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楽市楽座の影響と兄と弟

 領主館執務室でやっと最後の1枚となる書類を仕上げた。


 完了の開放感を感じながら伸びをすると窓からカーテン越しの光を感じ、そこで一晩中仕事をしていたことにやっと気づいた。


 仕上げ終えた書類の山が光を遮断し短くなったろうそくの明かりが気づかせなかったのである。


 「もう、こんな時間か。こんな生活も今日で何日目かわからないや」


 なんで、こんなことになったんだろう。


 時を遡れば1年前。楽市楽座を開始するとみるみるうちに税金収入が増えそれに伴い人口も爆発的に増えた。


 その上、人口の増加に伴い、蒸留酒、リバーシなど子爵家の商品の需要も増し莫大な資産を得た。


 しかし、人口の増加に伴う戸籍の登録や納税手続き、法整備などでアホみたいな量の仕事で子爵家の文官だけでは支えきれなくなり、尚且つ文官を募集しようとしてもこの時代の教育水準では文字を読めるものを探すのにも一苦労で、探すあてがない子爵家には寝ずに働くという選択肢しか無かったのだ。


 それに、最も大きな原因は1月前にユリスが痺れを切らし実家に帰ってしまったことである。


 俺はみっともなく縋りついてユリスを引き留めたがユリスは、「大丈夫です。クリス様。実家に文官として優秀な弟と兄がいますので調きょ……説得して連れて参りますのでご安心ください」と言って出て行ってしまった。


 ユリス早く帰って来てくれないかなぁ……と思っているとドアをノックする音が聞こえる。


 「ユリスか!! 入って来てくれ!」

 

 期待を持ってドアを開けたが、そこにいたのは目の下を真っ黒にし死んだ魚の目をした金髪ロン毛の男だった。


 「すみませんクリス様。俺ですマクベスです」


 「ああ、マクベスか……何の用だ?」


 「クリス様。さすがにもう、治安維持の方も限界です。人が増えすぎて訓練する時間と寝る時間をかけて働いていますが、さすがにもう物理的に無理です。普通の通りならまだしも、スラム街が形成され始めそこの取り締まりをすることができません」


 マクベス率いる子爵軍はユリスの訓練を耐え抜いた精鋭中の精鋭だ。さらにクリスに施したほどでは無いが、ユリスから最低限の教育は受けている彼ら30人が治安維持に精を出せば、大抵の街の治安なら維持することは不可能ではない。


 そんな彼らが泣きつくほどになったということは、どれほど追い詰められているのかということだ。


 「ああ、苦肉の策で治安維持の策も考えてるよ。スラム街の人間や職にあぶれた人間を公務員として雇い、治水工事や警察隊、清掃業務につけようと考えているのだがそうすると今まで稼いだ莫大な利益がほとんど無くなってしまう。それに、この案はユリスの案でユリスが帰って来ない事には実行もできん。すまないがユリスが帰って来るまで持ちこたえてくれ」


 俺は地面を見ながら粛々とした口調で答えた。


 「そ、そうですか。それでは仕事に戻りますので……」


 明らかにマクベスは肩をガックリと落とし部屋から出て行った。


 少し経ってもう一度ノックの音が聞こえた。


 「入っていいよ」


 ゆっくりドアが開く。


 「お待たせ致しました。クリス様」


 「ユリス!!」


 おれはおもわずユリスに飛びついた。


 「もう、ユリスがいないとダメなんだ。もう、離さない! 頼むからもう居なくならないでくれ」


 これでやっと仕事が楽になるし寝れる! 何故か目から汗が止まらなかった。


 「ふふっ、良いんですよ。もっと私に依存……頼っていただいても」


 もう、依存って言っちゃってるけど何も気にならないや。ユリスもちょっと怖いけど嬉しそうに笑ってるし。


 「我が妹は、子爵をも飼いならしているのか……」


 「家の外でも女王様はかわらずですか。恐ろしいですね……」


 そうこうしていると、ユリスの後ろに冴えない顔をした無精髭の男と小柄で華奢な少年がいた。


「忘れていましたクリス様。紹介いたします。こちらが兄のハルと弟のジオンです。兄は私にはかないませんが、王宮で文官の幹部として働いておりまして、弟の方は天才設計技師として名声を持ち、さらに治水技術にも優れています」


 まじか!? そんな凄い人達が来てくれるなんて!

 てか、ユリスの家系はどうなってるんだ? 凄すぎるだろ。ビバ遺伝子。


「初めましてドレスコード子爵領の領主やってますクリス=ドレスコードと申します」


「これは、ご丁寧に。俺はハル=ハートと言います」


「僕はジオン=ハートと申します。これからよろしくお願い致します」


「ああよろしく頼むよ。あと、確認だけど本当にこの領で働いて貰えるんだよね?」


 まあ、無理って言っても逃さないんだけど。

 っていうか苗字持っているってことは、ユリスの家は貴族だったのか……


「俺に妹に逆らう勇気があれば働かないんだけどな」


「はは、兄さん。勇気があっても同じだよ。逆らった人達がどうなったか知ってるでしょ?」


 どうなったの!?


「愚兄愚弟。お黙りなさい。クリス様が少し怯えてらっしゃるじゃないですか。冗談もほどほどにしないと引っこ抜きますよ」


 何を!?


「まあ、なんだ。妹に逆らえないのも本当なんだが、俺は王宮の派閥争いに辟易して、弟は自分よりできない上司の設計通りに進めるのが耐えられないらしい」


つまり、全部が全部無理やりってわけでもないってことか。


「そうか、ではよろしく頼むよ。明日からユリスの計画を進めるから、この冊子を読んでおいてくれ」


 これでなんとかこの状況を打破できればいいが。


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コミックス2巻6・26日に発売ですよろしくお願いします>
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