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9 バカップル

「ユーリ」


 アカネの声で意識は一瞬にして戻る。


 驚くほど眠れた、今の感想はそんな感じだ。


 森にいた頃は仮眠を取るにしても完全に眠らず、意識の一部を常に外へ向けている必要があった。


 アカネと出会ってからは眠れる時間も増えたがそれでも警戒を全て解くことはできない。


 しかし仮眠でしっかり眠れた。俺の中では革命的なまでに素晴らしいことだと言える。


 一方で場所は違えど森は森だろ、と言えるかもしれないがその点は全く問題ない。


 集落付近の森にいる魔獣で俺に手を出せるやつはまずいないと思う。いたとしたら……いや、やっぱりいないな。


 中級、下級レベルの魔獣から見た俺はきっと化け物とかそんな感じだろうと思う。


 それだから眠れたのかもしれない。


 こんなことを考えられるほどには思考が動き始めた俺だったが、アカネの一言で全神経が完全覚醒する。


「約束はいいの?」


 約束……やくそく……ヤク、ソク…………。


「なっ! 約束!!」


 昨日交わしたセレーナとの約束がフラッシュバックする。


 集合時間は太陽が1番高くなるより前。


 俺は首が動かせる限界速度ギリギリで空を見上げる。


 首痛っ!


 それよりも太陽の位置!


 結果から言うと太陽はほぼ真上、つまり1番高い位置にある。


 確認してからは早かった。


 待ち合わせの場所に座標を合わせ、転移魔法を使う。


 一瞬、アカネのことが気になったが俺に言われるまでもなく影に潜り込んでいた。


 テレビのチャンネルを変えるように視界が切り替わる。


 しかし、焦りすぎていたのか座標を少し間違えた。


「「わっ!?」」


 俺とセレーナの驚く声が重なる。


 文字通り目と鼻の先にセレーナの顔があった。


 驚いた勢いで後ろに仰け反ったセレーナをとっさに腕を引いて腰を支える。


 まるで社交ダンスの最後の決めポーズのような格好になってしまった。


 目が合いながらしばらくお互いに固まってしまう。


 こんな状態だと言うのに俺はセレーナの顔に見惚れていた。


 何度見たって、むしろ毎回会うほどに思い知らされる。


(セレーナって、 本当に――かわいい)

(ユーリくんって、本当に――かっこいい)


 世界一のバカップルがここにいた。



 2人だけの世界から何とか抜け出せた俺たちは少しだけ距離を取り、顔を真っ赤にして心の中で悶えていた。


「待たせてごめん!」


 落ち着きを取り戻せてきた俺は誠意を込めて謝る。


「いいよ」


「よかっ――」


 そこにすかさずセレーナが、


「ただし、今日はずーとわたしの側にいてねっ」


 油断していた。


 天使の笑顔でそんなことを言われたら心臓がいくらあっても足りないよ!


 力を抜けば今すぐにでも緩み切ってしまいそうな口元を必死に隠す。


「ユーリくん、行こ!」


 そんなことは露にも知らないセレーナは俺の手を引いて歩きはじめる。


「う、うん」


 大丈夫かな、俺。


 平然とはほど遠い心境の中、セレーナに合わせてしっかり俺も歩きはじめた。


 ***


 俺の左手にそっとセレーナの右手が重なり合う。自然に繋がれた手は歯車を噛み合わせるように指と指が交差してぎゅっと固く結ばれる。


 自分のものとは全く違う細くて柔らかい手が俺をドキドキさせる。


 手を繋いだだけなのにセレーナをもっと近くに感じられて嬉しい。


 そんな幸せに包まれながら俺とセレーナは目的地へとゆっくり歩いていた。


 緩やかな上り坂の先、目的地に到着する。


「いつ見てもやっぱり綺麗だなぁ」


 そこは子供の頃よく遊びに来ていた場所。見渡す限りの色とりどり鮮やかな花々の絨毯が広がっている美しい花畑だ。


「うんっ、そうだね」


 目が合いセレーナがニコッと笑う。


 まずい……油断してたら頬がすぐに緩んじゃいそうだ。


 俺は話題を変えることにする。


「お腹空いてきたなぁー」


「お弁当作ってきたよ」


「おぉーやったっ!」


「じゃあ、お昼にしよっか」


「うんっ」


 俺は頷くと空間魔法で空間倉庫から5~6人は座れる大きな布を1枚取り出す。


 そして自然魔法と土魔法を併用して花々を傷つけないように土ごと移動させ布を広げる。


 その一連の動きを見てセレーナは目をパチパチとさせて驚いていた。


「ユーリくん……詠唱は?」


「え? いらないよ」


「…………ずるい」


 頬を膨らませジト目で俺を見るセレーナ。


「セレーナもできるようになるよ」


「それって何百年も先の話でしょ!」


「……そ、それはどうかなぁー」


「目そらしたぁ。やっぱりそうなんだ」


 セレーナは肩を落とし、わかりやすいくらい残念そうにしていた。


 いたたまれなくなった俺は広げた布へと逃げるように座る。


 それを見たセレーナは「まぁユーリくんはユーリくんだし、仕方ないよね……」と呟いて俺の向かい側に座る。


 ユーリくんはユーリくんだし、ってどういう意味なんだ!?


 そんなことは余所にセレーナは三段弁当を並べていく。


 お弁当を覗くと色とりどりの料理、それも俺が好きなものばかりだった。


「美味しそう!」


 セレーナは嬉しそうに準備を終える。


「いただき――あ、そうだ」


「どうしたの?」


「アカネも一緒にいいかな?」


 なぁーんだ、という顔をしたセレーナは優しく微笑んで答える。


「もちろんっ」


 そんな女神のような微笑みをされたら惚れ直しちゃうよ! ってそうじゃなかった。


 アカネに声をかけないと。


 アカネ――と名前を呼ぶ前に、俺の背に隠れるように現れたアカネ。


 一瞬殺気立っていたように感じたけど気のせいな筈だ。


 アカネは俺の背を盾に顔を覗かせる。前もそうだったような……。


「アカネちゃん、こんにちは」


 セレーナは気さくに声をかける。


 無反応とまではいかないがアカネはセレーナを見ているままだ。


「一緒にご飯食べよ?」


「……ん」


 お、相槌打った。


 子どもが初めて他の子と話したところを見たような感動が胸にこみ上げる。いや、あくまで想像だけども。


 アカネは俺の背からずれて真横にくる。


 若干近いような気がするけど、不安な気持ちがまだ残っているのだろうと思って特に指摘しないことにした。


「じゃあ、改めて――いただきます!」


「いただきます」「……いただきます」

 読んで頂きありがとうございます!!


 更新が遅れてしまい大変申し訳ございません!

 理由としては書いていた半分くらいのデータが消えてしまいまして……それからはお察しの通りです、はい。

 愚かな作者をお許しください……。

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