クレアお前もか
始業開始の鐘が鳴り響く。
俺は教室へと歩みを早め、なんとか鳴り終えるまでに着席し、ほうと息をついた。
教師がまだ教室へと来た様子は無くどうやら間に合った様だ。
少し急いだせいで、早歩きしていた時には感じられなかった熱が身体の中から湧いてきて猛暑の様な暑さを感じ、汗が噴き出してくる。
「やぁ。何だか急いできたようだね。クリス君らしくないね。何かあったのかい?」
隣りから、澄んだ美しい声をかけられた。
「……特に何も無いですよ」
ミスト自身には正直もう敬語を使わなくても大丈夫だけれどクラスで誰に聞かれても良いように敬語を使って答えた。
「ふーん。まぁ良いや。それよりも、今日お姫様が朝一で開門と同時に学園へ来ていたんだけど何か知らないかい?」
俺の敬語に少し不満そうに口を尖らせたが、気をとりなおした様に尋ねてくる。
「アメリシア様が?」
アリスの方を向くと何故かこちらを見てイキイキとしている。それに何だかウズウズしているように見える。
うーん。何で嬉しそうにしているんだ?
学園に早く来る理由なんて、家が嫌か授業が楽しみで待ち切れなかったぐらいしか思い付かないな……。
今日は、いつもとなんら変わりの無い授業で楽しみになる事なんて無いし、家が嫌ってことならそんなに嬉しそうにはしないし。
「うん。なんかずっとクリス君の席の周りをうろついてたし、ずっとドアの方を見てたらしいし、ほら今もクリス君の方物凄い見てるし」
「確かにめっちゃ視線が突き刺さるんだけど、本当にわからないしなぁ」
ミストが顔を近づけて俺の目をじっと見つめて真偽を確かめようとしてくる。
普通、顔を近づけられたら、反射的に顔を引いて遠ざけてしまうのが普通ではあるが、そんな反応すら起こさせず、むしろ引き込まれそうになった。
やっぱミストの顔だけは良いよなぁ。顔だけは。
「どうやら本当にわからないようだねぇ。これから何かあるかもしれないよ」
これから何かある?
そんな訳無いだろう!その問題は昨日解決したんだ!そうだ!朝、アルフレッドの事で重かった気分が急に晴れたわ!思い出させてくれてありがとう!
「ふふふ。そうだよ!何かあるかもしれないな!」
「あれ?渋い顔をしそうなものなのに何だか急にご機嫌だね」
「ふはははは!ミストは冗談が上手いね!アメリシア様に関われてご機嫌になるなんて当たり前だよ!」
俺がそう言った瞬間、バンと何かが落ちてぶつかる様な音が聞こえた。音の方を見るとアリスが机に突っ伏していた。美しい金髪から覗きでた耳はトマトの様に赤くなっている。
また。聞き耳立ててたのかアリス……。
クラスメイトは、何事かとアリスの方を振り向いた。
そしてちょうどその時、ガラガラと教室のドアがあいて教師が入って来た。
「それじゃあ授業を始めるぞ〜ってん?おまえら何を見て、アメリシア様!?顔を赤くしてうつ伏せになられるなんて!おい、誰か至急医者を呼べ!お前とお前と近くに担架があるから取ってこい!大丈夫ですか!?アメリシア様!」
アリスの方を見るや否や、教師が取り乱し、がなりたてる様にして指示をとばした。生徒達もその勢いに飲まれバタバタと指示通りに動いた。
そして机の間を縫ってアリスの方に駆け寄る。
アリスは突然の事に対応できておらず、目を丸く開き口をパクパクしている。
「アメリシア様、お加減は大丈夫でしょうか!?もうすぐ担架で運ばせて頂きますのでもうしばらくお待ちください!」
アリスは、一瞬ポケっとしていたが、ようやく状況が飲み込めたのか手をバタバタと振りながら答えた。
「……い、いえ!全然大丈夫ですから!私、全然元気なので!」
「な、なんとお優しい!?ご自分がお辛いにも関わらず、我々の様なものに心配をかけない様に気をつかっていただけるとは!?くっ!!こうしてはられん!ちょうど担架が来たところだ!私もお力にならせて頂きます!」
「ちょ、ちょっと話聞きなさいよ!大丈夫だって言ってるのに!」
「君!アメリシア様を担架にのせるんだ!よし、行くぞお前ら!急ぐが絶対に揺らさない様にするんだぞ!後、お前ら今日は自習だ!」
「ちょ、ちょっと〜!!大丈夫なのにぃ〜!」
女生徒にアリスは成されるがままに担架に乗せられ、数人の生徒と教師にそのまま運ばれて行ってしまった。
うん。憐れだよな。アリスって。
教室には、静寂だけが残される。そして、暫くすると誰ともわからないコソコソとした話し声が聞こえくる。
「やっぱり今日、アメリシア様の体調悪かったのかしら?」
「間違いないわ。普段ならあんな言葉遣いアメリシア様がするわけないもの」
「うん。そうだろうね。ドレスコード君の席の周りをウロウロしてたのも帰るか学校にいるかずっと迷ってたからだったんだね」
「朝一で来たのも体調が悪化しないうちに登校を済ませたかったんだろうな」
んー?本当にそうなのかな?
まあ、なんでもいいか。
多少の違和感を感じるものの、興味の無さから思考を放棄してしまった。
それから、教室はコソコソ話から普通のボリュームの会話へと移行して行く。ついには立ち歩く者まで出始め、教室内は賑やかな声で溢れ帰る。
そんな中、俺は1人で歴史の教科書を読み耽る。お前ら自習だぞ。自習の時間は遊び時間じゃねえ!別に喋る相手が居ないから真面目に勉強してる訳じゃない。元来真面目な人間なのだ俺は。別に、喋り相手が居ないからじゃ……。
「クリス君」
「ど、どうした!?ミスト!?」
先程まで何人かと楽しそうに談笑していたミストに声をかけられた。
ふん。仕方ないなぁ。自習だって言ってんのに、話しかけてくるなんて。仕方ないから喋ってあげるか!別に話しかけて欲しくなんて無かったんだからね!
「あぁ。そんな目を輝かせて、食い気味に答えてくれたところ悪いんだけど……」
「な、何!?」
「あれ。それじゃあ私は……」
ミストはそう言って指をさしてから、先程談笑していたメンバーの方へと去ってしまった。
俺は指を指された方を見ると顔を真っ赤にしてロボットの様にガシャんガシャんと音がなりそうな動きをしながら黒髪の美人が近づいて来ているのが見えた。
……さて、トイレでも行くか。
俺は見なかった事にして立ち去ろうとしたが呼び止められた。
「ク、クリス!おはよう!!」
はい。何の脈絡も無い突然の挨拶ありがとうございます。しかも、まだ名前呼び捨て続いてるのか。はぁ……。
「アルカーラ様、これはおはようございます。どうされました?」
「勇気だして呼び捨てにしたのに……」
なんだかクレアがボソっと呟いている。
勇気出すくらいなら呼び捨てしないでくれよ……。
「で、どの様な用事でしょうか?」
「えーあー?うん。えーと…」
クレアが慌てて、今初めて用事を考え始めてる様にみえる。
しかし、それはない。アルフレッド同様にクレアは自分の事を嫌っているのだ。朝、アルフレッドに言われた様に何の用事も無いのに俺に会いに来るわけが無いのだ。今、思い出そうとしているのだろう。
少し間が空いて、急にクレアの顔がピコーンと明るくなった。そしてクレアは口を開いた。
「私と勉強会をしよう!」
……クレア。お前もか。
気まぐれに新作始めました。
クラスカースト頂点のギャルに復讐するためにリア充目指しますncode.syosetu.com/n9752ec/





