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デート回

 

 季節は暖かいというより暑い季節。雲一つない晴天の下、俺は走っていた。

 風を切り、砂埃を立てる。

 王都の城門までまっすぐに伸びる大通りを突き抜け、クレアの待つ前王家の王を象られた銅像を目指す。

 行き交う人は皆俺を見て振り返り、怪訝な顔をしていた。そんな奇異の視線を振り切るために足を早める。


 ……本当もうやだ!


 飛び散る汗の中に涙が混じっているのか、水滴は異常に煌いていた。


 人々が怪訝な顔をするのも不思議ではない。それは俺が走っていることもあるが、実のところそうではないのだ。


 俺の今の服装は、数少ない私服を泣く泣くちぎった、半裸のタンクトップに短パン。

 一言で言うと、クソダサい。もうダサいを超えて、ちょっと危ない人なんじゃないかとまで思う。


 俺が走っている理由も、ただ人々に奇異の視線を向けられながら、ゆっくりと歩けないだけなのである。


 本当に恥ずかしい。今すぐやめたい。


 外に出る前に酷く葛藤した。だけど、クレアの好意を無くすためには仕方ないのだ。こちとら、命がかかっている。滅ぶよりは恥をかく方が全然いい。


 そう考えると、満足感が羞恥心に優り、自然と笑みを溢れさせた。


 まさか、こんなものを着てくるなんて思いもよらないだろう。周りの反応は悪い意味で上々、それどころか自分ですら引いてしまっているのだ。今回のデートのために様々なプランを考えてきたが、いらなかったかもしれない。


 そうニヤニヤしながら走っていると、銅像が見えた。銅像の周りにいる人々は何か雰囲気がおかしい。誰もが、足を止めて、たちぼうけている。


 視線を辿ると、真っ白の鍔の大きなハットに、これまた白いドレスを着た女性が佇んでいた。

 女性の艶やかな黒髪が白いドレスに映え、清廉な印象を受ける。まるで絵画のような美しさを感じて、人々の視線を独占しているのにも納得がいった。


 見惚れ、いつの間にか止まっていた足を動かし女性に近づくと、顔がはっきりと見え、再び足を止める。


 やっぱりクレアか。まじで、行きたくない。いや、ほんと、まじで。


 こんなに注目されている中で、一本間違えば変態の格好をしている人間が、彼女に話しかければどうなるか想像に難くなかったのだ。

 しかし、外に出るのを躊躇ったせいか、待ち合わせの時間も刻々と迫っており、歩まなければ行けなかった。


 俺は近寄り軽く手をあげて、声をかける。


「や、やあ、クレア」


 辺りがざわめき立つ。


「なんだあの男は?」「格好やばくないか?」「あの麗人に声をかけてるように見えたぞ」「変質者が美しさにやられて気が狂ったか?」


 様々な俺に対する誹謗中傷……ではなく、真っ当な意見が飛び交う。


 うん。もう消えたい。穴があったら埋められたい。完全に見えないようにして欲しい。


「ク、クリス……」


 俺が声をかけてから間があってクレアが俺の名前を呼んだ。帽子の影に隠されたクレアの美しい瞳は大きく見開かれ、動揺している様子が見て取れる。


 案の定なのか、クレアは硬直し、また少し間が空く。


 まあ、そうなるよな。普通。流石にこれでもう終わりだろう。早く家に帰ろう。


 しかし、クレアは硬直が解けると俺の期待とは全く異なった様子を見せる。帽子の影の下でもわかるほど、頰に朱を指し、口に拳を当てた。そして俺の足や腕にチラチラと視線をぶつけてくる。


「えっ、ちょっと、嘘でしょ!?」


「み、見てないぞ! わ、わたしは破廉恥じゃないからな!」


 うせやん。何そのエロ本を見たことを隠そうとする男子中学生みたいな反応……。

 ほら、周囲の人達も愕然としてるし……。


「あのう……ほら、格好おかしくないですか?」


「に、にあってるぞ! クリスが着たらなんでも格好いい……」


 そう言ってクレアはボンと破裂しそうなほど顔を赤らめ俯いた。


 やばい、やばい、やばい。クレアの目が節穴すぎる。そんな良くある彼女の服装を褒める彼氏のようなセリフは、微塵たりとも求めていない。

 Mではないが、キモい、消えろ、幻滅したという罵声が欲しい。


 ま、まだデートには色々策がある。まだ一つが破れただけだと、己を落ち着ける。


 俺は深く深呼吸をして、一刻も早くこの場を去るためにクレアを誘う。


「じゃ、じゃあ行こうか?」


 するとクレアは逡巡した後、満面の笑みを浮かべた。


「ああ!」


「まずはお昼に行こうか……」


 俺は歩き出すと、クレアは隣に並んで歩いた。かと思えば、不自然に俺を覆い隠すようにうろちょろし出す。その内、衛星のように俺の周りを周り始めた。


「な、なにしてんの!?」


「そ、そんなの! ほら! 周りを見てみろ!」


 いや。さっきから変わらず奇異の視線を集めてるし、クレアの不自然な動きに余計ダメになってる。


 待てよ。そうか! なんだかんだ言って俺の格好が恥ずかしいのか! ようやく俺と歩くのが恥ずかしいと思ってくれたのか!


 そう感慨に浸っていたのも束の間。クレアは予想外の言葉を続ける。


「クリスが悪いんだろ! そんな刺激的な格好をするから女の子達が……」


「……うん。歩きにくいから今すぐやめてね」


 やべえよ……。お花畑がすぎる。


 今日のデート。本当に上手く行くのだろうか?

 最低でも弱点だけは見つけなければいけない。



デート回は後々大切なので、2、3話取ることをお許しください。

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コミックス2巻6・26日に発売ですよろしくお願いします>
― 新着の感想 ―
[良い点] 漫画から知って面白く読ませてもらってます。 [気になる点] 貴族なのにそこらの辺のあんちゃんみたいな言葉つかいになる。 [一言] ここまでやると流石に主人公に恋してる女の子達が可哀想になっ…
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