アルフレッドからの誘い
アリスとの勉強会との翌日。
昨日、王女と宿屋で2人きりになったり、護衛の男に殺されそうになり、通常ならば引きこもりたくもなるだろう。
しかし、それにも関わらず、俺は普段となんら変わりなく起き、飯を食い、用意して登校する。むしろ、普段より、学校へいく心境としては浮かれた気分である。
昨日自体は疲れたけど、今回の件で王家の連中も俺に近づかないようにアリスに説いてくれただろう。
これで、アリスと関わらないようにするって課題が解決して、少し肩の荷がおりたな。
ふふっ、おっと笑いがこみ上げてきてしまった。どうしよう?今にも勝手に手足が動いて踊り出しそうだ!常にアリスを避けるためアリスに注意していたんだ。そんな大きな負担から解放されたんだ。受験やテストが終わった時の感覚に似ているけれど、そんなものの比にならない程、気持ちは雲の様に軽く、世界はよりカラフルに見える。
地面がトランポリンになったかの様に俺の足を押し上げ、学園へと進める。
いつのまにか校舎前まで来てたと認識したその時、非常に不快な声をかけられた。
「おい!貴様!何を気持ち悪い顔で気持ち悪い動きをしている!」
俺は、声をかけられた方を向くと小柄で太りぎみの男を見つけた。そして、その瞬間に気持ちは雨雲よりも重く、世界はモノクロに見えた。
「これはこれはアルフレッド先輩!別に気持ち悪い顔も動きもしていない自分にわざわざ何の用ですか?用が無いなら自分はこれで失礼いたします」
「冗談抜き、偏見抜きで気持ち悪いと教えてやってるんだ!少しは感謝するがいい!それに俺が用も無しにわざわざ貴様に絡む訳がないだろ!」
冗談、偏見有りじゃないと俺が気持ち悪いとか言える筈がない。全く嫌な奴だ。
それに、用ってなんだよ。せっかくアリスの件が無くなったんだ。メンドくさいのは辞めて欲しい。
「それはありがとうございます。で、用とはなんでしょうか?」
「ふん。これからは最初から素直にしておけ!」
アルフレッドが低い身体を反り返らせ、誇らしげに、見下すような視線をつきつけながらそう言い放った。
くっそ。うざさマックスじゃねえか。早く用件だけ言ってくれ。
「それで用件だがな。今朝、とある筋から聞いた話だがな今回の歴史の試験がかなりの難題になると噂を耳にしてな」
「はぁ。それがどうかしましたか?」
「それでな。貴様に勉強を教えさせてやろうと思ってな!」
なんでだよ…。せっかくアリスから逃れられたっていうのにやる訳無いだろ。
何でこんな事言って来たかなんて、どうせ俺の勉強時間を減らして悪い成績を取らそうだとか、教え方が悪いだのなんだの難癖つけてくるだけだろう。
正直、学園でやる歴史の範囲はもう終えているから教えられ無い事はないが、分からないことにして断ってしまおう。
「恐れながら、教えさせて頂きたいのはやまやまですが、私は1年ですので2年の範囲は理解しかねます。いや〜1年の範囲なら微力ながらお力になれたんですが!1年の範囲なら!」
「何を言っているのだ!この俺が貴様なんぞに勉強を教わろうとする訳が無いだろ!馬鹿か貴様!」
いや、こっちの方が何を言っているのだって言いたいよ。
「それでは、誰に教えさせて頂ければよろしいのですか?」
「俺のサロンの1年だ!」
「……何故、アルフレッド様のサロンの方の為に私を教師として招こうとしたのかお聞きしても?」
「ふん。そんな事も分からないのか馬鹿め。歴史の教師は貴様も知るように老教師だ。そいつが王家の者に何か吹き込まれ、テストを難しくすると言い出したらしい」
はぁ。何故吹き込まれたかは分からないけれど、アルフレッドに利があるのも事実だよなあ。
歴史の老教師は生徒を落第させるのだ。あの、入学試験を通過してきた貴族の子弟相手に。つまり、金にも権力にも屈さず、不正のしようもないテストの結果だけで判断するのだ。
その為、今回はかなり落第し易くなるだろう。
しかし、落第したとしても他の教科を取れれば留年は無いので落としても大丈夫だが、アルフレッドの目的はサロンの1年を留年から救う所では無い。
サロンの者に落第をさせない事が目的だ。
何故かというと、サロンの人間が悪い成績を取ると言うのは聞こえが良く無い。これから起こる戦乱の世で、いざどの陣営につこうと考えた時に、頭が悪い人間が集う陣営につこうと思う筈がない。逆に賢い人に着いて行けば勝ち、生き残れると考えるだろう。
さらに、逆に不正も出来ないようなテストで皆が良い点数を取っていればどうだろうか?生徒達は実際に体験するのだ。優秀さをアピールするのにこれ程分かりやすい事は無いだろう。
そして、他人に努力している事を知られない様にする事で、より優秀さを知らしめることが出来る。そこで他のものが立ち入る事ができないサロンで勉強したいが、外部の者は呼べない。そこで、俺に白羽の矢が立ったって訳だ。
まぁでも、今回の勉強会は俺にとっても悪くない。
これで、オラール公爵家に付き従う貴族の子弟と交流が持てる。学園に入学した本来の目的のどの陣営に着けば勝てるかを調べる上での重要な指標となるオラール公爵家の勢力図が見えてくるってものだ。
かなりメンドくさいが、アリスの件も終えた事だし、勉強会に参加するくらいの余裕はあるだろう。
ここは乗っておこう。
「そう言う事情であれば、やぶさかではありません。微力ながら全力を尽くさせて頂きます」
「ふん。そうか。なら、今日の放課後サロンに来い。もう直ぐ授業が始まる。早く行くぞ」
俺は、背中を向けて歩き始めたアルフレッドから少し離れて教室へと歩むのであった。





