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12 決闘2

「迷うな、ユーリ」


 そう言いいながら母さんは俺に手を差し伸べた。


 これはまだ俺が8歳を過ぎた頃の話。



「どういうこと?」


 俺はお母さんの手を取って立ち上がりながら意味を聞く。


「お前はこうと決めたら一直線だが、自信のない()を選ぶ時、無意識に躊躇(ためら)っている」


 今までの稽古を思い返してみる。


 確かに俺は自信がない技を選ぶことに対して躊躇っているかもしれない。


「自信のない技を使うことは誰しも躊躇うことだ。私もな」


「お母さんも?」


「あぁ、そうだ。だがなユーリ、自信がないから使わないという選択だきょうを続けていると、それは知らず知らず自分の限界になってしまうんだ。私はお前に限界をつくって欲しくない」


 お母さんは真剣な顔から表情を柔らかくして俺の頭に手を乗せる。そして軽く撫でながら言う。


「ユーリの可能性は無限大だ。何たって私の息子だからな」


「うん!」


 お母さんが笑い、俺も笑う。


 穏やかな陽だまりに包まれながら、ゆっくりと流れる時を過ごしているような気分だった。


 そのまま短い休憩を挟み、再び稽古が始まる。


「いつでもいいぞ、ユーリ」


 これはお母さんが稽古を始める時の決まり文句だ。


 だから、俺もいつもと同じように答える。気合いを込めて。


「うん!」


 お母さんに向かって真っ直ぐに駆け出した。




 ***




 そうだ。妥協しちゃダメだ。


 例え不利になる可能性があったって、今出せる全力を尽くさなきゃ母さんを納得させることは出来ない。


 眼前には変わらず母さんの拳が迫っている。


 俺は目を閉じた(・・・・・)


 それは殴られることに対する恐怖からではない。全力を尽くすために必要なこと。


 スイッチを入れた。


 OFFからONへのタイムロスはない。


 俺は目を開く。


 あと数センチの距離にある拳が止まって見えた(・・・・・・・)。正確には止まって見えるくらいスローモーション(・・・・・・・・)に見えている。


 徐々に母さんの眉間にしわが寄っていく。


 俺が一度、目を閉じたことに違和感を感じたのだろう。


 このまま回避、といきたいところだが、いくらスローモーションに見えてもこの距離からの拳は避けきれない。


 なら、拳を逸らす。


 母さんの拳がどの向き、どんな流れで放たれているのか読む。


 そして、最も力が作用する部分に向かって腕を振る。


 そこから世界の速度が元に戻っていく。


 腕と腕がぶつかり、母さんの拳は俺から大きく逸れた方向に流れる。


「なッ!?」


 母さんは必中だと確信していた一撃を寸前で逸らされたことに驚きを隠せていない。


 しかし、さすが母さんだ。


 驚くのは一瞬で、すぐさま二の手を繰り出してきた。


 俺は再びスイッチを入れる。


 生半可な防御では砕かれてしまいそうな攻撃を圧倒的な集中力(・・・・・・・)で的確に捌く。初動、目線、呼吸、筋肉の伸縮、あらゆる情報を逃さない。


 スローモーションで攻撃を捉えるこの技は『見切り』と呼ばれているものだ。


 ただし、ただの見切りではない。経験則や直感をもとにせず、超集中状態で相手を見て情報収集することで始めて成立する『完全な見切り』だ。


 元はどんな状況でも魔法を使えるために集中力を鍛えていたものを、師匠のアドバイスから武術でも活用したことで生まれた俺だけの技である。


 ただ、この『見切り』は負荷が大きくて長時間の使用は厳しく、連続で使い続けるほど精度は落ちていく。


 それでも見切ることでの優位性は絶大だ。


 見切りで、母さんが次の攻撃をするために息継ぎをしようとしているのがわかる。


 それは時間で言えば数秒にも満たない。


 だが、俺ならその隙を狙える。


 母さんは息継ぎをするタイミングで必ず構え直す。その瞬間が勝負だ。


 見切りを継続できる時間は残り数秒。


 拳や脚が定位置に向かって戻されていくのを確認する。


 集中力が限界を超える。


 ――――今ッ!!!!











「――――参りました」


 仰向けに倒れた母さんの額に拳を当てていた俺はその言葉を聞き立ち退こうとするが、全身から力が抜けて崩れ落ちる。


 倒れた筈なのに痛くないのは母さんが受け止めてくれたからだ。


 これじゃどっちが勝ったのかわからなくなりそうだ。


 見切りの過度な使用から意識が徐々に薄れていく中で、母さんの語りかける声が聞こえる。


「あんなに小さかったのになぁ。いつの間に大きくなって……」



「私が森の中で見つけて、拾って、育てることになって、子供ましてや人族の子を私が育てられるのかと不安だった」



「ただ、ユーリの寝ている顔を見ているとそんなことはどうでもいいと思えた。私がこの子を守ろうと、一人前になるまで必ず育て上げようと思ったんだ」



「でも、お前はただの赤ん坊じゃなかったな。今でも覚えてるぞ? ユーリが魔力の具現化を初めて見た時は驚いて自分の目を疑ったよ」



「それと、初めて私のことを『お母さん』って呼んでくれた日のことは一生忘れないな」



「ユーリは私の作ったものを本当に美味しそうに食べるから作り甲斐があった。特にポークバードのソテーが大好きだったよな」



「それから私に稽古をつけてくれと頼んできた時は嬉しかった。本当に嬉しかった。でも、その時ユーリの魔法を初めて見て驚いたし、やっぱりただの子供じゃないと確信した」



「最初は私の動きをマネするのもやっとで、1人でやらせたら変な踊りみたいになってたこともあったよな」



「剣を握らせたら、すごくキラキラとした目になって……あぁ、でも私のオリジナル魔法を教えた時の方がキラキラ度合いがすごかったか?」



「気がつけば毎日稽古してたな。本当によく頑張ってたよ」



「ユーリが1人で狂暴竜を倒したと聞いた時は半分信じられなかったし、その時からすでに私を超えていたんだよな」



「思い返すとたくさんのことがあったよな」



「それで成龍の儀を受けたはずが、終わりなき森から帰ってきて……集落から出るって言うし……グスッ…………もう、会えなくなるのか?


 わたしはやだ……もっとユーリと居たい。


 もっとユーリの成長を見たいッ――――」



「……グゥー、グゥー」


「…………」


「……グゥー、グゥー」


「え? ユーリ? まさか寝てるのか?」


 ユーリはすっかり寝ていた。


 始めはアーテルの話を聞いていたのだが、見切りの連続使用がやはりこたえたらしい。


 数分もしないうちに、アーテル(はは)の胸の中ということもあってか直ぐに寝たのであった。


「疲れたのはわかるが、少しくらい母の話を聞いてくれぇぇぇぇええ!!」


 星が見えるほど暗くなった訓練場にアーテルの嘆きの声が響いた。

 読んで頂きありがとうございます!!


 どうやら作者はシリアスっぽい雰囲気を書きたくなるくせに、急にギャグに走りたがるみたいです。どうでもいいですね。

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