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入寮

 朝と言っても早朝。


 早朝は、清々しい気持ちを与えてくれる。


 朝露に濡れた葉は、新しい太陽の誕生を祝福するかの様に輝き、目を愉しませ、普段は忌むべき張り付いて来る冷たい空気は、この時間だけ何故か心地よさを与えてくれる。


 早朝を好む人も多いだろう。


 大半の人間は、この後に仕事や学校がある為、嫌な事に立ち向かう為の現実逃避させてくれる空間になり得る為、心地よさを感じるのかもしれない。


 というのも、この時間が永遠に続けば良いのにと愚考しているからである。

 そう、今日は学園の入学式である。


 時間が進むのを恐れる俺の願いをあざ笑うかの様に太陽は登っていく。

 それに伴い、俺と荷物を乗せた場所も学園へ近づいていく。


 入学式は、午後からで、入寮が午前中にある。


 俺のように王都へ通えない貴族は、入寮するか王都の貴族街の屋敷に住むかの二択がある。


 後者の方から説明すると、王都には貴族街が存在し、大貴族や有力貴族などは、そこに屋敷を構えている。ここに大きな家を建てる事が一種のステータスになっており、大貴族達は滅多に来ない屋敷に大枚をはたくのだ。


 そして、王都に屋敷を持たない、比較的家格の低い貴族は王都の寮に下宿することになる。


 しかし、寮と言っても侮るなかれ。貴族の子弟が、住むことになる寮だ。そんじょそこらの宿とは訳が違う。

 まず、第一に大きく、2人につき一部屋が与えられる。一部屋二人と聞けば狭く感じるだろうが、そんな事は無い。というのも、連れてきたメイドや執事などの使用人を合わせて、二人一部屋と定められているので、実質、使用人を連れて来ない下級、中級貴族は、広い部屋を利用できる。


 さらに、警備の兵は、男子寮、女子寮合わせて常に数十人もの王国騎士が警備についており、食事も全員同一のものを食堂で手配される為、毒殺や暗殺などの心配をせずとも良い。


 それに、改築に次ぐ改築で豪奢な所であると聞いている為、非常に住みやすい環境であると思っている。


 心地の良い時間は直ぐに終わるものである。

 ついに学園に到着し、警備兵は御者に対して馬車を止めるようにと片腕を馬の前で水平にし、馬車を止めた。

 すると、警備兵が何度も繰り返して来たのか、感情が感じられない声で俺に尋ねた。


「失礼いたします。本日、入学生の方ならば合格通知の方をお見せ下さい」


「あぁ。はい」


 俺は、鞄から合格通知書を出した。


 入学試験は、無事合格であった。

 まぁ、合格した確信があったので合格したことには手応えを感じていたので、何も驚きはなかった。


 合格した事を家臣に告げたのに、ジオンやハルやユリスなど試験を経験した人間にすら一ミリも驚かれず、流されたのでは少し寂しかったなぁ。


 警備兵は、じっくり目を通すと口を開いた。


「入学おめでとうございます!寮の方は門を入って直ぐに右へ曲がり、そこから学園の端まで進めばございます。寮の前には、係のものが居ますので、そのものの指示に従い入寮手続きの方をお願いします」


「わかりました。ありがとうございます。御者さん、馬車を出してくれ」


 すると、学園の鉄で出来た蜘蛛の巣のような門が開かれ馬が歩き出し、車輪が地面に傷跡をつけ始めた。


 学園の鉄で出来た蜘蛛の巣のような門をくぐる際に、門がこれから、気を抜けば、気づかずに蜘蛛の巣にかかり食い殺されてしまう、貴族社会を風刺した物のように感じ、冷や汗を流した。


 そのまま、馬車を進めると無事、寮前についた。


 寮は、大きく二階建てになっており、外観も赤い煉瓦で組み立てられ噂通り豪奢な物であった。


 凄いなぁ。思っていたより、豪奢でこんな所に住めるのか。貴族に生まれて良かったなぁ。


「入寮者の方ですか?入寮手続きをしますので合格通知書と学生証を持ってこちらに来て頂いてよろしいですか?」


「はい」


 俺は指示に従い、入寮の手続きを終えた。


「こちらがお部屋の鍵となります。後は、お部屋の方に荷物を運んで頂いて完了となります。それでは良い寮生活を」


 そういうと係の人は、次の入寮者に声を掛けに行った。


 それから俺は、勤務内容外だと嫌がる御者さんを無理やり荷物運びを手伝わせて完了すると、御者さんに礼を言って帰ってもらった。


 部屋は、ちょっとした運動が出来そうな位広く、おしゃれな机と椅子、燭台、そしてベッドが置いてあった。


 うん。うちより、全然住みやすいんだが。


 そして、新たな生活に胸を膨らませつつ、学園の制服に袖を通して入学式へと向かった。



 寮から学園までの道をたらたらと歩いてロビーに到着すると、そこには、制服を着た入学生がわらわらと掲示板に貼り付けてある紙に向かってむらがっていた。


 俺もその紙の内容を見るべく、その集団の一員となった。

 紙には、名前と出席番号がクラス別に分けられた物が書かれていた。


 あった、あった。俺は、一クラスだ。じゃあ、教室に向かうか。


 俺は、階段を登り、自分のクラスの教室を見つけた。


 色々困難はあるかも知れないが、俺の薔薇色の学園生活がこれから始まるんだ!楽しまないと損だ!楽しみながらやり遂げてやる!


 これから始まる学園生活に期待と不安を入り混じらせてドアを開いた。


 ドアの中には、みた事のある黒髪と桜色の髪の少女が睨み合っており、それを見てあわあわしているこれまた見た事のある金髪の少女がいた。


 ーーピシャリ


 入り混じっていた期待が不安に染まった衝撃でドアを閉めてしまった。


 お、俺の学園生活が……

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コミックス2巻6・26日に発売ですよろしくお願いします>
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