入学式
「クリス=ドレスコード君はどこかな?」
俺は、バレないように黙りこんでおこうと思ったがクラスメイトがキョロキョロと見渡し始め、バレるのも時間の問題だと感じたので、ゆっくりと肘から先だけ伸ばして、座ったまま手を挙げ口を開いた。
「はい」
クラスメイトの目線が俺に集中するが、入試で1位を取ったものに対して、適切な嫉妬や羨望の目ではなくどこか哀れみの目を向けられた。
俺は、己が一位であると信じて疑っていなかった2人の表情を恐る恐る見た。
クレアは未だにポカンとしており、ミストは俺の事をジト目で睨みつけてくる。
ついでにアリスを見ると先程の反動からか、両拳を握りしめ今にも飛び上がりそうな位めっちゃくっちゃ嬉しそうな顔をしていた。
「じゃあ、クリス=ドレスコード君。新入生代表の挨拶は考えておいてくれ」
「は、はい……」
「それじゃあ、出欠確認を始めるぞ。それじゃあ出席番号一番の……」
カーラル先生が出席を取っている間も誰かしらの視線が途切れる事は無かった。
さて、何て挨拶しようか。それに、ミストとクレアから何て言われるんだろうか。アリスをどうやって煙に巻こうか。
俺は、酷い胃痛を感じながらも必死に脳を回転させた。
「それじゃあ、今から入学式を行うので式場へ移動する。アメリシア様とクリス君は、入学式の最中に指示に従って壇上で挨拶をしてもらう」
「ハイ!!」
「はい……」
アリスはハイ!!と食いかかっていく勢いで嬉しそうに返事をした。そんなアリスに反して俺の気分はローだ……
「それでは付いてくるように!あと、入学式が終わればそのまま解散だから荷物を持ってきてるやつは式まで持っていってそのまま帰ってもいいぞ!」
カーラル先生を先頭に子連れのカルガモのようにして式場へ向かった。
俺は教室を最後にでて、俺の方をチラチラと見てゆっくりと歩くアリスを見て、何度も靴紐を結び直し距離を保ちつつ式場に到着した。
流されるままに式場に入ると上級生が好奇の視線を新入生に向けている。
その視線から逃れるようにして用意されていた空席に座る。
そうこうしているうちに席が埋まっていき、埋り終えると式が始まった。
式では何だか偉そうな人達の長い話が新入生と在学生をうんざりとさせた。話が終わるとそんなうんざりとさせる話より聞きたくない言葉が告げられた。
「それでは、新入生代表の方。壇上へとお上がりください」
俺とアリスは、立ち上がり指示に従って壇上へと上がる。
壇上に上がり、辺りを見回すと全員が食い入るようにしてこちらを見て来る。
ううっ。緊張するな。アリスは大丈夫なのだろうか。
ふとアリスの方を向くと背筋をピンと張って堂々としている。
流石は王女ってことか。こういう景色に慣れているんだろう。
こんな女の子が堂々としているんだ。情けない姿を見せられないな。
「ーー学園生活を悔いなく過ごすことをここに誓います」
俺もアリスの様に堂々として、無難な挨拶を終えた。
次に、アリスの挨拶の番だがどういう訳か話し始めない。
俺は、小声でアリスに語りかける。
「……僕の番は終わりましたけど」
「ひゃ、ひゃあ」
アリスは、俺が語りかけると情けない声をあげた。
こいつ、緊張してないんじゃなくて緊張し過ぎてフリーズしてやがった。
「だ、大丈夫か?」
「だ、大丈夫じゃない」
俺たちは視線も体勢も変えずに小声で話した。
次第にアリスが挨拶を始めないので会場がざわつき始める。
「お、おい……」
「お願い、手握って」
アリスが唐突に俺に訴えた。
「はあ?何で……」
「本当にお願い。前みたいに握って……」
アリスの目に涙が浮かんできたのが見え、周りから見えない様にしてアリスの手を握った。
手を握るとアリスは顔を綻ばせ、今までの態度から想像出来ないほど饒舌に話し始めた。
そして、挨拶を終えると会場が壮大な拍手で沸き返った。
「アメリシア王女様ありがとうございました。それでは、席にお戻り下さい」
おい、俺も挨拶したのにアリスだけに礼を言うのかよ。
少し引っかかるところはあったが従順に司会の人の指示を聞き、アリスの手を離した。
アリスはとても名残惜しそうな顔をしていたが俺と共に席に戻った。
俺は、席に戻ると真っ先にハンカチを取り出しビシャビシャになった片手を拭き取った。
アリスどんだけ緊張してたんだ……
そうこうしている内に入学式も校長から終わりの言葉が告げられ入学生の退場が始まった。
俺は、式場から出ると真っ先に寮に向けて歩を進めた。
はあ〜長い一日が終わった〜
もう、今日は疲れたし早く風呂に入って早く寝よう!
俺は、さらに足を速めて寮までの道を辿る。
寮に到着して力強く玄関の扉を開ける。
階段を駆け上がり、俺の部屋の鍵を差し入れ回す。はやく帰りたい気持ちが焦らせるのか開かない。
もう一度逆方向に鍵を回すと扉が開き俺は勢いよくベッドに突っ込もうとしたが……
「な、何でミストがここに居るんだ?」
「おかえり。早かったね。細かい事は良いじゃないかドレスコード子爵」
俺のベッドの上で桜色の髪をした少女が、豊かな双丘を枕に乗せるように抱えて、カラカラと笑った。
俺の一日はまだ終わらないようである。





