た。


「この魔法……お前……やったか?」


「俺がやった。町を破壊させるわけにはいかない」


「そうか……」


「岩龍を町に仕向けたのはお前か?」


「……」


 紫眼の龍人は答えない。


 岩龍から感じる魔力と同じ魔力を紫眼の龍人からも感じる。仕向けたのはほぼ間違いないだろう。


「何が目的だ」


「……支配……世界を支配……する――――」


 紫眼の龍人はその言葉を言い切った瞬間、矢の如く風を切って俺に迫る。


 飛翔魔法にしては速い。魔力の流れを見るに風魔法を併用しているようだ。


 2つの魔法を1つの魔法のように使えている、そのことから紫眼の龍人はレベルの高い魔術師と言える。


 だが、魔術で負けるつもりはない。


「……?」


 紫眼の龍人が突然、固まったように空中で止まる。


 無表情を貫いていた紫眼の龍人も、身に起きた現象に動揺しているように見えた。話すことも、指一本動かすこともできない。


 それもそのはず、俺が3つの魔法を同時に使ったからだ。


 速度魔法による相手を減速させる魔法を、付与魔法を使い強化魔法の強化効果を付与する。そうすることで、紫眼の龍人に金縛りのような速度低下を与えた。


 付与魔法のいいところは本来、作用し合わない2つの魔法を強制的に作用させることができるところだ。


 まだ試せてはいないが、付与魔法によってできることはたくさんある。


 それはさておき、念のため拘束魔法で拘束しよう。


 拘束魔法(付与:吸収魔法)を使う。


 吸収魔法は言葉の通り、吸い収める魔法だ。アカネの吸血魔法をヒントに思いついた。


 今回は相手から魔力を吸収して、拘束魔法に還元することにした。


 自分でやっといてなんだけど、えげつない。


 紫眼の龍人に、紫に光る漆黒の鎖が絡みつく。


「……!?」


 鎖から魔力を吸収されている紫眼の龍人は目を見開き、驚きと不快感が混ざったような表情をしていた。


 頭だけ速度魔法を解除する。


「これは……何だ」


「拘束魔法だ」


「魔力が……無くなる」


「まぁそういう魔法だからな」


 と、そんなことはどうでもいいんだ。


 本題はこの龍人が龍帝国の者なのか、そして世界を支配するとはどういうことなのか、それを聞き出すんだ。


「お前は龍帝国から来たのか?」


「…………」


 まぁ、そう簡単には答えないか。


「質問を変える。世界を支配するって言うのはどういう意味だ?」


「…………」


 これに対しても紫眼の龍人は答えようとしない。


 答えないか。本当はこの手はあまり使いたくないんだが、やるしかないか。


 闇魔法による精神操作と、思念魔法による記憶の解読だ。この2つを使えば、基本的に本人が忘れている記憶でも探り知ることができる。


 その時だった。


 紫眼の龍人の魔力が大きく乱れ始める。姿が朧げになり、手足の先から消え去っていく。


 分身だったのか。


「……ここまで……だったか……また会おう」


「待て!」


 しかし、呼び止めた声は宙に消え、後には何も残っていない。


 紫眼の龍人は消え去った。


 何も聞き出せないまま逃してしまった。


 魔力吸収が却って裏目に出て、分身を消してしまうとは……。


 結局のところあの龍人の目的は何だったのだろうか?


 町を破壊して何をするつもりだったのか。


 その目的はわからない。ただ、人に危害を加える龍人がいるというのはわかった。


 ひとまずは、岩龍を何とかしないとだな。


 未だ重力魔法による拘束を受けている岩龍を見る。


 紅く光っていた眼を閉じ、眠っているようだった。そう言えば龍人の分身が消えてから抵抗を感じなくなっていた。


 やはり紫眼の龍人によって操られていて、分身が消えたタイミングでその効果が解けたのだろう。


 これ以上暴れることはないので、少し安心できる。


 終わりなき森にどの龍ともナワバリが被っていない場所が確かあったはずだ。岩龍はそこに転移させよう。


とりあえずの方針を決め、俺はセレーナたちのもとへ戻る。


 戻ると、セレーナたちは明らかに心配そうな顔をしていた。特にセレーナは一番に俺に飛び込んできて、俺の体をペタペタ触って傷を確認する。


「くすぐったいよ、セレーナ」


「ユーリくん大丈夫? 怪我してない?」


「大丈夫だよ」


 俺が笑って答えると、セレーナは少し安堵したようだった。


 人化したアカネが俺の側による。


「ユーリ、敵は?」


「逃げられた、というより分身が消え去った感じだな」


「そう……」


 アカネは安堵というよりも、少し悔しげな表情をしているような気がした。


 責任を感じているのだろうか?


「仕方ないよ、気にしなくていい。むしろ、捕まえたのに情報を聞き出せなかった俺の方が悪い」


「うん……?」


 アカネは首を傾げる。あれ、違うことだったのか?


 すると、セレーナがやや難しい顔をして俺に聞く。


「消えちゃった人って龍人なの?」


「――うん、龍人だった」


「そっか……本当に龍人が……」


 セレーナはポツポツと呟いて、それを自分の中に受け入れようとしていた。


 そうだよね。同族が誰かを傷つけている、それは簡単に片付けられる話じゃない。


 それでも俺たちは事実として受け入れて、これ以上誰かを傷つけさせてはいけない。


 破壊された町を見渡す。


 たくさんの人で溢れ、活気に満ちていた町並みは同じ町だとは思えないほど静かで、見るも無惨だった。


 龍帝国を止める。


 俺は改めて己の役目を果たすと誓った。

 読んで頂きありがとうございます!!


 更新遅くてすみません……。

 来週こそは……(期待せずにお待ちください)

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