保健室にて
活動報告あります
はぁ。クレアとアルフレッドの勉強会どうしようか。どうすれば時間が取れるだろう。出そうな所だけ教えてしまおうか?いやでも、それだけで足りなくて悪い点数取られると責められるだろうし。あぁどうしようか……
そんな、あぁでもない。こうでも無いと悩みながら考えに耽っているといつの間にか目的の保健室に着いていた。
まぁ、まず此処でアリスから、離れ無ければ行けないというお別れの話を聞いて気分を晴れさせるか。
俺は、意気揚々とコンコンコンと扉をノックする。
返事を待っていると扉が開き、中からにゅっと茶髪の男性がでてきた。清潔な衣服を身に纏っているところを見る限り、この人が保健医であるのだろう。
俺は保健医に声を掛けた。
「あの。荷物を届けに来たんですけど」
「ああ。ドレスコード君だね。中でアメリシア様がお待ちしている。どうやら、熱も無く健康ではある様だけど、何があるかわからないから、あんまり長く話さない様にね」
そう言って、部屋から保健医は出ようとする。
「はい。あの先生は?」
「僕は部屋の前で待機しているよ。アメリシア様との会話を盗み聞きする訳にはいかないしね。何かあったらすぐに呼ぶんだよ」
正直言えば、保健医を出しにつかってアリスとの話を早く切り上げるのに居て欲しかったがそういう事なら仕方ないだろう。
「わかりました。出来るだけ早くお話の方を切り上げさせていただきます」
「うん、そうしてくれたまえ」
保健医は、俺の肩をすれ違い様にポンと叩いた。
そして、入れ替わりに保健室に入り、扉を閉める。
保健室の中には、壁際によくわからない壺が複数並べられた棚があり、その隣に木の机と椅子が配置されていた。そして部屋の中央から端にかけてベッドが並べられていた。そして、入り口から最も近いベッドにはちょこんと腰掛けたアリスがいた。
俺は、保健医に聞かれぬ様に小声でアリスに声を掛けた。
「大丈夫ですか?」
すると、アリスはムッとして口を尖らせた。そひてポツリと零れだす様に答えた。
「大丈夫じゃないわよ。無理矢理、保健室に運ばれたせいで腰が痛くなったわ」
「それは、なんとも。はい。これ」
俺はアリスの荷物を両手で支え、アリスの目の前でへ差し出した。
「ありがと。そこに置いといて」
アリスが指を指した位置に言われるがまま荷物を音が立たない様に丁寧に置いた。
「で、話って何?」
「そう話しよ!」
アリスが今までの暗い様子が嘘かのように晴れやかな笑顔になる。
なんだか、嫌な予感がしてきた。アリスがこう嬉しそうにした時って良い事が一度もなかったような。逃げるが勝ちな気がしてきた。
俺は、バッと立ち上がりアリスに背を向け歩き始めた。そして、歩みを止めず別れを告げた。
「では、これで」
「待ちなさいよ!」
不意に身体が後ろに引かれる。見るとアリスが俺の腰に腕を回し、臍の所で両手をガッチリと固定しており、互いに立っているが、自転車の二人乗りの様になる。
「くっ、離せ。なんだか今すぐ帰りたくなったんだ。お願いアリス離してくれ。いや離して下さい」
「嫌よ!離さないわ!私の話を聞くまで離さないわ!」
「いや、病人は安静するべきだ!黙って寝てろ!」
「病人じゃ無いわよ!そっちこそ黙って話を聞きなさい!」
「嫌だ!話を聞いたら終わりな気がする!」
すると、アリスが膝を付け、顔を俺の腰にぴったりとくっつけ縋り付いて来る。
それに伴い、腰に回していた腕はずり落ちて行き、このまま行くと非常に危険な位置に手が来そうになる。やばい。そこを押さえられると激痛で死ぬ。
俺はアリスの細い腕を解こうとするが、その見た目から想像も出来無いような力で掴んでいて、解けそうにもない。
どうして、いつも縋り付いて来る時はこんなに力が強いんだよ!?
「お願いだから話聞いてよぉ〜!」
アリスが涙声で訴えてくる。
やばいもう直ぐの場所までアリスの組んだ手が来ている!仕方ない!一刻も早く話を聞いて離してもらうしかない!
「わかった!わかった!わかったから話してくれ!」
「嫌だぁ!離さない!話聞いてくれるまで離さない!」
「だから話してくれ!」
「絶対離さないから!」
「違う!違う!違う!話聞くから!やばい、やばい、やばいから早く!」
そして、ついにアリスの腕の力が緩まった。た、助かった……
「本当?」
アリスが上目遣いで、大きく美しい目をウルウルさせて尋ねてくる。
「本当だから!話って何?」
俺は嫌々アリスに話をする様に促すとアリスは顔を赤らめキラキラ輝くような笑顔を見せた。
もう、嫌な予感しかしないんですが……
「うん!あのね!クリスと一緒に勉強出来る様にお父様が勉強場所を用意してくれたの!これで、心置き無く勉強出来るね!」
目の前が真っ暗になり、膝からガクリと崩れ落ちる。
「ちょっ、どうしたのクリス!?」
な、なんでそうなった!?
王は馬鹿なのか!?普通、嫁入り前の王女を子爵程度の小貴族と近づけるなんて許せる事では無いだろ!それどころかわざと近づける様に勉強場所を用意するなんて正気の沙汰だと思え無い。
は、そうか!これは悪い夢だ!やったー!アルフレッドもクレアもアリスとも勉強会しなくて良いや!本当質の悪い夢だな!悪夢にも程があるよ!
俺はアリスに向けて腕を差し出した。
「全く悪い夢からは早く覚めるに限るな。アリス、俺を抓ってくれ」
「ええ!?いきなりどうしたのよ!?」
「良いから、早く抓ってくれ」
「何でそんなに堂々と王女に変な事頼んでるのよ……わ、わかったわよ。ほら、これでどう?」
そう言ってアリスが俺の腕を抓る。
「い、痛い?」
「いや、痛いに決まってるじゃ無い!何で疑問形なのよ!」
腕を刺す様な痛みに勉強会が無く、普通の日常を送るという夢から覚まされた事に気づくのであった。





