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やってけそうにない

 

 俺は教室の後ろ側のドアを静かに開けて、揉め事に巻き込まれないよう、教室にこっそりと入り、空いていたドアから一番近い一番後ろの席にサッと座って聞き耳をたてた。


「いやぁ、クレア殿。久しぶりだねえ」


「あぁ。これから、久しぶりという機会が減るのが残念で仕方ないな」


 ミストの何気ない挨拶に対してクレアは、間髪入れずに、定形化された日常会話の如く淡々とと皮肉を言った。


「まぁまぁ。今後2度と会えなくなるかも知れないんだから短い間くらいは、よく会っておこうじゃないか」

 

「それもそうだな。顔だけでピアゾンの三女と分かるように今の内によく見ておかないとな」


「そうだね。もし、間違えて褒美をあげたら大変だからね」


 冷たい笑みを貼り付けながら刺々しい会話を交わしている2人に、周りの入学生は面倒に巻き込まれないように目をそらし怯えて震えていた。


 その中で唯一見ている、金髪の美少女は、誰よりも青白い顔をして、腰に引かれるのに抗い、自分に言い聞かせるよう呟いている。


「こ、この2人を止められるのは、か、家格的に、わ、私しかいない。み、みんな怖がってるし、わ、私がやるしかない。こ、怖いけど、私がやるんだ、私しかいない、私しかいない……」


 アリス、めっちゃ追い込まれてるやん。


 顔色めちゃくちゃ悪いし、腰の引け方が半端じゃないわ。スキージャンプのジャンプの飛ぶ前くらい引けてるわ。


 そんなアリスや震え上がるクラスメイトが見えていないのか二人は会話を続ける。


「そう言えば今日の入学式前に試験の結果の発表があるらしい。もちろん、好成績を収めたのだろう?」


「まあね。解答用紙の返却もあるから、一緒に答え合わせでもしないかい?採点ミスがあれば大変だからね」


 うわっ、ミストが大貴族の特権の不正な採点をサラッと潰しに行きやがった。


「私を舐めているのか?入学試験の問題なんか採点ミスなど無くとも余裕だよ。それどころか私が一番なのは間違いないな」


 クレアが嘲るかのように、はっと息を吐いてからミストに胸を張って言い放った。


「へえ?言うじゃないか。それじゃあ、もし私が一番だったら何かしてくれるかい?」


 ミストの言葉にクラスの人間がざわめく。


「ああ、良いだろう。お前が一番なら、これから私はクラスで一言も話さず静かにしておいてやる。その代わり、私が一番なら同様の条件を飲んでもらおうか?」


「いいねえ!すっごく面白いじゃないか!その条件飲もう!」


 妙な方向に転がった話を聞いたクラスメイトの不安や心配をよそにして、2人は、自分が一番であると全く疑っておらず、邪魔者を黙らせる事ができたと晴れやかな顔をしていた。


 するとその時、授業の始まりを告げる鐘が鳴った。


 鐘が鳴ると同時に教室の扉がガラガラと開いて、30〜40代くらいの如何にも教師といった風貌の男性が部屋に入ってきた。


 男性は、教室の複雑な空気を気にもせずに口を開いた。


「えと、取り敢えず席についてもらっても良いか?」


 クレアとミストは、ご機嫌なのか優雅に礼をして、ゆっくりと席に着いた。


「これから、担任を務めさせて貰う担任のマークス=カーラルと言う。これから、よろしく頼む」


 教師が自己紹介を終えるとぽつぽつと拍手が聞こえた。


 この状況で拍手ができる余裕があるのは当事者の2人だけだろう。


 というか何だこの状況。折角、同じクラスに王女と大貴族の侯爵家の娘と伯爵家の娘が居るっていうのに、嬉しそうにしてる奴が1人も居ない。


 親から繫がりを持つようにと言われてるやつは胃酸ダラダラだろうな。


「さて、それじゃあ出席を……」


「カーラル先生!」


 出席を取ろうとした先生をクレアが妨害した。


「うん?えっと、君はクレア=アルカーラ君だね?どうかしたのかい?」


「はい。先生は、今回の入試の結果をご存知ですか?」


 クレアは、ニコニコとしたご満悦顔で先生に尋ねる。


「もちろん知っているさ。これから、入学式の入学生代表の挨拶をアメリシア王女と共に行うのは、今年の学力試験の1番になっているからな」


 うわー。アリスめっちゃ嫌そうな顔してるわ。

 さっきも、結局止めに行けなかったもんな……

 あんだけ自己暗示かけて行けないって相当怖いんだろうな。


「そうですか。それでは、挨拶を考えたいので一番先に誰か教えてもらっても良いですか?」


 クレアがそう言うや否や教室の空気がひりついた。


「うん?まあ、いいか。分かった。こう言うのは早い方が良いだろうしな」


 カーラルは、このひりついた空気にはそぐわない余りに呑気な声で答え、場を更にひりつかせる。


 この態度から、さすがに空気の読めないカーラルという人間性がわかると言うものだ。


 それから、カーラルが出席簿を取り出して、出席簿から探しているのか出席簿から目を離さず、口を開く。


「ええと、今年の学力試験の1位は……」


 さらに、緊張感が高まっていく。


 クラスメイトのドクンッドクンッと心臓の音が聞こえてくるようである。


 アリスなんかは、額のまえで手を組み祈りを捧げている。


 するとついに、カーラルが生徒の方を向いて告げた。


「今回の学力試験1位は、クリス=ドレスコード君だね」


 緊張した空気がプシューと音を立てて抜けていくように感じ、教室内のカーラル先生と俺を除いた全員がポカンとしている。


 うん。まぁそうだと思ったよ……

 どうしようかこの状況。これから俺はこの学園生活やっていけるのだろうか……






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コミックス2巻6・26日に発売ですよろしくお願いします>
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