王城にて
だだっ広い廊下を、たくさんの赤いろうそくが、余すことなく私の行く道を明るく照らしている。私は照らされた道を不規則な足音をたてて歩く。しかし、私の足音はすぐに背後にぞろぞろといる騎士達の足音にかき消される。
大きな扉を前にして、ようやく私は足を止めた。背後の騎士達に激励の声をかけられ、扉の中へ入ることを促される。騎士達の期待を背負い、促されるまま扉を開いた。扉の中には豪奢な鐙を身につけた男が剣を携えこちらを見て目を見開いた。
私は今からこの男に戦いに挑むのである。
時はほんの少し遡り、クリスと別れた後。私は王城に帰るや否や、門の前で黒ずくめの男……護衛のセルジャンが仁王立ちしていた。そして、セルジャンが私を見るや否や、急いで近づいてきた。目には堀の水面のように私をグニャリと映し出し、ビシッとした普段からは想像できないほど情けない声で私に懇願した。
「姫様!王様をなんとかしてください!」
「え!?どういうこと!?ていうかあなた今日私について宿屋まできたでしょう!?」
「王様が大変なんです!どうか、お止めください!それに姫様が気づいてないだけでだいたい誰かしらは姫様についてます!」
「ええええええ!?じゃあ私が王都に出ている時も誰かしらついてたの!?」
「当たりまえじゃないですか!なんであんなざるい脱出法でバレないと思っているのですか!そんなことより王様が、王様が!」
「ちょっと危ない危ないから押すのやめて!押すのやめてよ〜〜〜!」
私は突然、衝撃的な真実を知らされた上、何か父が大変な状況であると聞かされあたまが混乱した。しかし、混乱した頭が落ち着く暇もなく王城内へ押し込まれて行った。
「王をなんとかしてください!」
「わかったからちょっと待って!ああ!後ろに回らないで!」
これで何人めであろうか……
王城内で会う人会う人が口を揃え王をなんとかしてくれと慌てた様子で私に懇願するのである。そしていうや否や私の後ろに回り、私の背中を押すのである。物理的に……。
本当にやめてほしいので私は叫んだが、家臣達は聞く耳を持たないでそのまま押し続けるのである。
こいつら、あとで覚えておきなさいよ!
恨みをため続けたまま城内を進むにつれ、私の背後の人間の数が膨れ上がり、1師団ほどになったにも関わらず、私は戸惑ったまま事情も説明されず、ただただ王がいる謁見の間へ導かれるというより押されて流されて行っていったのである。
そして、現在にいたる。
私は謁見の間への扉を開くとそこには本当に戦いの用意をした男がいた。
「な、何してるの?お父様?」
男は身につけた鎧をガシャんと音を立ててこちらを振り向く。
「よお、アリスたん。ちょっくらパパ貴族1匹ブッコロしてくるわ」
「んな!?」
「じゃあそういうことだからパパがぶっ殺しちゃうから」
「待って待って、なんでそうなったの!?」
私は、ただでさえ混乱している上に酷い頭痛を感じてたおれそうになった。
「なんでって、アリスたんはドレスコードとかいうクソ雑魚貴族にたぶらかされたんだろ?」
「……た、たぶらかされてなんかないわよ!」
「ほら、その反応!なんだそのかわゆ過ぎる反応は!恋する乙女そのものではないか!」
こ、恋する乙女って!そ、そんなはずないよね?た、確かにクリスと一緒にいるとすんごく楽しいし、なんだか楽しいって気持ち以外にそばにいたいとか、触れ合いたいとか思うけどそんなはずないわ!
私は、混乱する頭が血を欲するのか顔に血が集まりものすごく暑くなるのを感じた。
「もうパパ無理だわ。完全に切れたわ。ドレスコード領はチリも残さない」
「なんで悪化してるのよ!私何も言ってないじゃない!」
「止めるなアリスたん!父親には親としてやらなければいけないことがあるんだ!」
「それは絶対に今じゃないわよ!」
よく見ると父の目には暗い光が宿っていた。
なんでこうなったのだろう? 今日は帰って、父にクリスと二人っきりで勉強できる場所を用意してもらう予定だったのに。二人っきりで…エヘヘヘ。
「……出陣じゃーーーーー!!」
にやけた私を見て父は出陣の声をあげた





