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友達が欲しい

 

 入学2日目の朝。既に学校への足取りが重い。


 朝露に濡れた校舎への道を他の学生が散々踏み固めた後なのに、地面に足が沈み込んでいくような気分になる。


 はあ。ミストは何とか解決したけど昨日の入学試験の件でクレアに恨まれてないといいけど……


 校舎へと着くと周りでは数人でその場で留まって会話している学生が見られた。


 俺も友達欲しいなぁ。まだ学生生活は始まったばかりだしこれからか。


 そんな事を思いながら学生達を尻目にまっすぐと教室へと向かう。


 昨日より長い階段を登り、ズッシリとした教室の扉を開いた。


 俺が教室に入ると教室の中の学生が俺に好奇の視線を集めたが、一瞬で何事も無かったかのように各々が今までしていたであろう行動に戻った。


 俺は何処と無く居心地の悪さを感じ、まっすぐに自分の席に座って授業が始まるまで待った。


 授業が終わると休み時間になった。

 未だ2日目であるというのに教室内では何人かが固まって楽しそうな会話を繰り広げている。


 やばいっ!このままじゃ自分はぼっちになってしまう!


 俺は焦り、話しかけやすそうな未だグループに入れていない子に話しかけてみる。


「やぁ!」


「……こ、こんにちは。と、トイレ行きたいからごめんね」


 その子は周りを気にする動作を見せさっと逃げて行ってしまった。


 他にも何人かに声をかけたが皆トイレ送りにしてしまった。


 ぐすん。結構傷つくんだけど……


 原因は分かっている。ミストとクレアの件があるからだ。あの2人に恨みを買ってしまっているかもしれない俺に関わることで2人から睨まれるのを避けたいのであろう。


 それにしてもここまで酷いとは……


 逆にそんな2人は学生に囲まれている。初日こそアレであったが、なんだかんだ言って大貴族とお近づきになれるチャンスなのだ。近付かない方が不自然である。


 くぅ〜。折角の学生生活なのに!


 惨敗し、落ち込んで机に伏している俺に綺麗でどこか浮かれているような声を掛けられた。


「こんにちは!クリス君!」


 顔をあげるとニコニコ顔のアリスが俺を見下ろしていた。


「これはアメリシア王女殿下。私のような者にまでお声を掛けて頂けるなんてなんと慈悲深い方だ。このままお話させて頂きたいのは山々ですが腹の調子が良く無いのでまたの機会にお願い致します。それでは!」


「あっ、ちょっと!」


 俺は超絶早口でまくし立てて、呆気に取られたアリスを尻目にトイレへと走り去った。


 王女と話したい学生はいっぱい居るのにこんな所でその学生から恨まれるなんてそんな事できない。


 それに王家は遅かれ早かれ戦乱になれば滅んでしまうだろう。もし、俺がアリスを助けようにもそもそも我が家の現状では助けられる程の力は無い。


 俺はアリスと話さなくても済むように授業の開始を告げる鐘が鳴るのに合わせて教室へと戻った。


 教室へ戻り、チャイムが鳴ったのに関わらず着席しようとしない生徒達とは対照に早々と着席する。


 それから少ししてガラガラと扉を開き先生が入ってくる。

 先生は未だ着席していない生徒を見て、少し呆れたように溜息を吐いてから怒気を少しだけ強めて言い放った。


「早く席に着くように!」


 生徒はざわざわと着席して行く。


 って、あれ?俺の隣の席の男の子が前の方の席に座ったんだけど?


 そして、その席に座っていたであろう少女がたわわな2つのものを揺らして近づいてきて俺の隣の席へ座った。


「ミストさんや。これはどういう事ですか?」


 俺は人に聞かれないように前を向いたまま小声で尋ねた。


「うん?単純に後ろの席なら副業しやすいからね。もしかしてクリス君の隣に来たかったからとか考えちゃった?やだなぁ流石に自意識過剰だよ」


 ミストは俺と同じ小声で答えた。


 こ、この!


「……そうですか」


「うん。そうだよ。やっと人と話せたからってそんなに嬉しそうにしないでくれよ」


「誰かさんのせいで人と話そうとすると不思議と皆お腹が痛くなるんだよ。なんでだろうな?」


「多分アルカーラさんのせいだね。全く困ったもんだよね」


 何をそう飄々と。クレアのせいでもあるけどお前のせいでもあるんだぞ。


「はぁ。そんな困った俺を誰か助けては貰えませんかねぇ。例えば、皆の前で入試の事は何も気にしていないよと俺に話しかけてくれるとか」


「いや、やだよ。そんな急に男の子に話しかけるなんて君の事が気になっている女の子みたいじゃないか」


 ミストは顔を赤らめ照れたような演技を見せてくる。


 めちゃくちゃ腹立つんだけど!それに演技が可愛いのが余計に腹立たしいわ!


「お願いしますよ!本当に!」


「仕方がないなクリス君は。昼休みに話しかけるから席で待っててくれたまえ。貸し1つだよ」


 貸しなのかよ……


「……誰のせいで」


「なんだい?」


「いえ……」


 ミストの有無を言わさぬ視線で黙らされてしまった。


 会話を終えた後、まじめに授業を聞いていると授業が終わって昼休みになった。


 やっと昼休みか。席で待ってればいいんだよなぁ。なんて言ってくるんだろ?なんかドキドキして来たなぁ。


 昼休みが終わってから10分くらい経った。まぁ話すタイミングとかあるしなぁ。ミストの方を見るとめちゃくちゃ美味しそうな弁当を食べている。よくもまぁ呑気にしやがって。


 それからまた10分くらい経った。

 流石に遅すぎるだろ!?もう、弁当食べ終えてうとうとして来てるじゃねえか!


 俺はミストを睨みつけるとミストはニヤっと笑って机に伏した。


 確信犯じゃねえか!起きろよ!


 俺は咳をしてミストにアピールする。


 するとミストはこちらを見て、俺の慌てる様子に満足したのかのそりと立ち上がって俺に声をかけた。


「やあ!クリス君!疲れているように見えるけど元気かい?」


「……お陰様で」


 ミストと俺の会話にクラスメイトの視線を集め、教室内の空気が張り詰めた。


「アメリシア様の挨拶に霞んでしまったけど昨日の新入生代表の挨拶よかったよ!これからはクラスメイトとして仲良くしていこうじゃないか」


「これはご丁寧にありがとうございます。こちらこそお願い致します」


 俺とミストの穏やかな会話に安堵したようで張り詰めていた空気が元に戻っていった。


 しかし、すぐにガタンという音が聞こえると再び空気が張り詰めたように感じた。


 何があったのか音の方向を見ると美しい黒髪を振り乱しながらこちらに美女がどこかぎこちなく歩いてきた。


 俺の目の前まで来ると少し顔を赤らめながら口を開いた。


「ドレスコード子爵。私からも賛辞を送りたいと思う」


「あ、アルカーラ様ありがとうございます」


 俺は思わぬ展開に焦って噛んでしまった。


「そ、それではな」


 そう言って直ぐにクレアは元々話していたグループに戻っていった。


 クレアには色々と恨みを買っているから裏がないかめちゃくちゃ不安なんだが……


 まあでもクレアとの会話も穏やかなものであったので教室内の空気は緩和した。


 それから、ミストも自分のグループに戻っていた。


 俺が1人になるとクラスメイトの何人かが俺のところに集まって来た。


「こんにちは!クリス君って呼ばせてもらってもいい?」

「クリス君って賢いんだね!昨日の挨拶よかったよ!」

「今度わたくしに勉強を教えてくれませんか?」


 俺が、ミストとクレアとのわだかまりが無いと知れば急に集まって来て現金なやつらめ!


 でも、悪くないなぁ〜。ってか正直人気者になれたようで嬉しい。


 それに単純に仲良くなりたかったけどミストとクレアのせいで声がかけられなかったのはしょうがないしなぁ!


「待って待って!そんなに一度には答えられないから!」


 俺は満面の笑みを浮かべて答えた。


 その時ーーバンッと音をたてて扉が開いた。


音を聞いた生徒が一瞬で静まり返り、扉の方を向いた。


扉が開いた所には、腕を組んで、顔を茹ですぎたタコのように赤くした低身長の男がいた。


それから、腕を組んで仁王立ちになりぐるりと見回すと俺の方に視線合わせ口を開いた。


「クリス=ドレスコード!!放課後校舎裏に来い!!」


 それだけ叫んでアルフレッドは帰っていった。


アルフレッドが去ってからも沈黙の時間が流れたが、一分ぐらい経つと俺の周りにきていた学生達が沈黙を破った。


「ク、クリス君、それではこれで〜」

「失礼しました〜」

「お、おほほっ失礼致します〜」


 周りに来ていた子たちが蜘蛛の子散らすように去って行く。


 俺は縋るように周りを見回すと皆が目を逸らし、ミストの方を見ると我関せずと黙って首を振っていた。


 どうしてこうなった!?

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コミックス2巻6・26日に発売ですよろしくお願いします>
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