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38 迷宮10――ずっと家族

 手の先にいる黒龍王は頭部の方から徐々に灰のような粉塵となって消え去る。


 もう蘇ることはないだろう。


 俺は張り詰めていた弦をゆっくり緩めるように警戒を解いていく。


 研ぎ澄まされていた感覚が和らぎ、体中に流れる汗や心音が速くなっていることに気がつく。


 静かに深呼吸をする。


 終わったか……。


 戦いを終え、急激に疲れの波が押し寄せる。


 俺はふらつく体に鞭を打ち、霞む視界を無視して思考を続ける。


 精神的な疲れと魔力をごっそり消耗した。


 最後の魔法が原因か。


 今はまだ使うのを控えた方が――――


「ユーリッ!」


 背中から俺の腕ごと包み込むように抱き締めれる。


 両腕がお腹の方で結びつき離すつもりはないらしい。おかげで身動きが取れない。


「あ、アカネ……?」


「…………だけはいや」


 背中に向かって話しているからか、よく聴き取れない。


「見てるだけは嫌」


「……」


「本当は私も一緒に戦いたかった」


 アカネの声が背中を突き抜け俺の胸に届く。


 それは紛れも無いアカネの素直な気持ち。


 淡々としていて感情の伝わりづらい声が一生懸命に言葉を紡いでいく。


「私は誓った……最強の使い魔になるって」


 うん。俺も覚えてる。


 すごく嬉しかった。


 俺も頑張ろうと思った。


「でも、私は助けられてばかりいる……ユーリを守りたいのに私が守られてばかり……使い魔失格」


「それは――――」


 力の緩んだアカネの腕を振りほどき、正面を向いて「ちがう」と言おうとしたが言えなくなってしまった。


 夕暮れ空よりも綺麗な茜色の瞳が、大粒の涙で一杯になって零れ落ちる。


 胸が苦しくなる。


 それはちがう……そうじゃない。助けられているのは俺の方なんだ。


「ユーリはどんどん強くなる……また強くなった。私は置いてけぼり……またひとりになるの?」


 話す声は段々と弱さと悲しみを(にじ)ませて小さくなっていく。


『――――そんなことないッ!』


 それは考えるよりも先に出た言葉。


 目の前にいる少女に昔の自分が重なって見えた。


 ひとりぼっちの少年。


 人との繋がりに飢えていた幼き頃の自分。


 家族の幸せに憧れ、孤独に怯えていた。


 彼女もひとりを知っていると改めて気づかされる。


 こみ上げる思いが早く伝えろと、言葉に変わっていく。


「俺にとってアカネは家族(・・)なんだ! 使い魔であろうと、なかろうと大切な家族なんだよ! 何があっても俺は家族(アカネ)をひとりにしない!」


 それは心からの言葉であり、自身が何より聞きたい言葉だった。


 この森で出会い、過ごした年月は少ないけれど俺はアカネを家族だと思っている。


 時間よりも共に経験してきたことが、思い出が、主人と使い魔だけの関係ではないと、それ以上だと言わしめる。


 アカネは止められなくなった涙を流し続ける。


「私は……ユーリの家族?」


「ずっと家族(いっしょ)だ」


「……ほんとに、ほんと?」


「約束する」


 細くて華奢なアカネの体を、次は俺が優しく抱きしめる。


 しばらくするとアカネは泣き止み、俺の胸に顔を埋める。


 すっぽりと俺の胸の中に収まるアカネは妙に愛らしくて、少し照れくさくなってしまう。


 これがセレーナだったら1秒と持つかわからない。


「……ユーリ、他の()のこと考えた?」


「えっ……」


 全身が固まるとは、まさにこのことだ。首を動かすことさえ恐ろしく感じる。


 俺は完全に重大なことを忘れていた。


 アカネに集落の詳しい話をしたことがない……。


 聞かれたらどうする!?


 というか、アカネは俺について来てくれるってことだよな。いや、俺とこの森に住むってことになるのか?


 もし集落に来てくれるならセレーナたちに何て説明すればいいんだ?


 みんな、新しい家族が出来たよ! って、いやいや無理がある。


 こっちに住むことになったら……いやいや、それこそ無理難題にも程がある。セレーナに帰るって約束したの俺だったー。


 やっぱりアカネにはついて来てもらうようにお願いするしか――――


「ユーリ……ユーリ……ユーリッ!!」


「は、はい!」


「大事な話」


「はい(ゴクリッ)」


 すでにアカネは俺から離れていて顔がよく見える。泣いたせいか少し目元が赤い気がする。


 それより大事な話ってなんだ?


 俺は先の戦いとはまた違った緊張感に支配される。


「私――――強くなりたい」


 茜色の瞳にもう迷いの色はなかった。


 晴れた夕暮れの空をした瞳は見惚れてしまうほどに綺麗だった。


「ユーリがどんな世界(ところ)へ行っても隣に、ずっと隣にいたい……だから、強くなる。これからたくさん修行する。ユーリが嫌だって言ってもずっと隣にいる」


「うん」


『ずっと家族(いっしょ)


 アカネはこれ以上ないくらい可憐で、純粋な笑顔を咲かせた。




 読んで頂きありがとうございます!!


 今回は気持ちの整理的な部分が多くなってしまった感じですが、次回からは平常運転でファンタジーできればなと思っています!

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