宿屋からの脱出!
慌ただしく飛び出していった男に取り残され、部屋に1人にされた。
階段をドタドタと激しく音を立てて降りる音が聞こえた後、先程の喧騒が嘘かのように静寂に包まれた。
「面倒な事になってしまった…」
俺は地面に落ちてドサっと音を立てそうな程、深く重い溜息を1つついた。
溺愛している姫が只の子爵に気があるとすれば、王はどんな行動に出るのだろう?
王としてはもちろん、父親としても許し難い事であろう。面倒な事になるのは確定である。
あぁ〜憂鬱だなぁ。まあでも、過ぎた事をクヨクヨしてても仕方ないし、まずは今あることから片付けて行くか。
鉛の様に重い足を動かし、開きっぱなしの部屋の扉を開けて廊下に出る。
既に廊下は暗い。
そんな廊下をしっかりと踏みしめて歩き、アリスがいる部屋の扉の前に立つ。
ついさっき部屋から出た時は軽かった扉が、今はラストダンジョンの魔王の部屋の扉の様にズッシリと重くそびえ立っている。
しかし、ゲームをしている時の様な高揚感は無く、実際のゲームの勇者はこんな気持ちで魔王に挑んでいるのかと感じた。
このまま扉の前で突っ立っているのも時間を無駄にするだけか。俺も勇者になるか!
俺は扉を思い切ってドアノブを手にとり押し込んだ
「痛いっ!」
予想外に本当に重い手応えを感じ、悲鳴が中から聞こえた。
俺は慌てて少し開いたドアの隙間から、中を覗き込んだ。
中には、アリスがドアのそばで耳を押さえて転がっていた。
「ア、アリス。大丈夫か?」
「大丈夫じゃないわよ!何すんのよ!」
「い、いやだって普通そんな所にいるってわからないだろ!何でそんな所にいるんだよ!」
「うっ、それは何でも良いじゃ無い!!」
アリスが恥ずかしそうにそっぽを向いた。
ああ。成る程。聞き耳してたのか。盗み聞きしようとするなんて恥ずかしい事を隠したいわけか。
「そこまで、気になったのなら見に来たらいいのに…」
「な、なななな何の事よ!」
扉を見ると人型の跡がついてる。さっきぶつけた跡かと思ったけれど、ぶつかった跡というより、長く強い力で押し付けたような跡だ。
どんだけ気になってたんだよ。
それでも、部屋から出ないって俺に宣言したから出れないけど気になるっていう感情の結果だろう。
なんだか、アリスが微笑ましく見えてくる。
「なんなのよ!その微笑みは!」
「アリスが王女じゃ無ければなぁ」
「なんか物凄い事言われてるけどどういう意味よ!」
「いや、忘れてくれ」
「余計気になるでしょっ!」
「まあまあ。戻って来たんだから許してくれよ」
「むぅ。まぁでもちゃんと戻ってきたわね!早く私に勉強を教えなさい!」
アリスは不満そうにしながらも落ち着きを取り戻し、喜びを隠しきれず口をにやけさせながら答えた。
「いや、今日はもう終わりにしよう」
「何でなのよ!!」
再び落ち着きを無くし噛み付いてきた。
「まぁ聞くんだアリス」
「何よ!」
「今日はもう遅い。これ以上遅くなったら夜の街は危険だ。盗み聞きしてたから、わかるだろうけど護衛が帰ってしまったから俺が送って行かなければならない。この時間なら衛兵の見回りに合わせて王城に戻れるから今しかないんだ」
「盗み聞きはしてないけど、確かにそうかも……」
アリスが落ち込んだ様子を見せた。
「それに、早く帰って王様と話す必要があるだろ?それで、しっかりと話したらちゃんと俺が勉強を教えられる場所も用意してくれるはずだし、そん時はしっかりと教えさせてもらうよ」
「そ、そうね!しっかりと話さなきゃいけないしね!」
アリスが顔を赤らめながら嬉しそうに笑顔を浮かべ答えた。
よし!これで、アリスは俺と唯勉強していただけと誤解を解いてくれるだろう。誤解さえ解いて貰えれば後は、腐っても王家なんだから何処ぞの学生と勉強させるより、優秀な家庭教師を雇ったりしてアリスに教える事になるだろう。
これで俺は晴れてお役御免だ!一時はどうなることかと思ったけれど何とかなりそうだ!
その後、顔を赤らめにやにやしたアリスを見回りの衛兵達と共に王城へ送り届けた。





