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農業問題

3日前分の投稿が出来ていなかったのに今気づきました。明日の18時に今日分、予約投稿しておきます。

 

「どうして、誰もこない……」


 あれから即刻領主館に帰り、オラール家による食料問題を解決する為、子爵家臨時会議を開いたはずなのだが、会議室には俺とユリスの二人だけしか居なかった。


「どうやら、皆様方は忙しいみたいですね」


 どこか、他人事のようにユリスはそう言い放った。


 一人が来ない理由は確実にユリスが原因だというのに……


「まあ、居ないものを嘆いても仕方ないか……会議を始めようか」


 俺は諦めて現状を解決すべく、口を開いた。


「そうですね。では、概要だけ先に述べさせていただきます。オラール家に撤退された後の食料問題。そして、工事が終わった人の働き口の確保が急務ですね」


 まあ、単純に食料問題だよなぁ。後は、人の働き口を用意することか。


「なあ、ユリス? 今はうちの領の収穫量ってどうなってる?」


「はい。ここ数年間でノーフォーク農法による家畜の生産やジャガイモ等で他領に比べて食料生産は順調と言えます。しかし、パン事業の成功によって麦が不足しつつあり、輸入に強く頼っています」


 ノーフォーク農法は麦だけを作るわけにはいかないからな……

 それに麦は一番主要な穀物だ。麦がなければ主食のパンを作れない。


「種もみは十分確保してる?」


「はい。そこを確保する為に輸入している面もありますので」


 そこは確保しておいてくれて良かった。取り敢えず、麦の生産量を上げることが大切だな。

 俺は、一人納得して次の話題を口にする。


「後は、働き口か……新しく領にやって来た人間を農民にすることはできないだろうか?」


「それは無理でしょう」


 きっぱりと言い切ったユリスに、何故そこまで言い切れるのか気になり、尋ねてみる。


「どうしてだよ? 開拓させて、農地を増やせられれば、食料の問題も解決するし、一石二丁だと思うんだけど」


「この好景気の状況では農民よりも街で働いた方が収入として金銭が手に入りますので。それに、今はオラール家が食料品を安く売っているため、農民は作物を売り金銭を手に入れることが難しくなっています」


 確かに農民は金銭が手に入りづらいな。この好景気で、店が街にたくさん出ているのに金銭が手に入らないとなると農民になろうとは思わないか。


 それよりもそんな状態なら農民はむしろやめて街で働こうとするのでは?


「農民は不満を持ってないの?」


「今はまだジャガイモが売れていますのでなんとか」


 ユリスは意味深に告げた。


 今はまだか……いずれジャガイモも他領で生産され、売りづらくなるのも見越しての発言だろう。


 結局、オラール家が去るまで農民は金銭を手に入れることが難しくなる。

 全く、本当に厄介な事をして来やがって。


 オラール家への怒りで腸が煮えくり返るが、恨めど何も現状は変わらないので、解決策を考える。

 そして一つの結論に至る。


「農民に金を与えるしかないか」


「今の子爵家は工費もそれに伴う人件費も商人からの出資で支出が少ない上に、好景気で金だけはありますからね。しかし、どんな理由で与えるのですか?」


 そこが問題なのだ。


 ただで与えては周りに示しがつかない。


 かといって、我が家が高値で買って、その値段で買ってくれるものだと認識されれば、いざという時、兵糧を徴収し辛くなるのでそれは出来ない。


「まあ、理由は後で考えよう。麦の生産量を増やす方法を思いついたから、それを教えに行く最中でいいや」


「思いつかれたのですか?」


「ああ! ユリス、塩と水と麦の種はあるか? あと何か水が漏れない容器……は魔法で作るか」


「ありますが、どうされるのですか?」


「それは見てのお楽しみだ! 用意してくれ!」


 田舎でじーちゃんがやってた事を真似させてもらおう!


「倉庫にありますので」


 ユリスは俺の頼みに、的外れの答えを冷静に短い言葉で返して来た。


「え? 倉庫にあるの? ならとって来てもらえるかな?」


「すみませんクリス様。倉庫には悪魔が住んでいるという話を聞いた事がありまして、怖くて入れないのです。私は先に庭で待ってますので」


 ユリスは太陽が眩しいと言うように、当然だと言わんばかりに淡々と告げて、優雅な所作で部屋から出ていった。

 俺は一人残されポカンとした後、我に帰る。


 じゃあ、倉庫にあるなんて知らないはずだよね!? 絶対にめんど臭かっただけだよね!?


 ***


「はぁ、はぁ……ユリス。準備出来たぞ」


 俺は倉庫で埃塗れになって塩と麦の種を探しだし、井戸から水を汲んだ重い樽を運び、やっとの思いで準備ができたことを報告した。


「そうですか。お疲れ様ですクリス様」


 ユリスから労いの言葉をもらったがどうでも良かった。


「じゃあ、ちゃっちゃと始めようか」


 俺はそう言って、石でできた箱を作り出し、そこに水を貯める。

 そして、ユリスに対して上から目線な言葉を使ってドヤ顔で尋ねる。


「ユリス、ここに種を入れるとどうなると思う?」


 すると、ユリスからは少し、ムッとした様な雰囲気を感じられた。

 しかし、ユリスは何も言わずに俯き、桃色の形の良い唇に指を当て、考える素振りを見せる。


 ふふふ。悩んでるなぁ。

 あのユリスに優越感を感じるとはなんと気持ちいい事だろうか!


 そんな優越感に浸っているとユリスが不意に顔を上げて口を開く。


「なるほど。浮く種と沈む種の仕分けの方法ですね。沈む種は中身が詰まっているため、発芽しやすい、良い種もみである言うわけですね」


「……」


「塩も水に入れる塩の量を変化させて、量が多ければ多いほど種は浮きやすくなりますから、そこで沈む種が優れた種というわけですね」


「……」


「それに収穫量のばらつきも塩の量によって選ばれた種ですので、ばらつきも少なくなり、より安定した収量が見込めるかもしれませんね」


「……」


「どうしたのですか? 間違っていたのでしょうか?」


「正解だよ!」


 優秀すぎるだろマジで! なんで質問一つでそこまでわかるんだよ!

 優越感を感じてたのが恥ずかしいわ!


 俺からドヤ顔で言おうとしたことは、ユリスが言ってしまったので、ほぼ言う事がなくなってしまった。


「種を選んだ後は、使った種の塩を洗い流し、日陰で乾燥させて、種まきの前日にはお湯で半日くらい殺菌しておく事くらいかな」


 まあ、麦の比重を考えたり、製塩技術の低い純度の低い塩では色々と難しい面もあるけど、時間と労力が解決する問題であるので心配はいらないだろう。


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コミックス2巻6・26日に発売ですよろしくお願いします>
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