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クレアの勉強会2

「ク、クリス、今、君はクレアの耳がなくなると困ると言ったのか? いや、すまない。私も何度も確認するのは失礼だとは思うが、自分の耳が信じられないものでな」

 

 いや、だからそう言ってんじゃん。そんなに繰り返して聞いてこられると俺もお前の耳が信じられねえよ。それにいつのまにか呼び捨てに変わってるし。


 耳に手を伸ばそうとしない様子を見せたクレアに安堵し、落ち着いて返答する。


「そう言いました」


「そうか。で、では、私の耳は正しく機能しているってことでいいか?」


「はい」


 煩わしさからおざなりに答えた。


「では、耳を引きちぎる必要はないということか?」


「はい!!!」


 俺は力一杯肯定した。


 あぶねえ、まだ引きちぎろうと考えてたのかよ。普通に怖いだけじゃなくて、サイコ的な意味でも怖いって恐怖の象徴か何かか?


「と、ということは、名前呼びだけでなく、美しいと……。や、やっぱりクリスは私のことを……」


 再び紅潮して、ボソボソと独り言を呟きはじめたクレアに不安になって尋ねる。


「あ、あの? 大……」


「私もだ!」


 俺が全てを言いおえる前に、クレアはハッキリそう言い放った。的外れの言葉ではあったが、俺の聞こうとしたことの答えにはなっていた。


 うん、大丈夫じゃねえな。これ以上関わりたくない。一刻でも早く切り上げてアリスのとこへ行こう。


「……そうですか。それはともかくアルカーラ様、勉強会の件でいらしたのではなかったのですか?」


「まったく、クリスは意地悪だなぁ。クレア、だろ?」


 クレアが甘い声を出して嬉しそうに謎の要求をしてきた。


「は?」


「またまたとぼけたふりをして。恥ずかしいのは私も一緒だ。ほら、ク?」


 なにこの感じ。うざくて仕方ないのですが。


「いや、ほんとに何言ってるかわ……」


「レ?」


 全てを言い終える前にクレアが発した一文字に黙らされてしまった。

 俺は諦めて、クレアの意図もわからないまま要求に応える。


「……クレア」


「そうだ! 私がクレアでクリスがクリスだ!」


 よくできましたと嬉しそうなクレアと反対に俺はげんなりして先ほどの言葉を言いなおす。


「……そうですか。それはともかくクレア、勉強会の件でいらしたのではなかったのですか?」


「ああ。そう、だったな。それでは行こうかクリス?」


「はい。早く行きましょう。早く」


 そして、早く終わりましょう。早く。


「クリスは勉強熱心だな。私も勉強家だと自負しているのだが、クリスと肩を並べるにはまだ想いが足りないようだ。今日はそんなクリスから勉強を教われるのだから楽しみだ」


 想いは足りないかもしれないけど、重いよ。何その尊敬の眼差し、早く逃げたいだけなのに重いよ重すぎるよ。それに、教われる?こっちは襲われてる気分だよ……。


「そ、そうですか……ご、ご期待に添えるように頑張ります」


「頼もしいな! あ、後だな。わざわざ私のサロンまで行かなくともここで勉強すればいいのではないか?」


 俺はクレアに言われ、ふと周りを見回した。教室は窓から差し込む夕陽の光がオレンジ色に染め、机や椅子の動かない黒い影を作り上げているだけで、二人だけの空間が出来上がっていた。


 確かに、これなら勉強に集中するのに問題ないように思える。


「まあ、クリスが嫌というなら仕方ないが、サロンへは少し遠いから時間の無駄になるのでは……と思って」


 クレアが頰を紅潮させ、もじもじしながら言った。


 クレアのやる気がすごい。そんなに勉強したいのかよ。移動時間分遅く始めて早く終われるから、俺はサロンに行って勉強したいんだけど。

 というか、そもそも移動時間を考慮するほどに時間が逼迫しているのであろうか。そうだとすると、これは僥倖だ。


「クレア様は今日どれくらい勉強されるおつもりですか?」


「明日の授業開始までだが?」


 クレアが何を当然のことをとキョトンとして言った。


「え? さすがに冗談ですよね?」


 俺はクレアに必死に笑みを作って尋ねる。


「いや、冗談を言ったつもりはないのだが」


「またまた〜、そんなからかわないでくださいよ〜」


「いやいや。からかってなんかいないぞ。だから、私は着替えも兼ねて今日ドレスで来ているのだ。二日連続、同じ制服やシャツは着れないのでな」


 あまりに馬鹿げたクレアに発言に思考が追いつかなかったが、クレアの真剣な眼差しと物言いから本心から言っていると理解した。


 う、嘘だろ……。やっぱり、おかしいよ。ホラーだよ! その上、明日の朝までここにいるつもりなの⁉︎ しかも、そこまでやるのに教室からサロンまでの距離を節約しちゃうの⁉︎


「それでどうだろう、教室で勉強しないか?」


 クレアが気を取り直したように訪ねてきた。


 いや、もう場所なんてどうでもいい。今日中にアリスのところへ行かなきゃならないのにどうしよう。ここはもう、素直に知らなかったから出来ないって言おう。


「あ、あのクレア……教室で勉強するのはいいんですけど言わなければいけないことが……」


 俺と喋るとクレアが首をかしげる。


「なんだ? クリス?」


「今日、そんなに勉強する予定だと知らなくて、着替えも何も持ってないので、またの機会ってことに……」


「なんだそんな事か。気にするな。クリスは寮に住んでいるのだろう? なら、いくらでも待っているよ」


 クレアに逃げ道を潰された。どうやって逃げようか……。


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コミックス2巻6・26日に発売ですよろしくお願いします>
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