ミスト……
「一体、なんでそうなったか聞いて良いか?」
俺は悪夢のような現実に向き合い、冷静に頭を整理する為、経緯を尋ねた。
「えーと。経緯だよね。なんだか昨日、家に帰ったらお父様がもの凄い怒ってたの」
アリスは、うーんと首をひねってポツポツと語り始めた。
うん。まぁ、普通だな。俺の予想通りだ。普通、愛している姫に政略結婚に使えそうも無い子爵が寄ってきているのを不快に思うだろう。
「それでね。なんだかわからないけれど、出陣するつもりみたいで鎧を着て剣を携えていたの」
うん。前言撤回。普通じゃ無いよね。流石に短慮すぎるよ。9割9分俺を殺そうとしてるよね。バカなのまじで。今、王家が傾いている一因は間違いなく王だよね。とりあえず、言いたいことは色々あるけど、王様来なくて本当よかった。
「それで、えーと……」
アリスがゴモゴモとして、顔が段々と真っ赤になっていく。
「そ、それで色々あって勉強部屋を用意してもらったわ!」
「なんでだよおぉぉぉ!」
俺はすかさず突っ込んだ。
今まで、黙って話を聞いていたけれどもう限界だ!何があったらそうなんだよ!何でそうなった⁉︎急展開すぎんだろ!
「良いじゃ無い何でも!」
アリスが顔を赤らめもじもじしながらも強気に言い返してくる。
「良く無いわ!そこが一番大事だろうが!どうして急にそうなるんだよ!」
「べ、別にクリスのおかげじゃ無いんだから!」
「そりゃ!俺のおかげな訳ないに決まってるだろ!」
アリスの謎の発言に頭が痛くなる。
「あー、私体調悪くなってきた気がする」
「全然健康だろ!こっちのが頭痛くなって来たわ!」
「いや、健康じゃないから!多分足とか痛いから!」
「多分って何だよ!」
「た、多分は多分よ!じゃ、そういうことだから明日の放課後に金の馬っていう宿屋で!それじゃおやすみ!あ〜足とか腕とかめっちゃ痛い気がする!」
そう言って、アリスは飛び込むようにしてベッドへと逃げ込もうとするが、俺はすんでの所でアリスの腕を捕まえる。
「ちょ!離しなさいよ!」
「嫌だよ!離したら逃げるだろ!」
「わかった!逃げないからこの目をしっかり見て」
言われるがまま、俺はアリスの目を見つめるがアリスは目を合わせようとすると顔をさらに赤らめ目をすぐにそらした。
「全然合わねえじゃねえか!逃げる気満々だろ!自分の言った事くらい上手くやれ!」
「違うの!こんなはずじゃなかったの!っじゃなくて!逃げないから離して!」
「本当か?」
「ええ!本当よ!」
どうせ逃げるつもりだろう。
俺はアリスに気づかれない様にアリスの足の前に自分の足を差し込む。
「わかった。離すぞ」
「ええ!」
アリスが返事したのを聞いた俺はそっと手を離した。すると、アリスは一目散に駆け出し、俺の足に引っかかってビタンと前のめりにこけた。
「何するのよ⁉︎」
「逃げないって言ったじゃねえか!」
「い、いやそれは」
何をしようとしていたのか思い出したのか俺の追求から逃げる様にベッドに潜りこんでしまった。
なんだか馬鹿らしくなって来た。俺はグッと来る怒りを抑えアリスを問い詰めることを諦め、直ぐさまこの場を去りたい気持ちに従い出口に向かった。
「ま、待って!」
扉に手をかけたその時、声をかけられた。振り向くとアリスが亀のように毛布から顔をだしてこっちを見つめており、溢れんばかりの瞳は潤み、美しく鮮やかな紅の下唇を噛んでいた。そして、徐々に口を広げた。
「ご、ごめんね。でも、勉強会楽しみにしてるから……」
「お、おう」
俺は突然のアリスの溢れる様な儚げな姿と物言いに動揺し、そんな姿を見せたくなくて部屋から出た。
部屋から出ると保健医が離れた場所で椅子に座って寝ているのを見つけた。俺は肩を叩いて揺れ起こし、話が終わったことを告げるとその場を去った。
さて、どうしようか。詳しい原因はわからないが、仮にも王公認で部屋を抑えてある以上、断ることはできない。逃げる選択肢は自然となかった訳だけどもう少しやり様はあったかも。でも、アルフレッドやクレアとの勉強会受けている以上バレるとやばいし、やり様もなかった気もする。
はあ。もう無理だ。流石に3つは無理である。時間的にも精神的にも無理だ。今回の成功は、アルフレッド陣営を調べ、各人に良い点を取らせて自分の評価を上げることだ。逆に今回の失敗は、一人でも良い点を取らせられ無い事だ。もし、良い点を取らせることができなければそれをネタに批判されるかもしれない。批判されるとその陣営につこうとする事が絶望的になる。それに、この状況で成功は絶望的で、失敗する可能性が高すぎる。
一体どうすれば良いのだろう。もう、詰んでしまっている気がしてきた。
俺は重すぎる足を動かし、ばん馬になればこんな感じかなと愚考し教室へ向かう。未だ、俺のクラス以外は授業中なので廊下は静寂に包まれており、安心して俯き考え事をして歩く事ができた。
「ああ!クリス君!こんなとこにいたのかい!探してたんだ!」
「そうですか。多分、人違いです。では」
俺は不意にかけられた声から誰か察した。そして、面倒なことになる前に踵を返して、来た道を戻ろうと競歩を開始する。おおっと早いクリス選手!今までの足取りが嘘の様だ!
「まあ、待ちなって」
後ろから早い足音が聞こえグッと服を引っ張られる。おそらく走って来たであろうミストに捕まえられた。
流石に競歩では走る速度に負けるか。走ればよかった。
「流石ミスト足速いね。速いのはわかったから離してくれませんかね?」
「誰も足が速い事を自慢したくて君を探してた訳じゃないよ。離したいのは山々なんだけど、逃げるんじゃない?」
「ま、まさかあ?逃げる訳ないよ」
「まあまあ、話でも聞いてよ」
「嫌だ!話さえ聞かなければまだなんとかなる!」
本当に無理だ!四人目は絶対に無理だ!精神はともかく時間的に絶対に無理だ!
「あのね。クリス君。私と一緒に勉強会しようじゃないか。とでも言うとでも思ったかい?」
「……へ?」
「どうしたんだい。熱湯風呂に落とされたと思ったら普通のお湯だったみたいな顔をして」
「じゃ、じゃあ用って?」
俺は頭が混乱する中、なんとか疑問を口にした。
「君を手伝ってあげようと思ってね!」
ミストはそう告げてカラカラと笑った。
ツギクル大賞エントリー中です!よろしければ投票お願いします!
新作の方も気まぐれで始めましたが、真面目に更新していくのでよろしければ。 ncode.syosetu.com/n9752ec/





