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クレアの勉強会前

 

 昨日、あれから二人と別れ寮にまっすぐに帰った。疲れ切った俺は部屋に帰ってすぐに力つきるように寝たというのに朝寝坊してしまった。そのため、ギリギリの登校になってしまった。


 それにしても、静かすぎる。


 この時間なら人は多いはずなのに、話し声があまり聞こえない。今日は休日ではないし、なぜだろうか?


 そんな疑問を覚えたが、早く教室に入らないといけないので、考えることをやめて教室に入る。


 教室に入るといつものように各々のグループで固まっていていてなんら変わりはないように見えた。しかし、いつものように普通に談笑しているわけではなくヒソヒソと会話していた。


 その原因を探るため、クラスメイトの視線をたどる。そして、俺はなぜクラスがやけに静かなのかを理解した。


 視線の先には、艶やかな黒髪によく似合っている黒の美しいドレスを着込んでおり、髪には花飾りをつけたクレアがいた。

 クレアの周りにはいつもの取り巻きはおらず、ただ一人ちょこんと座っている。


 な、何してんだこいつ……。そりゃ、みんな戸惑うわ。なんで制服着てないんだよ。


 俺が訝しげにクレアを見ているとクレアが振り向いて目が合ったが、一瞬で目をそらされる。しかし、何回もチラチラとこちらを見てくる。それに、どこか顔が赤い気がする。


 何? この反応? メンドくさいんだけど……。


 俺はクレアのあまりにも不自然な行動を疑問に思い、思考を巡らせる。


 そもそもなぜ、ドレスを着込んで来ているのか? ドレスを着ているってことはパーティのようなものがあると考えていいだろう。そして、学校にドレスでこなければいけないということは、もうすぐにパーティに行かなければいけないということだ。なら、顔を赤らめてチラチラと見つめて来ることに説明がつく。

 結論、クレアはパーティがあるのを忘れていて、俺と勉強会の約束をしてしまい、自分が俺との約束を守れないことを恥じて顔を赤らめている。そして、謝罪のタイミングをはかるためにこっちをチラチラ見て来ているのだろう。


 そういうことなら、俺にとってもいい話だ。未だクレアに勉強を教えても意味ないし、気苦労が減る。まさに僥倖というものだ。クレアが謝りに来やすいようにしてやろう。


 俺はクレアに向けて、「大丈夫、気にしてませんよ」というニュアンスを込めて爽やかに笑った。

 すると、クレアは顔を真っ赤にしてすごい勢いで前を向いた。


 ミスったか? 確かに嫌いな奴に優しい態度を取られるとプライド的に許せないものがあったのかもしれない。はあ、やらかした……


 俺はまた嫌われてしまったとため息をはいて、自分の中で反省していると始業の鐘がなった。


「お〜い、お前ら席につけ〜」


 そう言って、教師が教室に入って来る。生徒たちは指示に従い席に座った。


「じゃあ、出席と……」


 教師は教台に立ち、出席簿を開いて生徒の方を見た瞬間に言いかけていた言葉を止め、呆然と立ち竦む。

 そして、数秒固まったあと恐る恐る口を開く。


「あ、あのアルカーラさん?」


「はい」


 クレアは凛として教師に返事する。


「いや、出席じゃないんですけど……」


「出席でないとすれば何か私に質問でもあるのでしょうか? もし、あるとすれば最後にするか早くしてほしい。あなたの仕事は授業のはずだ」


 教師はきっぱりと言い切ったクレアに気圧されつつも、俺たちの気持ちを代弁した。


「あの、どうして制服を着ていないんでしょうか?」


「そ、そんな事授業に関係ないでしょう」


 そう言葉を詰まらせながら言って、再び顔を赤くして俺の方をチラチラと見て来る。


 俺にどうしろっていうんだよ……。


「は、はあ。で、ですが……」


教師がなおも問い続けようとしたところ、クレアが口を挟む。


「あなたの仕事は授業をする事だ。早く始めてほしい」


 そう言われると教師はどうしようもなくなったのか諦めて出席を取り始める。クレアが大貴族の娘だから強く言えないのもあるのだろう。


 その後、何事もなく授業が終わり、昼休みになる。


 俺はクレアがいつ謝りに来るのかと席で一人じっとクレアの方を見て待っていた。しかし、クレアが俺に近づいて来るどころかこっちを向く気配すらない。


 はあ。一体、どうしようか。


 クレアに何も言われない限り、ありもしないクレアの勉強会に行かなければならない。流石にいくら察していたとはいえ、行かなければ約束を破ることになる。

 そこで俺は気づいた。これが、クレアの勉強会の真の目的ではないか? 俺が勉強会に行かなければ、それを口実に責め立てることができ、行ったらいったで延々と待たせるという嫌がらせができる。

 延々と待たせられるくらいで済むのならば別にいいのだが、今日はアリスとの勉強もあるから待ちぼうけをくらうわけには行かない。

 アリスとの勉強会を別の日にずらせばいい話だが明日にはミストとの約束があるので、今日中にしておきたい。


 そんな事を考えていると、アリスが近づいて来ているのが見えたので俺はすぐに立ち上がり、慌てて教室をでた。

 足音を確認して距離を詰められないようにながら俺は校舎裏を目指す。


 この辺でいいか。


 俺は人目につかない校舎裏にたどり着いたところで足を止めて振り返る。

 すると顔を赤くしてお冠のアリスが息を切らして校舎の影から出て来た。


「なんで、毎回毎回逃げるのよ!」


「いやいや逃げてないって」


 ただ人目のつくところで話したくないだけである。逃げられることなら逃げたい。


「じゃあ、わざわざなんでこんなところまで来たのよ!」


「こうは考えられないかアリス」


「何よ?」


 アリスは不満げに顔をしかめながらも尋ねた。

 毎度、毎度素直に聞いてくれるし、今日も後ろから付いて来るしなんだか犬みたいな奴だよな。王女なのに。


「おそらく、アリスは今日の勉強会についての話をしに来たんだろ?」


「まあ、そうだけど」


「なら、教室でその話をしてたら周りに俺がアリスに勉強を教えているって公言しているようなものじゃないか」


「そ、そうだった……」


 アリスは俺に勉強を教えてもらってることが露見してはいけないと思い出したのか、急にばつが悪そうな顔になった。


 いや、それを忘れるのは流石にまずいだろ。結構ガチで心配するレベルだわ。


「大丈夫か?」


 俺はあまりにも心配になって尋ねたがアリスは顔を真っ赤にして怒る。


「だ、大丈夫よ! あまりにも楽しみにしすぎてて忘れただけなんだから!」


「そ、そうか。とりあえず、教室や生徒の前で話はできないんだから、話があればこれからここに来るってことでいいか?」


「ええ〜」


 アリスが不満を垂れて嫌そうな顔をする。こっちの方が100倍不満なんですが。


「ええ〜、じゃねえよ。俺たち二人の関係は秘密にしとかねえといけねえだろ」


「二人の関係……秘密!」


 なぜだかアリスはそう呟いて急に顔を明るくさせた。

 本当にコロコロ表情が変わる奴である。


「わかったわ! クリス! なんだかお伽話みたいで素敵ね!」


 何がお伽話なのかわからないけれど、わかってくれたならまあいいか。


「じゃあ、アリス勉強会で」


 次の授業の時間が差し迫って来ていたので、それだけ告げて「二人の密会……」とかなんとか呟いて妄想しているアリスを置き去りに校舎裏を去った。

 


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コミックス2巻6・26日に発売ですよろしくお願いします>
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