いざ領内へ
その後もサザビーになろう系御用達のトランプや将棋も渡してはみたが、一度に複数広められないのでとりあえずこれらの遊戯系統のものは発売後からリバーシと同じ価格で取引することに落ち着いた。
サザビー商会から屋敷に戻ると、ユリスが門の前で馬の轡を引いてどこか落ち着かない様子で佇んでいた。
「どうしたんだいユリスこんな所で?」
と声をかけるとこちらに気づいたようで、手綱を引き、馬をトコトコと歩かせながら歩み寄ってきた。
「取引の方はどうでしたか?」
「ああ、上手くいったよ」
「それは僥倖ですね。それでは、これから領内の探索に出かけましょう」
いつもと同じ無表情だが少し弾んだような声だと感じる。
「帰ってきたばかりで疲れてるんだ。少し休ませてくれ」
「ダメです。領内を探索する時間が減るじゃないですか」
なんでこんなにこの女はやる気があるのだろう。いつもなら、領内の探索なんて疲れること出来ない病にかかってるので無理です。とか言ってくるのに……
まあ、やる気があるのは良いことだからなんでもいいや。
「わかったよ。それじゃあ僕の馬を用意してもらえるかな?」
と言うとユリスはキョトンとした。
「ここにいるじゃないですか?」
「はあ?」
目の前にいる馬は間違いなくユリスの馬だ。黒王号みたいなやつなので見間違えるはずがない。ということは、まさか! ユリスが馬ってことか!?
いつもあんなに人を虐げているのは虐げて欲しいことの裏返しか!
仕方ないな。そんな趣味はないがユリスの誘いに乗るのも主人の仕事か……。
「馬だと言うのならまずは、四つん這いになってヒヒーンとでもないてもらおうか! この牝馬が!」
「はあ?」
ユリスが呆れているように見える。
流石、普段からドエスを極める女だ。この程度では足りないと言いたいのだな。
良かろう。それならば俺が本気でののしってやる!
「この雌◯◯◯が!! ◯◯の◯◯◯◯◯突っ込まれて頭が◯◯◯の◯◯◯◯になって言葉も分からなくなったのかこの……ぶへぇっ!!」
見えない速さで拳が飛んできた。
「クリス様。次に不用意な事を喋ると灯火を消します」
命の!?
「すっ、すいませんでしたぁ! 馬が1頭しか見えませんでしたので早とちりをしてしまいました。どこかにもう1頭おられるのでしょうか!?」
「馬は一頭ですよ」
「俺は走れと!?」
「私と乗ればいいじゃないですか」
とユリスは頬を染めて言った。
……可愛いやんけ。