表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/229

アリスと交渉1

 

 あの後、クレアから「また今度な、今度な、また今度な!」と三回も念押しされて別れ、約束の宿屋の前に来ていた。


 宿屋は美しい白の石造りで、目を見張るほど大きい。窓から溢れ出る明かりは、落ち切らない太陽が作り出す薄い青紫色の世界を大きな街灯のように照らしていた。


 本当にここだよな……


 見るからに、富貴な人間のみにしか利用を許されなさそうで、尻込みして棒立ちになる。そんな俺を街路を行き交う人々が何かあったのかと横目に立ち去っていく。

 俺は好奇の視線に晒されるのを恥ずかしく思い、宿に歩を進める。


 その時、眩い光を溢れ出させて扉が開く。

 開いた扉から光に遅れて制服を着たアリスが出てきた。アリスは、キョロキョロと挙動不審に辺りを見回した後、首の動きを止める。

そして、宿の明かりが霞むほど、嬉しそうに顔を輝かせたかと思えば、不機嫌な顔に変わった。


「クリス! 遅いじゃないの!」


アリスは怒気を孕んだ声で俺を非難した。


ああ良かった。間違えてなかったようだ。


 俺はアリスに非難されながらも、こんなに豪奢なところに入ってもいいと許された気分になり、気が軽くなる。


「ああ。ごめん。ここに入ってもいいんだよね?」


 しっかりとしたか確認の意味を込めて尋ねた。


「何言ってるのよ! また、何か逃げるつもり⁉︎」


 そう言ってアリスは大きな声を出して俺に近寄ってくる。


 街路を歩んでいた人々は、そんなアリスの声を聞いてこちらを向き立ち止まる。


「なんだ痴話喧嘩か?」「なんで怒っているのだろう?」「あの男は誰だ?」


 あちこちから声が聞こえ始める。


「ちょっ、アリス! 俺が悪かったから、続きは中でね?」


 噂話をしている人たちを横目に、アリスの肩を掴んで、アリスを宿屋に押し込んで進む。さっき棒立ちしていた時と真逆の状況になのに恥ずかしい。


「な、何よそのセリフ! 仲直りっクスを誘おうとでもしているの!? そんな事をしに宿屋に来たわ……ってか押さないで! ホント、押さないで!」


 仲直りっクスって何だよ……


 そんなよくわからない言葉を吐いたアリスを無視して、宿屋に押し込んだ。


 室内に入り、アリスから手を離して扉を閉める。


「いらっしゃいませ。王女様のご学友の方ですね」


 まずいと思って声の方を見ると、執事服を着た白い髭と髪の男がお辞儀をしていた。俺は安堵するとともに疑問を感じた。


 あれ? 普通王女が押し込まれて入って来たら不敬罪に当たりそうなのに動揺してもおかしくないのに。


「私どもは王都で一番の宿を誇っておりますので、何が起こっても我々は精一杯のサービスをさせていただくだけです。ですから、お客様の事は一切口外しませんので安心してください」


 心を読まれた⁉︎ ちゃっかりフォローまでされてるし!


「そ、そうですか」


「ええ。ですからご安心してください」


 俺は老紳士とそう会話していると、アリスが口を挟んだ。


「私をほっといて何喋ってるのよ!」


 アリスは自分をのけ者にされたと感じたのかさらに怒りを加速させているように思える。

 手でしっしと老紳士に振ってるし。


「それではごゆっくりどうぞ」


 そう言って紳士は去っていった。


「早く行くわよクリス!」


 その時、聞いたことのある声が聞こえる。


「ちょっと待った!」


「セルジャン、何の用!?」


 アリスが足を止められてよりイライラする。


「外にいる時からずっと見てましたけど、姫様にあの態度は何ですか!?」


 黒い服を着た男が俺に指を突きつけて来た。それに男の顔には見覚えがあった。誰だっけな……


 だが、そんなことよりまずい。恐らく男は王家の関係者で、さっき俺がアリスを押していたのを見て非難しようとして来ているのだろう。どうするべきか。


「姫様を空気であるかのように放置して他の人と喋るとはどういうことなんですか!」


 そこなのかよ⁉︎


「そうよ! クリス! 私を空気みたいに扱うなんて、って私が空気みたいってどういうことよ!」


「はっ、すみません姫様!」


 そう言って、男は深々と頭を下げた。


 もしかしてアリス、配下からも軽く見られてないか?


「あの、押した件は?」


 俺は見られていたのなら、これ以上悪化することはないし、アリスが軽く見られてないかを確かめるために尋ねた。


「それがどうしたというのだ? 一体何が言いたい!」


 男は本当に俺の言葉の意味をわかっていないようで、口調を荒げた。


「どうしたというのだじゃない! 私を何だと思ってるの⁉︎ 押すことに対して当然のように言ってのけるのは手押し車くらいしかないわよ!」


「姫様は聡明ですね。私は学がないためちょっと分かり兼ねます」


「何でわかんないの⁉︎」


 アリスが悲痛な叫びをあげた。しかし、それにも関わらず男は首をかしげたままである。


 うん、軽く見られてるかどうかはわからないが、男が馬鹿な事とアリスが不憫なことだけはわかった。


「もういい! 早く行くわよクリス!」


 そう言って、アリスは俺の手を取って男を置き去りにせかせかと歩こうとする。

 しかし、俺がその場で立ち止まったままなので伸びたゴムが戻るときのようにアリスは体勢を崩してこけそうになった。


「何で動かないのよ!」


 アリスが涙目で睨んでくる。


 いやだって、このまま男とわだかまりを残して、後で俺が悪いと触れ回られたら困るし……



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。



hsub8z5zdno020cehytofvvfdchw_iga_9s_dw_2
コミックス2巻6・26日に発売ですよろしくお願いします>
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ