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7 騒がしく楽しい夜

「ユーリ!」


 この声は……


「アニモ!」


「元気だったか?」


「うん。アニモは?」


「おぅ、最高に元気だぜ!」


 親指を立てグッドマークを突き出しながら元気たっぷりな笑顔を見せるアニモ。


 アニモの明るくハツラツとした声を聞くと何だか自分まで元気になれる。


「なんか、でかくなったな」


「そうか?」


 俺は改めて自身のことを振り返る。


 転生してから12年と約5ヶ月(地球換算で10ヶ月)で、今が水の月21日。


 風の月18日が俺の転生した日たんじょうびなのでもうすぐ13歳だったりする。


 13歳と言えば地球でも成長期真っ只中で、それはこの世界でも変わらないのかもしれない。


 俺とアニモの身長差は頭1つ分とまではいかないがそれくらいはある。


 アニモが特別小さいという訳ではなく龍人の成長速度は赤ん坊からこのくらいの歳になるまでは人族(俺)と同じで、そこからは緩やかに成長していく。


 だから母さんは現在192歳にして人族の20歳前後の容姿をしている。


 他の長寿の種族(森人族など)も同じような成長の仕方をするって書物に書いてあった。


「ユーリはこれからどうするんだ?」


「え?」


 たわいない会話の途中、俺は完全に油断していた。


 唐突な問いに――アニモからしたら純粋な疑問かもしれないが――俺はドキリとした。


 どう答えればいい。


 いや、まだ話すのは早い。


 俺がどう答えるか言葉に迷っていると長の声が聞こえ一斉に長へと注目が集まる。


 偶然の助け船によって救われた俺はそのまま長の言葉を聞く。


「うむ。料理が出揃ったというのでな、ここで皆を代表して儂から一言挨拶したいと思うのじゃ」


 長は一拍間をあけてから俺の方を見て言葉を続ける。


「よく帰ってきたユーリ。今日は存分に食べて飲んで笑い、長き奮闘の疲れを癒やして欲しい。皆もユーリを労い、讃えてやってくれ……では森の恵みに感謝して頂くとしよう」


「やったー! ご飯だー!」


「フリージアっ! お前ってやつは……」


「ひぃっ! だ、団長っ、副団長を止めてください!」


「残念だが無理だ」


 諦めろと告げるシュタルクさんおとうさんの表情にフリージアお姉ちゃんは絶望し、他のみんなは声を出して笑う。


「団長に助けを求めるなんて情けない。明日はみっちりしごいてやる」


「そ、そんなぁ~」


 フリージアお姉ちゃんの嘆きの声が響く中、みんなは母さんが作ったご馳走を楽しむ。


 俺も可哀想だなと思いつつも食欲には逆らえず、森では食べれなかった文字通りのお袋の味を思う存分味わった。


 久しぶりに食べた母さんの手料理はやっぱり世界一で、涙が出そうなくらい美味しかった。

 ご飯を作ってもらって、食べれるという幸せを今日ほど感じたことはないかもしれない。


 近くまで来た母さんと目が合う。


 俺は口いっぱいに詰め込んでいた料理をしっかり味わってから飲み込んで、一言伝える。


「美味しいっ!」


 母さんは一瞬目を丸くしたが、直ぐに嬉しそうに微笑んで「ありがとう」と言って俺の頭を軽く撫でた。


 それがすごく嬉しくて、でも照れくさくて俺はまた美味しい料理を口に頬張ることにする。

 詰め込みすぎてのどに詰まりそうになったが、血相を変えた母さんが慌てて水を持ってきてくれたおかげで一命を取り留めた。


 皆さんも食べるときはよく噛んでから飲み込みましょう。ソースは俺。


 ***


 騒がしく楽しい夜はテーブルにあった料理すべてがなくなると共に終わりを迎えた。


 みんなを送り出し、最後セレーナたちが帰ると驚くほどに家は静かで広く感じた。


 思えばこういうパーティーみたいなものは転生する前じゃ経験したことがなかったから、こんなに楽しくて幸せなものだって知らなかったな。


 それに終わると途端に寂しくなる。


「終わったな」


「すごかったね」


「そうだな」


 俺と母さんは合わせたわけでもなく同じタイミングで笑い出す。


 今日は何回笑ったのだろうか。


 数え切れないほどたくさん笑った。


「よし、片付けるぞ。ユーリ、手伝ってくれるか?」


「もちろんっ。あ、でも母さんは座ってて」


 俺は椅子を持ってきて母さんを座らせる。


 片付けようと言ったのに座らされた母さんは眉を寄せて説明をしなさいっと目で語っているが、説明するよりもやってしまった方が早いのでちゃちゃっと実行する。


 具現化した蒼い魔力の腕が床から雑草のようにニョキッと生える。


 その腕は床に落ちたゴミを拾うと次に生えてきた魔力の腕に手渡す。


 ゴミを渡された魔力の腕はそのまた次に生えてきた魔力の腕に手渡す。


 それを数十回と繰り返し、ついにゴミ箱の近くに生えてきた魔力の腕にゴミが渡り捨てられた。


 見渡せば家中が具現化した魔力の腕でいっぱいになっている。


 箒を掃く腕、床を拭く腕、皿を運ぶ腕、皿を洗う腕、窓を拭く腕など、家事を遂行していく魔力の腕たちに母さんはポカーンと口をあけてただ見ていた。


 母さんが驚くのも無理はなくてこの数(100弱くらい)を具現化すること、それもそれぞれに違うことをさせられるのは自惚れではなくこの集落で俺くらいだと思う。


 まぁざっくりと言えば、それぞれ数字が違う100個の簡単な計算を同時にすることに近い。


 もちろん転生する前の俺だったら不可能だったが転生して修行した俺には可能だ。


 あと、倍くらいの数までならコントロールしきれる。


 そんなこんなで片付けは瞬く間に終了した。


「終わったよ」


「へ? そ、そうか。ありがとう……」


 母さんはしばらく綺麗になりすぎなくらい綺麗になった部屋を見つめて「うん、わからん」と何かを諦めたように呟いた。


「母さん」


「何だっ、まだ何かするのか? もう大丈夫だぞっ」


「えーと何が大丈夫なのかわからないけど、じゃなくて……少し話せる?」


 声音から察してくれたのか母さんはいつもの落ち着きを取り戻してそっと俺に椅子を勧めてくれた。

 読んで頂きありがとうございます!!


 更新日は定期的にしようとしていますが、更新時間は不定期のままですみません!

 こればかりはどうかご容赦くださいっ!


 ちなみに夏休みの宿題は追い込み型でした。

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