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40 ノワールロワの最期

 その日、森には大粒の雨が降り注いでいた。


 小動物は大きな葉の裏に隠れ、ほとんどの魔獣も住処で雨が止むのを待っている。


 そんな中1匹の龍が森の上を飛んでいる。


 光も許さぬ漆黒の龍鱗、片翼の大きさが大型の魔獣ほどある翼、どんなに硬いものでも斬り裂けそうな爪をもつその黒龍は目的の場所を見つけて静かに着陸する。


 そして黒龍は弱々しく光を放ちながらその身を女の人の姿へと変えた。


 彼女は龍人だ。名をノワールロワ。


 初代龍王という肩書きをもち、幾千の戦で生き残ってきた龍人の英雄。天下無双の黒龍王とも敬拝されていた。


 しかし今のノワールロワにはその覇気が感じられない。


 ノワールロワの目前には圧巻と言えるほどの巨樹が(そび)え立っていた。


 腹を抱えながらノワールロワはそこに背を預ける。


(わらわ)も歳じゃな……」


 ノワールロワは顔を白くして薄く笑う。


 抱えている腹からは赤黒い色をしたものが流れている。


あやつ(・・・)と刺し違えるのがやっととはな」


 ノワールロワは腹の痛みに顔を歪めるとしばらく雨の音で気を紛らわす。


 そして目をそっと閉じノワールロワは何か思い出したのかクスクスと笑う。


 体中にたくさんの傷跡と腹には大きな切傷があるというのに、ノワールロワは可憐で美しく見える。


 雨に濡れていても金色の髪は輝きを失わない。それが幻想的で1枚の絵画のようだ。


「妾は死ぬのか……」


 その声色は言葉と裏腹に気楽な調子だった。


 この巨樹の下で眠れるなら悔いはないと、ノワールロワはそんな表情でゆっくり眠りに就いた。


「……はずだったのじゃが、ここはどこじゃ?」


 真っ白な場所。何もない、どこまで広いのかさえわからない無機質な空間にノワールロワは立たされている。


 何故か傷が綺麗さっぱり消えている。


『眠るところ悪い。ノワールロワ』


「アミナス様ッ!」


 今までそこにいたかのように龍神アミナスが自然に現れた。


 アミナスは片膝をつき(こうべ)を垂れるノワールロワに近づいて、どこから出したのか座布団を床に敷いて腰を下ろす。


 もう1枚用意してそれをノワールロワに渡す。


「か、感謝致します」


『楽にしてくれ。今日はお前に頼みがあって来たのだ』


 ノワールロワは渡された座布団に正座すると、丁度アミナスと対面する形になる。


「恐れながら頼みとは一体どのようなことでしょうか? 恥ずかしながら(わたくし)はもう長くはないようなのです……」


『だからこそお前の力を貸して欲しい』


 アミナスは力強く言い放つ。


「私にできることであれば残りの命を賭してでも果たしたく存じます!」


 ノワールロワは誰が見てもわかるほどに全力といった様子で答える。


 アミナスはひとつ頷いてから理由(わけ)を話し始めた。


『私は世界の安定のために私の加護を与えるべき者へこれまで授けてきた。しかし私は選定を誤ったようだ。これから先の未来で世界を揺るがすほどの大きな戦いが起きてしまう。』


「大きな戦い……」


『その戦いは2人の加護をもつ者同士の争いとなる。1人はお前が倒した2人目の龍王……正確には転生した後の双龍(・・)だ』


「あの者がまだ生きている!?」


 ノワールロワは刺し違えてまでも倒したはずの相手が生きているかもしれないと知り、握った拳が震えて殺気に包み込まれていく。


『生きているというわけではない。転生とはつまり新たな存在へと生まれ変わるということだ。しかしただの転生ではないのが明らかだとすると危険なことに変わりはない』


「はい……」


『話を戻すが、もう1人加護をもつ者が現れる』


 アミナスはここからが本題だと言うように声色に熱が加わっていく。


 ノワールロワも緊張した面持ちで話を待ち構えている。


『その者もまた転生してくる……人族としてだ』


「人族が加護を!?」


『そうだ。だが重要なのはそこではない。その転生者が異世界(・・・)の住人だということだ』


 ノワールロワは驚きが一周回ってむしろ冷静に受け止めて、でもやっぱり信じられないといった表情でアミナスを見る。


『嘘ではないぞ。本当に異世界は存在する。人も生きている。しかしその世界は人族しかいないようだ』


「人族しかいない世界……それは興味深く存じます。人族には面白いやつが多くいます」


『それはひとまず置いておこう。先の転生者だが人族ゆえに力が足りない。その足りない力を補うためにお前の力が欲しいのだ』


 ノワールロワは少しの間だけ目を瞑ると纏う空気を凪のように静かで穏やかなものへと変える。


 そして再び目を開くと決意に満ち満ちた表情で「私にお任せ下さい!」と答えた。


 ***


『よし、ここだ』


 腹に神の布を巻かれ延命処置(一時的なもの)をされて運ばれたノワールロワはされるがままに台座に横たわっている。


 アミナスたちが訪れたのはとある迷宮の魔道具が眠っている部屋だ。


『剣もあるな。ノワールロワ……準備はいいか?』


「はい!」


『お前には苦労をかけるな』


「お心遣い感謝致します」


 ノワールロワは憂いのない顔で微笑み目を閉じる。


 アミナスが台座から魔道具である剣を取り出すとそれを片手で逆手に持ちノワールロワの胸の真上に刃先を合わせる。


 この剣は1度のみ発動できる能力がある。それはこの剣で刺した者の魂と同化して新たな剣へと昇華するというものだ。


『ノワールロワ――頼んだぞ』


 アミナスは能力を発動し剣をそっとノワールロワの胸に突き刺す。


 突き刺した剣が白く発光すると光の粒子に変わってノワールロワを包み込んでいく。


 それは命の光という表現がぴったりなほどに美しく神秘的な光景だ。


 新たな生命が誕生する時の力強いエネルギーを感じる。


 ノワールロワと光の粒子が一体化すると光は一点に集まり1つの球体へと変わる。


 そして光の球体は再び剣の形へと形成されていく。


『これはノワールロワ(おまえ)らしいな』


 アミナスは小さく笑うとその鞘を掴み魔法陣を刻んだ台座の中へと封印する。


『この迷宮の中ならば自由に動けるようにした。時がくるまでの間しばし休んでいてくれ』


 アミナスはそう言い残すとそこには誰もいなかったかのように消え去る。




 世界の三剣その1つ――龍剣ノワールロワが誕生した。

 読んで頂きありがとうございます!!


 今回は三人称で書きました(なってるはず)


 龍剣の登場です! これはかなり前から考えていたものなので、作者的にはやっとという感じです!

 規格外に拍車をかけてくれる性能になると思いますので次回もよろしくお願いします!

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