1 ただいま
ユーリくんが成龍の儀を受けて3ヶ月が過ぎた。
ドアを開け外に出ると、わたしの寂しさなど打ち消してしまいそうな程の眩しい光が降り注ぐ。
ユーリくんがいない生活に慣れたなんてことはないけれど、でも泣いているだけのわたしからは成長した。
ここ1ヶ月はアーテルさんと修行をして鍛えてもらった。
今日は久々の休日だったりする。
「今日は天気もいいしお散歩でもしようかな」
何となく導かれるようにわたしは広場まで足を運ぶ。
今日はいつもより騒がしい。
お昼に近い時間になると広場には人がたくさん集まるけど、今日は特に多い。
何かあったのかな?
わたしはみんなが集まっているところまで来ると円の外からジャンプしてみたり、頭と頭の間から覗いてみたりするがよく見えない。
騒ぎの中心に向かってわたしは潜り込む。
横から上から押し潰されそうになりながらも何とか円の中心に飛び出す。
息苦しさから解き放たれて大きく息を吸い込んだ直後にわたしは息を止めた。
幻かと思った。
嘘だと、ありえないと思った。
目からは止めようのない涙が流れ、色々な感情がごった返してよくわからなくなる。
「ゆぅーり……くん?」
少し大人の顔つきになった彼は懐かしい笑顔でわたしを見てから、変わらない優しい声でわたしの名前を呼ぶ。
『セレーナ、ただいま』
たったその二言でわたしの我慢は限界を迎え、思いのままに駆け出す。
わたしが来るのをわかっていたかのようにユーリくんは腕を大きく広げわたしを受け止める。
ただただわたしは涙を流し続けユーリくんの優しさに甘えた。
ユーリくんだっ、ユーリくんだっ――――
転移魔法を使い俺たちは集落に帰って来た。
約3ヶ月(地球で言うと6ヶ月)ぶりか……。
何だろうな、久しぶりのはずなのに違和感なんてなくて夢から覚めたくらいにしか感じない。
やっぱり集落は俺にとってそれほど大切な、あたりまえの場所なんだ。
アカネには念のため影魔法で影に隠れてもらっている。
俺が帰って来ただけでもみんなを驚かせてしまうだろうし、さらにアカネもいたら収拾がつかなくなりそうだからだ。
真っ先にセレーナのもとへ行きたいところだが、ひとまず長に報告してからでもセレーナたちに会うのは遅くないはず。
苦渋の決断ってやつだ。
長の家に向かって広場を歩いていると話し声や笑い声がたくさん聞こえる。
昼頃だから余計に広場は賑わっているのだろう。
「ユーリじゃねぇーか!?」
反射的に俺は声がした方を向く。
「ブリオおじさん」
「やっぱりユーリじゃねぇか! いつ帰って来たんだよっ!」
「今さっき帰って来たんだ」
「おぉ! そうかそうか!」
ブリオおじさんはそう言いながら俺の肩をバシバシ叩く。
そして俺は気がつく。
先ほどまで賑やかだった広場が静まり返っていることに……。
「おい、今ユーリって聞こえなかったか?」
「あのユーリか?」
「いや、まさか」
「魔法バカの?」
魔法バカは余計だ!
完全にみんなは俺に気がついてる。
何も隠していなかった俺も悪いがこんな状況になるとは予想もしていなかった。
「ユーリが帰ってきたぞぉぉぉおおお!!!!」
『わぁぁぁあああ!!!!』
それをきっかけに人の波が押し寄せる。
逃げられそうな抜け道を探すが俺を囲い込むように集まっているためなさそうだ。
さらにブリオおじさんが俺をがっちりホールドしてきて逃げることを許さない。
逃げる手段がないわけではないが、どのみちこうなってしまうなら無理に逃げる必要もないか。
ユーリ周囲網は抜け目なく完成していた。
投げかけられる質問の猛襲を適当に返しているとユーリ周囲網の一部がこじ開けられていくように動く。
誰の仕業なのかは、わかっている。
俺がブリオおじさんに見つかったあたりから近づいていた。
本当は再会するのが少し怖かったんだ。
早く会いたいと思いながらも、心のどこかで俺のことを好きではなくなっていないかとゴチャゴチャ考えて尻込みしていた。
好きだからこそ大切な人が離れていってしまうのが一番恐ろしい。
でもそれは言い訳だ。
例え大切な人が遠くに行っても、心が離れたとしても大切だと想い続けることはできる。
そう思える人が俺にとってセレーナであり、アカネや母さんなんだ。
答えが決まれば心は穏やかになる。
「ゆぅーり……くん?」
まずは言うべき言葉から――
「セレーナ、ただいま」
読んで頂きありがとうございます!!
セレーナ視点から始まり、途中でユーリ視点に変わりました。
再会って嬉しいだけではないのかなぁと思います。
深い意味はないです(汗)
そんなこんなで3章本編が進み始めました。
亀更新ですみません……。
それでもお付き合い頂けると嬉しいです!
(後書きが長くなってしまった……)