アルカーラ侯爵家からのアプローチ
遅くなってすみません。年末年始に書き溜めます。
翌日、喉の渇きで目がさめる。
俺は寝ぼけた体を起こそうと大きく伸びをし、太陽の光を浴びにカーテンを開く。
空は登り始めた低い太陽に焼かれた茜色が去り切らぬ夜の青い空を追い出そうとしていた。
窓を開けると冷たい空気が肺に入り込み、息苦しくも心地良くなる。
「今日も1日が始まるのか」
感慨に耽り、そんな一人ごとを呟いた時、乱雑な音を立てて真後ろの扉が開いた。
「大変だ! クリス様! 今すぐ会議室に来てくれ!」
慌てて入って来たハルの姿を見て、「今日も1日が始まるのか」と酷く眠たくなった。
「げっそりしてる場合じゃないぜクリス様!?」
「ああ。わかったよ」
俺はハルの誘導に従い、重い足取りで会議室まで来た。そこには、猫が顔を洗うように眠たげな目をこするユリスがいた。いつものメンツでいつもの会議が始まるのだと理解する。
ハルは俺が席に着くのを見ると口を開く。
「それじゃあ、集まってもらったのは、急ぎ連絡と対策を考えないといけないからだ」
ハルがここまで慌てるとは何が起きたのだろう。寝ぼけていた脳が起き始め尋ねる。
「連絡と対策って何かあったの?」
「ああ。朝番の門兵が見張り台から遠くに商隊を見つけたらしくてな」
「商隊? 別にいいんじゃないの?」
「良くない! 商隊の馬車にはアルカーラ侯爵家の紋章が入ってるんだよ!」
ハルはそう大きな声で叫んだ。
あ、アルカーラ侯爵家って……。昨日の嫌な記憶を振り返る。あの後、強い酒を振る舞い、ベロンベロンに泥酔させた後、逃げるように俺はこっそりと帰ったのであった。
記憶を失ってくれたら
「まあ、良くないのは本当でしょうね。オラール家の商会への対策に集中しなければならないのに対して、アルカーラ家も考慮しないといけないとなると非常に厳しいものがありますね」
「ああ。その通りだ」
ハルがコクリと頷いて続ける。
「その商会は、荷馬車を何台も連ねて来ていたそうだ。恐らく午前中のうちに届け出を出してくると思う。だから、その時に意図を見抜く事が大切だ」
それからも会議は続き、ああでもないこうでもないと意図は何かどう対策すべきか話合ったが結局結論は出ず、アルカーラ家の商会が手続きに来たと連絡が入った。
仕方なく俺は、応接間でアルカーラ商会のものを待つ。
心の準備は出来ている。何はともあれ相手の意図を見抜く事だけは成功させなければならない。
その時扉がノックされ開いた。
「これはこれは、ドレスコード子爵。わたくし、アルカーラ家の御用商会の長、カリートと申します」
カリートと名乗った男は恭しく頭を下げ、礼をした。容姿は整えたカールを巻いたヒゲに細い目。装飾品が付いているわけでもないのに一見して高価に見える毛皮の服からはかなりの大商会の長であることを理解した。
それに、子爵を前にしてこの余裕な態度。こういう相手には下手に探りを入れても飄々とかわされてしまいそうだ。
俺はストレートに尋ねることにする。
「ご存知でしょうが、私はこの領の領主をしていますクリス=ドレスコードと申します。今回はどういった御用で我が領に?」
「アルカーラ家の商店に商品を卸させて頂こうと思いましてね。今回持ち込んだ品物はこちらなります」
変わらないニヤついた表情で紙をわたしてくる。紙には物のリストが書かれていた。
それは、衣類など生活必需品、ちょうどこの領に需要がある物ばかりであった。
そこで俺は納得する。ああ、こいつもオラール家と同様の手段で詰ませに来ているのか。
それに、直接渡すとは脅しに来ているのだろう。
俺は確認の意を込めて尋ねてみる。
「これからもこのような商品を?」
「いえ。今朝、ある方に助言頂き、しばらくは大量の食糧品を主に扱おうと考えています」
俺はカリートの思いがけない言葉に内心驚愕する。
というのも食糧品を扱うってことは、あのオラール家と価格競争するってことだ。俺としては、二家が競争するためどちらか片方が去っても片方が残る。つまり、食糧の自給率を上げる時間が得られるということだ。
「いいのか?」
「ええ。こちらとしてもあの商会に独占されるのは見ていて面白くないですからな」
カリートは大きく口を開けて笑った。どうやら、全て事情を理解しているらしい。
その後、雑談した後、カリートは帰っていった。
カリートが部屋を去って、よくよく考えると冷や汗が流れる。
あれ? ちょっと待って。なんとか食糧の危機は去ったけど、もっとまずいことになったんではないか?
コンコンコンと厳かなノックが響き、扉が開いてユリスが入ってくる。
「クリス様。わかりましたか?」
「う、うん。アルカーラ家の商会は食糧品を扱ってくれるらしい」
俺の言葉にユリスが眉をひそめる。
「おかしいですね。そんな事してもアルカーラ家の得にならないでしょう」
「ええと、そんなに深い意図はなくて、ただ家を援助してくれてるんじゃないかなぁ。あはは……」
「そんな訳ないでしょう。というか、クリス様。何か怪しいですね。心あたりがあるのでは無いですか?」
「実は、昨日アルカーラ侯爵が偶々家に来てまして……」
俺は意を決してユリスに昨日の事を話した。話していくうちにユリスはどんどん不機嫌になっていき、俺の話が終わると、冷たい声を出した。
「それで、今回の件は婿候補に支援をしたという事ですか?」
「じゃないかなぁ……あはは」
疲れから乾いた笑いが出てしまう。
さっきカリートは今朝ある方から助言を受けたと言っていた。今朝というところから、カリートは今日来たので領内にいた人物から助言を受けたと考えられる。
で、助言の内容も内容なのでそこまで重要な指示を出来る人間はアルカーラ侯爵しかいないのだ。
アルカーラ侯爵は恐らく昨日、決心したと言っていたので、恐らくクレアと俺を結びつけようと決心したという意味だと取ると、今日の行動は明らかな家への援助だといえる。
だけど、これは大問題なのだ。
「アルカーラ侯爵の息女に好かれて浮かれらっしゃるところ申し訳ありませんが、いえ。私がどうとか全く無いんですけどええ。ただ、未だに何処の勢力が勝つか見極められてないうちから、それは早計かと。全く以って私情とかではありませんけど、クリス様にはまだ早いというか、むしろ遅いというか」
ユリスがよくわからない事を言っているけど、気にしてる余裕なんてなかった。
婚姻を避けたいのに、なんで避けづらくなっていくんだよ。一体どうやって切り抜けようか。
息抜きに書いた作品です。よければお休みの暇つぶしにどうぞ。
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