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6 いずれ2人で

 広場を中心に広がる灯りを眺めながら俺は何を話せばいいのかと迷い考える。


 いつもは何を話すかなんて考える必要も無くて、簡単なことなら言わなくても通じ合ってしまう。


 だからこそ今アカネは何を思っているのかわからないことが悔しい。


 アカネの全てを理解することはできなくとも、それでも理解者でありたいと思う。


 それは傲慢で身勝手なことかもしれないけど、アカネの相棒であり家族だと言い張るための意地だ。


 わからないなら聞くしかない。


 あれこれ考えたってわからないものはわからない。


 それなら直接本人に聞くのが解決の近道だと思う。


集落ここは嫌か?」


「わからない」


 本当に自分の気持ちがわからないということが顔を見なくとも伝わってくる。


 そしてゆっくりとアカネは言葉を続けた。


「影からずっと見てた。ユーリが楽しそうで、私もユーリが楽しいと嬉しい……だけど、なぜか寂しい気持ちにもなる」


 自分で自分を殴りたくなった。


 馬鹿だ。俺は馬鹿野郎だ。


 結局俺はアカネのためだと言い訳して俺の気持ちばかりを押しつけて、ちゃんとアカネの気持ちを知ろうとしていなかった。


 森から出て頼れるのは俺だけだというのに、その俺が放っておくようなことをして寂しい思いを不安な思いをアカネにさせていた。


「ユーリと私はずっと家族」


 それは確かめるように、信じるように、力強くアカネが言う。


 あまり感情が表に出ない顔はそれでもずっと側にいればわかるようになってきて、今アカネが不安と期待を抱えているのが表情からわかる。


 だからこそアカネが不安に思わないように何度だって言う。


「ずっとずっと俺とアカネは家族だ」


「知ってる」


 アカネは素っ気なくそう言って前を向くが、その口元がわかるくらいにはつり上がっていて俺は微笑まずにはいられなかった。


 素直じゃないな。


 しばらくの間、俺たちは森とは大違いなくらい騒がしい集落の夜を眺めた。


 ***


 セレーナといた方へ戻ったが、やはり先に帰ったらしく俺たちも帰ることにする。


 帰り道これと言った会話はなく家に向かってまっすぐ帰る。


 気まずいとかではなく、いつも通りの雰囲気なのでむしろ安心した。


 結局これからどうするかは決めてないが、アカネに寂しい思いはさせたくない。


 それだけは絶対に。


 だけど、どうすればいいのか思いつかない。


 無理に何かをする必要もないとそう思う部分もある。


 だからゆっくりと道を探していく。


 ひとまずは家に帰ろう。


 家の前までつくとアカネは俺の影に隠れてしまう。


 それを止めようとは思わない。


 まだ今日会ったばかりなんだ。


 これから少しずつでいい。


 いずれ2人でただいまを言える日がくると思うから。


 今日はアカネの分も俺がただいまを言おう。


 ドアを開けて元気よく。


「ただいま!」


『ユーリ(くん)、アカネちゃん、おかえり!』


 重なり合うみんなの声が温かく俺たち・・を迎えてくれる。


 懐かしい家の中は相変わらず無駄なものがなくシンプルな内装だが、今日はたくさんの飾りと豪勢な料理がテーブルに並び、その周りには見知った――懐かしい顔ぶれで溢れていた。


 母さん、セレーナ、ラルージュさん、シュタルクさん、長、それからアニモ、ブリオおじさん、フリージアお姉ちゃん……。


「え、えっ、なんで?」


「今日はユーリが帰ってきためでたい日だから、ご馳走を作って出迎えようと思ってな。せっかくだからみんなも呼んだんだ」


「そっか、だからみんながいたんだ」


 納得したけど、こんなに集まってくれるなんて……やばい、嬉しすぎてにやけそう。


 母さんが俺の頬をそっと撫でる。


「本当によく帰ってきてくれた……ありがとう、ユーリ」


「母さん……」


 母さんは泣かないように唇をきゅっと噛みしめていたが、気持ちを抑えられなくなって俺を力強く抱きしめる。


 みんなに見られているという恥ずかしさを感じつつも、母さんの気持ちが伝わって嬉しかった。


 本当に帰ってこれてよかった。


 母さんは顔を赤くして俺から離れると「私はご飯の準備に戻るから、あとでな」と言って足早に奥へと行ってしまった。


 そして入れ替わるようにもう1人のが現れる。


「ふふふ。ユーリくん、本当におかえりなさい。私もすごく心配していたのよぉ」


「ラルージュさん」


「もうっ、ママって呼んで」


「いや、それはちょっと……お義母かあさんで許してください」


「うふふふ」


 ラルー……お義母さんは俺の困った顔を見てニコニコと笑っている。


 全然変わらないなぁ。


 それが何故か嬉しいとも思う。


「ママ、ユーリくんが困ってるでしょ」


「あら、そう?」


「ごめんね、ユーリくん」


 申し訳なさそうにしていたセレーナが俺の近くまで寄る。


 いきなりの接近でドキッとしたがどうやら様子が違った。


「アカネちゃんは大丈夫だった?」


「うん。まだ時間は必要だけど……それとみんなにアカネのことを話してくたんだよね。ありがとう」


「うん。みんなアカネちゃんと話したいって、もちろんわたしもね」


 セレーナの言葉を聞いて自分のことのように嬉しくて、嬉しすぎて仕方がない。


 どこまでも温かいこの場所が本当に好きだ。


「ありがと――」


「ユーリくんっ! 元気かーい」


「ふ、フリージアお姉ちゃん!?」


 後ろから抱きつかれて驚いた俺を見てフリージアお姉ちゃんは面白そうにしている。


 この人はもぉー空気を読んでくれ!


 俺はジト目でフリージアお姉ちゃんを見る。


「なになに、ちょっと今はまずかった? ごめんねー」


「いえ、大丈夫デスヨ」


「ならよかったー」


 待って。全然大丈夫じゃない。


 気づいてフリージアお姉ちゃん。セレーナの目が笑ってないよ。


 俺は身の危険を感じてフリージアお姉ちゃんをこの場から引き離そうと試みる。


「そ、そう言えば母さんがフリージアお姉ちゃんを呼んでいたような」


「え、本当に。何のことだろ? まさか、つまみ食いがバレたとか……」


 つまみ食いしたんかい!


 フリージアお姉ちゃんはテンションを180度ひっくり返したようにトボトボと母さんのもとまで歩いて行った。


 なぜか悪いことをしたような罪悪感を感じてしまう。


 いやいや、俺は悪くない。


 そのままセレーナの方を見るとジト目が向けられていた。


「セレーナ?」


「わたし、あっちで準備してくるから。またあとでね」


「あ、うん。わかった」


 俺はただ頷くほかなかった。


 帰ってきてからあの感じのセレーナがちょいちょい出てくるけど、何でだろう?


 そんなこと前はなかったと思うんだけどなぁ。


 離れていくセレーナの背を見ながら俺は女の子の成長(?)を感じずにはいられなかった。

 読んで頂きありがとうございます!!


 気がついたんですが、まだユーリたちが帰ってきてから1日が終わってないという……なのにイベントは盛りだくさんに。

 寄り道してるつもりはないんですが、ダラダラと書かないように気をつけます!

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